ナイショの妖精さん

くまの広珠

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4 何度、桜の季節が来ても

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 ……さっきまで泣いてたのに……。


 トレーナーの中は絆創膏ペタペタなくせに、いつものサラッとすずしい顔をしてる。


「……うん」


 わきによけたら、ヨウちゃんはササッとレモンバームを千切りし直した。そうして、なべに入れて、コンロの火を微調整。


「これ、コツがいるんだ」


 じっと、なべの中で泡立つ深緑色の液体とにらめっこして、カチッと火をとめる。


「で。すぐにビーカーにうつす」

「う、うん」


 サッと、なべの液体をビーカーにそそぐと、きっちり百ミリリットル。


「う、ウソぉ!」

「慣れだよ、慣れ」


 ヨウちゃんは、グリセリンとはちみつを足すと、混ぜ棒でかきまぜた。それをあきビンにうつしかえる。

 ビンの中に入った液体が、虹色にかがやきだした。

 虹色なのは、フェアリー・ドクターの薬が成功したあかし。


「えええっ!?  い、一発っ!? 」


 だって、ちょっと前まではヨウちゃんだって、何度やってもしっぱいばかりだったのに。


「オレはおまえとちがって、しょっちゅう薬、つくってるからな。最近じゃ、はじめは失敗したって、二度目では成功だな。――鵤さん、すみません。これ、塗ってもらえませんか? 背中とか、自分じゃとどかないところがあるので……」


 ヨウちゃん、薬ビンを持って、さっさと行っちゃう。


「ね、ねぇ。あたしが塗ってあげようか?」


 あわてて追いかけたら、ふり返ったのは、冷たい目。


「綾。おまえ、そんなに、人の裸にさわりたいわけ? いいから、おまえは外行って、花でも見てろ」


 ぐ……。


 なによ~……。

 レモンバームを持ってきたのは、あたしなのにぃ~……。





「綾ちゃん、もう入っていいよ」


 パンジーの花壇の前にしゃがんでいたら、鵤さんが管理棟から出てきた。


「はい~。だけど、あたしなんかいらないみたいだし~……」


 ぶうと、ほおをふくらませたら、鵤さんはにっこり。


「いやいや、綾ちゃんのおかげで助かったよ。わたしもつきあいのある業者に、一通り電話してみたんだけどね。レモンバームは時期じゃないから、どこも『ない』って言われてしまってね。

まぁ、きょうは土曜日だから、土日休みの業者に、月曜日にまた、あたってみようって、葉児君には話したんだが。正直、ない可能性が高かった。だから、綾ちゃんが葉を手に入れてきてくれて、わたしも葉児君もとてもありがたかったんだよ」

「ホントですか~? ヨウちゃん、ちっともありがたそうになんか、してなかったけど~」

「まあまあ。あれは、あの子なりの照れ隠しだよ」


 え~? ウソぉ~。


 鵤さんに背中を押されて、あたしがしぶしぶ管理棟にもどったら、ヨウちゃんはパイプイスに腰かけて、足を組んで、腕組みしていた。


 なにあれ? 治ったとたんに、エラそうだし。


 お母さんと話してる内容に耳をかたむけたら。ハグをお父さんから追い出して、お父さんをお墓にもどす方法を考えているみたい。


「これがつかえると思う」


 ヨウちゃんは、ジーンズのポケットから取り出したものを、つくえに置いた。ビン。中に、虹色にかがやく粉が入っている。


「ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダー。これだけはなんとか、割られずに守れた。これは結界を張ったり、精霊を呼び出したり、超自然の力を借りて、儀式を行うときにつかう。ハグに言われて、とうさんをよみがえらせたときにも、これをつかったんだ。

で、考えたんだけど、とうさんをよみがえらせたときの儀式を、終わりから逆に試してみようと思う」
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