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episode.11

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カストが助手となったソフィアの薬屋はやはり忙しい日々を送っているが、幾分か楽になったのは言うまでも無い。

カストは要領が良くて凄く助かっている。

「ソフィ、薬草ここに置いておくから」

「ありがとう!お客さんも途切れたし、お昼にしようか」

以前ならこの時間帯に薬草を取りに行ったりそれを調合したり、掃除や整頓をして昼休みと言う時間を過ごしていた。

それに比べたら天地ほどの違いだ。

朝に握っておいたおにぎりを2人で頬張る。カストの昼ごはんは給料天引きという形で働きに来る日はソフィが作ったり、時にはカストが料理をしたりする。

これがまた上手で驚いた。カストは母親の代わりに家族にご飯を作る事もあると言う。納得の美味しさだった。

「最近、あの騎士さん来なくなったんじゃね?」

「リディオさんなら、出張で王都にいないよ」

「へぇ~…。喧嘩でもしたのかと思った」

「しないよ。何で喧嘩なんて」

「だってソフィとあの騎士さん、付き合ってんだろ?」

10歳の少年の言葉に、ソフィアは米粒があらぬところへ入り込んで「ゴフォ!」と咽せた。

しばらくゲッフゲッフと咳き込むソフィアに、カストが呆れ顔でお茶を差し出してくれる。

あんな爆弾さえ投下しなければとてつもなく良い助手なのだけれど。

「つ、つき!?なんで!?」

「え?だっていつも来てるじゃん。俺結構すれ違ってるし」

カストは日が暮れる前には家に返している。そしてリディオは夕方にやって来る事も多々ある。その時にすれ違っていたらしい。

リディオは昼間にやって来る事も稀にあって、その時にカストと顔を合わせた事があるから覚えたのだろう。

「リディオさんはそういうのじゃないから!この薬屋の事を心配してくれてるだけ!」

「………なんで?」

「なんでって……………なんでだっけ…」

「ソフィの事、好きなんじゃねえの?」

ボッと顔から火が出そうに熱くなった。耳まで赤くなっているに違いない。

「そんっ…!そんなわけないって!」

「ソフィは好きなのか?あの騎士さんの事」

「!?」

10も歳の離れた子供に揶揄われている。生まれてこの方、恋だ愛だ、好きだ嫌いだという事に無頓着に生きてきた弊害がこんな所で現れるとは思わなかった。

今時の子供は随分ませている。

「もうこの話はおしまい!リディオさんが帰ってきても、絶対変な事言わないでよ?」

「ソフィが騎士さんの事好きだって話?」

「なっ!?ち、違う!!絶対そんな事言わないでよ?リディオさんは王宮の騎士なんだから、変な噂が立ったら迷惑になるから!!」

カストの肩をガッチリ掴んでブンブン揺さぶると「分かった分かった」ともはやどちらが歳上なのか分からない返事が返ってきた。

ほんとにもう、裏のおばあさんと言いカストと言い、勘弁して欲しい。

ソフィアはカストより一足先におにぎりを食べ終えると、そそくさと表のカウンターでゴリゴリと、それはもう無心で干した薬草をすり潰した。


⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎⚫︎⚪︎

「プシュン」とくしゃみが出たリディオは用意して来た水筒に口をつけ一口含み顔を歪ませると、「ゴキュン」と喉を鳴らして飲み込み「ケホッ」と咳き込んだ。

「なんだリディオ、風邪か?」

「いや」

フォード騎士団基地は王都より北に位置していて、確かに王都よりは気温は低いが寒いという程でもない。

疲れが溜まりつつあるとは言え、この程度で体調を崩すほどやわではない。

くしゃみはともかく、咳の原因は紛れもなくこの水筒に用意してきたお茶だ。

ソフィアが金平糖のお礼にと善意でくれた薬膳茶だ、大事に取っておくのは流石に気持ちが悪いかと思い、ありがたく頂くことにしたは良いものの、やたらと苦い。

ソフィアはこれを平気で飲んでいるのだろうかと、もし平気で飲んでいるならその味覚を疑うほどに苦い。

良く言えば、凄く効きそうなお茶である。

いや、もしかして味覚に異常をきたしているのは自分なのかとあまりの苦味に思考までおかしくなる。

「バルトロ。お前これ、飲んでみろ」

「え?」

一応確認しておこうと一緒に来ていたバルトロに水筒を差し出すと、一瞬怪しんだものの匂いを嗅いで「漢方か?」とぽつりと漏らし水筒を傾け、そして………

「ブーーーッ!!ゲヘッ!ゴホッ!!」

「汚い」

そして吐き出した。

「何だこれ?大丈夫なやつか?」

「大丈夫は大丈夫だろうが、俺の味覚が間違いじゃないようで良かった」

「罰ゲームじゃねーか!」

罰ゲーム…確かに。嫌がらせという線もあるが、ソフィアに限ってそんな事はしないだろう。される心当たりもない。

恐らく、いやほぼ確実に、善意の薬膳茶だ。であれば飲む他にない。

「……良く飲み込めるな」

「疲れた時に飲むと良いと言われて貰ったんだ」

「誰だよこんなもの………あ…ははーん?ソフィちゃんだな?」

「…」

「時に無言は肯定を表すんだぞ?それじゃあ飲まないわけにはいかないもんなぁ」

味見をさせる相手を間違えたかもしれない。

とは言えこの強烈な苦味は、今は気軽に様子を見に行くことも出来ないソフィアを、お茶を飲むたびに思い起こさせる。

無理をしていないだろうか。

姿が見えないだけで、こんなにも気がかりになるとは思っていなかった。

もう一口、お茶を飲む。激烈に苦い。

次はもっと薄めて飲もうとリディオは心に誓った。

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