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episode.22
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先生のところへ案内してくれないかと突然リディオに言われたのは1ヶ月前。
何だろうと思いつつ快諾したものの、なかなか都合が合わず、かと言って夜に霊園に足を運ぶのは別に怖いとかでは無いのだが気が引けたので、リディオ1人でも行けるように説明しようとすれば、出来れば共に行きたいと言う。
そんなわけでようやく今日、リディオとの時間が合わせられて、カストに店を預けて来た。
「リディオさんは先生の事知らないって言ってましたよね?」
「どこかで姿は見かけていたかもしれないが、世話になった事は無い」
「…では何の用事が?まさか悩み事ですか?先生に相談しても良い返事なんて返ってくるはずないですよ」
「悩みでは無いが、2人には出来れば良い返事が欲しいとは思っている」
2人…?
やはり何を考えているのかさっぱり分からず、だが役目は果たそうと案内をする。
「ここです」
案内した先生の墓標はやはり綺麗にしてあって、以前ソフィアが持って来た花とは違う物が供えられている。
そこにリディオは自分が持って来た花束を重ねると自身の胸に手を置いて数秒間押し黙った。
声をかけるなんて不躾な真似はしない。ソフィアもただ黙って隣に立っていた。
しばらくするとリディオが口を開いた。
「ソフィアは、薬師としてとても優秀で、努力家で、多くの人に慕われていて、きっとあなたがそうだったから、その背中を見て学んで、その背中を今でも追いかけているのでしょう」
紡がれる言葉にソフィアは隣にいるリディオを見上げるも、リディオは真剣な顔で真っ直ぐに前を向いたままだった。
「時に頑張りすぎる彼女を支えるのは自分でありたいと、そう願っています。あなたは彼女の親のような人だと聞いたので、ぜひ見届けて頂きたい」
リディオの真剣な表情に見惚れたソフィアは、リディオが話す言葉そっちのけで、「ね?かっこいいでしょう?この人が前に相談した騎士さん!」と自慢げに先生に語りかけていた。
「ソフィア・オリアーニ」
だから突然呼ばれたフルネームに驚いて、「へいっ」と背筋を伸ばし、終わりましたかいとリディオを見上げた。
「俺と結婚しないか」
「は…………え?」
見上げるソフィアに数秒遅れてリディオがチラリと視線を向けてくる。目が合うとソフィアは余計に何が何だか分からなくなった。
「聞いていなかったのか?」
「え、いや…聞いて、ました、けど…けっ…結婚?」
「ああ」
「誰が?」
「お前が」
「誰と?」
「俺と」
「……………」
訳が分からんと立ち尽くすソフィアの前にリディオが跪くと、胸ポケットから取り出した小さな箱の蓋を無表情のまま開け、ソフィアの事を見上げていた。
「指輪は邪魔になるかもしれないと思って」
そんな事を言ってソフィアに差し出されているのは、まるで自分には似合いそうも無い小ぶりな石が光るネックレスだった。
「ほっ…本気ですか!?」
「冗談でこんな事をする男に見えるのか?」
「だってこんなこと……」
戸惑うソフィアを他所に、リディオは立ち上がるとそっと首の後ろに手を回した。
「結婚しよう、俺と」
微かに冷たい感覚が首元をぐるりと一周して、キラリと白い肌を飾る。
満足げに微笑むリディオからソフィアは目を離す事ができなかった。
「本当に、私と?」
「他に誰もいないだろう」
「えっ…ええっ………。本当に私で良いんですか?」
「くどいな」
「ああ!酷い!聞こえてますよ!!」
「なら早く返事をしろ」
うぐっと言葉に詰まる。リディオと結婚…しかも自分が…。
この人が、自分の旦那様になろうとしているなんて、誰が予想しただろうか。お金持ちのお嬢様に睨まれそうではあるが、断るなんて道はない。
「リディオさんが、私を選んでくれるなら」
「俺はお前を選ぶ。お前も俺を選べ」
「………はい」
胸の高鳴りは止まらない。もしかしたらこれは夢で、ちょうど良いところで目が覚めてしまうのかもしれないとほんの少しまだ信じられない心地でいる。
そんなソフィアの頬にリディオが手を添える。
「必ず幸せにする」
触れる唇が伝えてくる熱が、これは夢では無いしリディオの言葉も嘘偽りないと伝えてくるようだった。
先代のガルブの薬師の墓に、1人の老婆が花を持ってやって来る。
聞いたかい先代。
あの子の式の日取りが決まったようだよ。
ソフィアが結婚だなんて、ガルブ中が大騒ぎさ。
相手は騎士様ときたもんだ、噂と違って良い男だよ。上玉を捕まえたもんだね。
孫の顔が見られるのは……まだもう少し先だろうよ。
なあに、2人ともまだ若いんだ。心配しなくても、種が無くなるのはまだまだ先の話さ。
あの子にバチが当たるような事は無いさ、必ず幸せになるよ。
お前さんもそう思うだろう?
心地良い春風が「そうだそうだ」と言って吹き抜ける。
冷酷無慈悲な騎士様は、妻の前でだけは甘く心配性だと噂になるのもそう遠くない。
何だろうと思いつつ快諾したものの、なかなか都合が合わず、かと言って夜に霊園に足を運ぶのは別に怖いとかでは無いのだが気が引けたので、リディオ1人でも行けるように説明しようとすれば、出来れば共に行きたいと言う。
そんなわけでようやく今日、リディオとの時間が合わせられて、カストに店を預けて来た。
「リディオさんは先生の事知らないって言ってましたよね?」
「どこかで姿は見かけていたかもしれないが、世話になった事は無い」
「…では何の用事が?まさか悩み事ですか?先生に相談しても良い返事なんて返ってくるはずないですよ」
「悩みでは無いが、2人には出来れば良い返事が欲しいとは思っている」
2人…?
やはり何を考えているのかさっぱり分からず、だが役目は果たそうと案内をする。
「ここです」
案内した先生の墓標はやはり綺麗にしてあって、以前ソフィアが持って来た花とは違う物が供えられている。
そこにリディオは自分が持って来た花束を重ねると自身の胸に手を置いて数秒間押し黙った。
声をかけるなんて不躾な真似はしない。ソフィアもただ黙って隣に立っていた。
しばらくするとリディオが口を開いた。
「ソフィアは、薬師としてとても優秀で、努力家で、多くの人に慕われていて、きっとあなたがそうだったから、その背中を見て学んで、その背中を今でも追いかけているのでしょう」
紡がれる言葉にソフィアは隣にいるリディオを見上げるも、リディオは真剣な顔で真っ直ぐに前を向いたままだった。
「時に頑張りすぎる彼女を支えるのは自分でありたいと、そう願っています。あなたは彼女の親のような人だと聞いたので、ぜひ見届けて頂きたい」
リディオの真剣な表情に見惚れたソフィアは、リディオが話す言葉そっちのけで、「ね?かっこいいでしょう?この人が前に相談した騎士さん!」と自慢げに先生に語りかけていた。
「ソフィア・オリアーニ」
だから突然呼ばれたフルネームに驚いて、「へいっ」と背筋を伸ばし、終わりましたかいとリディオを見上げた。
「俺と結婚しないか」
「は…………え?」
見上げるソフィアに数秒遅れてリディオがチラリと視線を向けてくる。目が合うとソフィアは余計に何が何だか分からなくなった。
「聞いていなかったのか?」
「え、いや…聞いて、ました、けど…けっ…結婚?」
「ああ」
「誰が?」
「お前が」
「誰と?」
「俺と」
「……………」
訳が分からんと立ち尽くすソフィアの前にリディオが跪くと、胸ポケットから取り出した小さな箱の蓋を無表情のまま開け、ソフィアの事を見上げていた。
「指輪は邪魔になるかもしれないと思って」
そんな事を言ってソフィアに差し出されているのは、まるで自分には似合いそうも無い小ぶりな石が光るネックレスだった。
「ほっ…本気ですか!?」
「冗談でこんな事をする男に見えるのか?」
「だってこんなこと……」
戸惑うソフィアを他所に、リディオは立ち上がるとそっと首の後ろに手を回した。
「結婚しよう、俺と」
微かに冷たい感覚が首元をぐるりと一周して、キラリと白い肌を飾る。
満足げに微笑むリディオからソフィアは目を離す事ができなかった。
「本当に、私と?」
「他に誰もいないだろう」
「えっ…ええっ………。本当に私で良いんですか?」
「くどいな」
「ああ!酷い!聞こえてますよ!!」
「なら早く返事をしろ」
うぐっと言葉に詰まる。リディオと結婚…しかも自分が…。
この人が、自分の旦那様になろうとしているなんて、誰が予想しただろうか。お金持ちのお嬢様に睨まれそうではあるが、断るなんて道はない。
「リディオさんが、私を選んでくれるなら」
「俺はお前を選ぶ。お前も俺を選べ」
「………はい」
胸の高鳴りは止まらない。もしかしたらこれは夢で、ちょうど良いところで目が覚めてしまうのかもしれないとほんの少しまだ信じられない心地でいる。
そんなソフィアの頬にリディオが手を添える。
「必ず幸せにする」
触れる唇が伝えてくる熱が、これは夢では無いしリディオの言葉も嘘偽りないと伝えてくるようだった。
先代のガルブの薬師の墓に、1人の老婆が花を持ってやって来る。
聞いたかい先代。
あの子の式の日取りが決まったようだよ。
ソフィアが結婚だなんて、ガルブ中が大騒ぎさ。
相手は騎士様ときたもんだ、噂と違って良い男だよ。上玉を捕まえたもんだね。
孫の顔が見られるのは……まだもう少し先だろうよ。
なあに、2人ともまだ若いんだ。心配しなくても、種が無くなるのはまだまだ先の話さ。
あの子にバチが当たるような事は無いさ、必ず幸せになるよ。
お前さんもそう思うだろう?
心地良い春風が「そうだそうだ」と言って吹き抜ける。
冷酷無慈悲な騎士様は、妻の前でだけは甘く心配性だと噂になるのもそう遠くない。
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