上 下
142 / 159
第6章 憤怒の憧憬

24話 校外実習

しおりを挟む
 
「私も行くったら行くっ!!」

放課後、夕日が部屋を淡く染める中で、他の生徒が既に帰宅したせいかユリアの不満気な声がよく響いた。

「……流石に、ユリアが行くのは無理だろう」

「何でっ!? 私だけ留守番なんて納得がいかないっ!」

先程から何度俺が無理だと言っても、ユリアは聞く耳を持たない。
延々と駄々を捏ね続けている。

「ほら、ユリアは一応は国を支える魔眼持ちだから……?」

腐ってはいるけど。

「リュート君だって大事な魔眼持ちだよねっ! それも貴重な2個持ちだしっ!」

ユリアは一応王家の固有魔法を宿している。
その圧倒的な破壊力から、諸外国から命を狙われることもある。
よって、王様が許可を出す事はない。

「……王族だから…?」

腐ってはいるけど。

「お兄様は王太子なのに、行くんですけどっ!!?」

今度は王族であることを理由に説得しようとしたが、これまた聞く耳を持たない。

「ずるい、ずるいっ!」

ユリアが不満たらたらなのには、理由があった。
今朝のホームルームでの事だ。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









「それでは2週間後、校外実習としてダンジョンへと向かいます。それまでに班を作って、メンバーを報告に来てください。メンバーは5人以上でお願いします。上限は特に設けてはいません。また、安全策として去年同じ実習を受けた先輩を、最低でも1人メンバーとして入って貰って下さい。いいですね?」

クラスの担任の説明に、多くの生徒がはいと応える中、ユリアは一際目を輝かせていた。

「先生! 他に何か用意するものはあるのですか?」

ユリアは何故か、遠足に行くようなノリで手を上げて担任へと質問した。

「……あの、殿下。殿下はこの実習は、免除となっております」

「……え、……?」

そして次に告げられた担任の言葉で、一瞬で笑みを消すことになったのだ。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









そして、放課後の長々と続く愚痴に繋がり今に至る。

「ずるいずるいずるいずるい、ずーるーいー、ずーるーいーよーっ!」

「はいはい、駄々をこねるな、仕方ないだろう。決まったことだし。諦めろ」

初めは同情で丁寧に相手をしていた俺も、何度も同じことを言い聞かせているうちに面倒臭くなってきて対応も雑になっていった。

「……ふんだ、リュート君は、行けるからってさ。それが、持てる者の余裕って奴なの? リュート君やお兄様だって行けるのに、ズルい! 私も皆と、ファンタジー世界私TUEE!をやりたかったにさっ!」

ユリアの苛立ちが、段々と俺へと向いて来た事に溜め息をついた。

ウザくなってきた……誰か愚痴聞くの代わってくれないかな?






結局この数日後、俺はユリアの愚痴に付き合うのが嫌になりとうとう折れた。
王様へと許可を貰えるように一緒に頼みに行き、王様もユリアの強い意思に折れて娘の参加を認める事になるのであった。

……王様も娘には、甘いね。
そして、俺の仕事がまた増える訳ね……はぁー。 

俺はまた増えた余計な仕事に、溜め息しか出なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

どうしようもないヤンキーだった俺の転生物語。回復職なのに前線でバトルしまくる俺は、いつしか暴れ僧侶と呼ばれているようです。

蒼天万吉
ファンタジー
モンスターや魔法が溢れるファンタジーな世界に転生してきたアマタは元超絶ヤンキー。 女神の使いに与えられた加護を使って人々を癒す、僧侶になったものの…… 魔法使いのルルがと共に、今日も前線で戦っているのでした。 (小説家になろうにも掲載しております。)

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

処理中です...