上 下
19 / 21

episode.18

しおりを挟む



「2人とも怪我は無いか?」
「大丈夫、です…。すみません、魔力を多く消耗してしまった反動で……」

イブは1人で立ち上がることもままならず、ロベルトの肩を借りて何とか立ち上がる。ルフィナはロベルトの足元に自力で立っていて、イブはなんだか大人なのに情けなく思えてくる。

「謝らなくていい。ここがすぐに分かったのはお前のおかげだ」
「いえ…。ルフィナを守れなくて………」

元々低い自己肯定感が、更に低くなる。そんな時、どこかからまた足音が聞こえてきて、イブは緊張感を高めた。

「無事だったようだな?」
「でっ!?殿下!?!?」

てっきり、あの野蛮な男達かその仲間がやって来たのだと思って身構えていたイブは、そこに現れたのがダンテ・ルミナス第二王子と側近のレベッカだった事にこれ以上無い程に驚いた。

なぜ彼ら程の人がこんなところに、とロベルトを見上げるも、白々しい程の知らん顔をされるだけだった。

「あ、あの…誘拐犯がいたと思うんですけど…」
「下の奴らなら問題ない。他の兵に引き渡してきた」
「殿下が……ですか…?」
「素人のようだったし、すぐに終わったさ。お前が手こずったのはコレのせいらしいな」

そう言ってダンテが内ポケットから取り出したのは、あの男達が持っていたカードだった。

「おかしいと思ったんだ。宮廷魔導士を勤めていた程の魔術師が苦戦するような相手じゃ無かったからな」
「すみ、ません……。私が無力なせいで、そんな相手の為に殿下や皆さんの手を煩わせてしまって…」
「っはは!それは構わない。罪は罪だからな。それに、ロベルトの面白い顔も見れた」
「………?」

面白い顔、とは一体何なのかとロベルトを見上げるも、いつもの無表情のままイブの視線には気づいているはずなのに目を合わせようとしない。

その様子を見て、ダンテは「クククッ…」と堪えきれない笑いが漏れていた。

「もう良いだろう。早く2人を休ませたいんだ」
「ああ、そうだな。引き止めて悪かった。俺たちも戻ろう」

ダンテが行ってしまう前に、イブは慌てて声をかける。

「あ、あのっ、殿下!助けて頂いて、本当にありがとうございました」
「礼なら、宮廷魔導士に戻って貰えれば十分だが?」
「…………………それ、は…」

目を逸らしたイブを見て、ダンテはフンと鼻を鳴らし笑みを浮かべた。

「冗談だ。お前にはお前の人生があるからな。俺は、未来にどれ程優秀な魔導士が現れるか、気長に待っている事にする。まあ、戻りたくなったらいつでも歓迎するがな」
「…もう少し、働きやすい環境にして頂ければ………」
「全くだな。未来の優秀な魔導士の手前だ、善処しよう」

ダンテは、ちっぽけな魔女のわがままに気を悪くする様子もなく、最後にルフィナに「よく耐えたな」と声をかけて部屋を出ていった。

その後はなんだか気が抜けて、馬車に揺られているうちに意識もぼんやりしてきて、気がつくとロベルトの屋敷に着いていた。

ルフィナも安心と疲労でぐっすり眠ってしまったようで、ゆすっても起きず、お屋敷の使用人が抱えて自室へと連れていった。

馬車の中で2人きりになるとロベルトが先に口を開いた。

「今夜は泊まっていけ」
「え?いや、私は大丈夫ですよ?」
「泊まっていってくれ、頼む」
「……………では、お言葉に甘えて…」

そんな風に弱々しく言われたらそうするしか無い。よく考えてみればイブの家は元々片付いているとは言えないが、今はよりひどい状態になっているはずだ。まずは壊されたドアを直さなければいけないし、ロベルトはそれを考慮して提案してくれているのだろう。

馬車を降りる時も丁寧に手を取られ、イブの小さな家に比べたら何十倍もあるお屋敷の中を歩くにも、もう1人で歩けるまでには回復していると言うのに、どういう訳かピッタリと横につけられていて気恥ずかしい。

「ここだ。奥に浴室があるから先に体を流すと良い。1人向かわせるから少し待っていてくれ」
「え…?」

そう言って部屋に通され、圧倒されている間にロベルトは扉を閉めて行ってしまった。そこはイブの家なんかより余程広くて綺麗にされている。宮廷にいた事があるイブは、お貴族の生活がどれほどのものか知ってはいるが、やはりそこに自分がいるとなるとどうにも場違い感が否めない。

汚れた体で休むわけにもいかず、言われた通り先に体を清めようとよろよろと奥へ足を進めていたその時、コンコンコンと部屋がノックされ、ロベルトが来たのかとイブは返事をした。

だが、扉を開けたのはメイド服に身を包んだ女性だった。

「失礼致します、イブ様。お支度の手伝いをするよう仰せつかってまいりました」
「え?」
「すぐに湯浴みの準備をしますので、少々お待ちいただけますか?」
「い、いや!そんな、1人で大丈夫です!」

自分なんかにお世話係をつけてもらうなんて烏滸がましい。急に来て部屋を用意してもらっているだけでも厚かましいというのに。

だが、同年代程のメイドは困ったように眉尻を下げ微笑んだ。

「ですが、旦那様からイブ様のお身体にお怪我が無いか見るように言われておりまして…」
「お風呂で…ですか…?」
「はい」

何かおかしいかとメイドは微笑んでいるが、絶対におかしい。なのにどうしてかそれを指摘できない。自分の感覚の方が間違っているような気になってくる。

「では、すぐに準備いたしますね」
「……………」

そう言ってスタスタと部屋の奥へと消えていくメイドの姿を、イブはただ呆然と立ち尽くしたまま見送った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

処理中です...