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第6章 憤怒の憧憬

28話 別√① sideオズワルド

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「リュートっ!!!」

レイアスのリュートを呼ぶ声が響く。
けれど、転移陣が発動し、無情にも2人とは分断されてしまった。

「ここは……」

眩い光が収まり、目を見開くと先程とは別の空間へと飛ばされていた。
黒い壁に黒い床、悪趣味で気分が悪い。

「どうやら、ユーリア達は俺達とは別の空間へと飛ばされたようだな」

もしかしてと期待をしてみたが、やはり2人とは完全に分断されたようだ。

「……そうみたいだね。此方も早いところ出口を探して、2人と合流しよう」

レイアスはリュートへとのばしていた手を下ろすと、此方を振り返って今後の方針を話した。
その表情に特に心配や不安はなく、いつもの薄ら寒い笑みを浮かべている。

「そうだな、それが最善だ」

2人の事は心配だが、リュートがついていれば安心だろう。

「…………なんで⎯」

「アシュレイ?」

アシュレイがレイアスを睨みながら、ぼそりと何かを呟いた。

「何でリュートの方に行かなかったんだ?」

「何でと言われても……別々の魔法陣で飛ばされてしまったからね」

レイアスは困ったなと、苦笑いを浮かべた。

「……あんたなら、向こうの魔法陣に入れただろう。途中であんたの足は止まってた」

けれど、アシュレイはそんなレイアスの答えに不満だったらしい。
更なる追及をした。

ほう……アシュレイも気付いていたか。

レイアスはリュート達の乗る魔法陣に足を踏み入れようとした瞬間、足を踏み入れる事を躊躇した。
結果、リュートとユーリアは2人だけで飛ばされた。

理由は……まぁ、分からない事もないがな。
俺も自分の立場であったなら、そうしたであろうし。

「まぁ、此方には王太子殿下がいらっしゃるしね……戦力的に考えて、明らかに向こうの方が戦力過多だし」

涼しい顔で、建前を言ってのけるレイアス。
アシュレイも渋々ながらこの理由には納得出来るのか、引き下がった。

ここはアイツの顔を立てて、俺もそういう事にしておいてやろう。
全く、面倒な性格をしている。

「……これは貸しだからな」

俺はレイアスだけに聞こえるよう、小さい声で呟いた。

「何が? だって、リュー達は大丈夫だろうけど、僕が此方につかないとオズは死ぬ可能性が高いだろう? ほら……弱いし?」

しかし、レイアスから返ってきたのは嘲笑で、あからさまに俺を煽っていた。
建前で隠した本当の理由を、レイアスは認める気はないらしい。
苛立ちを押さえられないでいる。

「……お前、それは俺に喧嘩を売ってるのか?」

安い挑発だというのは分かっている。
だが、ムカつくものはムカつくのだ。

「喧嘩も何も……事実だろう?」

「そう言う事は、俺に試験で勝ったら言うんだなっ!」  

「へぇ……じゃあ、今証明してあげようか?」

もう売り言葉に買い言葉だ。
本当はレイアスが手を抜いて、自分を俺の下に置いているのは気付いている。
レイアスの言うことは、あながち間違っている訳ではない。

「殿下方、落ち着いてください。今は緊急事態ですよ」

一触即発の空気の中、凛とした声が俺達を止めさせた。

「……すまない、ロゼアンナ嬢。確かにそんな場合ではなかったな……レイアス、話はここから出たらゆっくりするぞ」

「はいはい……悪いね、ディール嬢」

ロゼアンナ嬢の言う事は最もだと、一先ず俺達は矛を納めた。

実際問題、この隠し部屋の難易度によってはリュート達よりも俺達の方が危ない。
気を引き閉めて行かねばならないのに、言い争っている場合ではない。

「じゃあ、僕が先頭に立つから。オズ達は後ろをお願い」

「……あぁ」

そう言って前を歩き始めたレイアスに続いて、俺達も後を歩き出す。

全く素直じゃない奴だ。
人に喧嘩までふって誤魔化そうとして。
……もっと、自由に生きればいいものを。
アイツは認めようとしなかったが、親しい者から見ればすぐに分かる。
レイアスは、俺の為に此方に残ったのではない。
まぁ、ほんの少しは考えていたのかも知れないが。

「……アシュレイも戦闘に備えておけ」

「はい、殿下」

俺の一歩後ろを歩くアシュレイに声をかけると、アシュレイは剣を構えて警戒態勢をとった。

目の色も髪の色も母親譲りなのであろう、アイツと似たところはあまりない。
だが、こうして剣を握った時は、やはり兄弟なのだと思った。
どことなく、雰囲気が似ている。
そして隠しているようだが、アシュレイはレイアスの事を兄として認めているようだ。
2人とも素直じゃない所も、よく似ていた。


レイアスは、俺の為に此方に残ったのではない。
⎯⎯この半分だけ血の繋がった弟を守る為に、此方を選んだのだ。

「本当に……素直じゃない」

こんな面倒臭い兄弟に囲まれて、リュートも大変だと俺は思ったのであった。


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