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第6章 憤怒の憧憬

22話 友人でありライバル sideアシュレイ

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──初めて会った時は、気に入らない奴だった。

初めて見たのは入学式の時。
アイツは俺達よりも2つ年下なのに、新入生代表として壇上に立った。

リュート・ウェルザック

その名は貴族連中の間では、この2年で知らぬ者がいない程に有名になった。
最年少の魔眼持ちで、希少な空間魔法の使い手。
ルーベンスの救済者。
アイツが現れてから、この国は更なる発展を遂げた。
そんな存在に、貴族連中が注目しない筈がない。
しかも1年前には、ユーリア王女殿下の騎士にまで任じられている。
スタッガルドの領地から殆ど出ない俺ですら、その名は知っていた。

けれど聞こえてくるのは、良い噂ばかりではない。
むしろ、周囲の妬みや僻みからか、悪い噂も同じように陰で囁かれていた。

愛人の子。
母親は平民上がりの屋敷の侍女で、子が魔眼を持って生まれた無理矢理妾の座に収まった、と。
金目当ての卑しい女の子供だと。

現在正妻の座についている女との間には子がなく、その女が国1番の名門の出である事が悪い噂に拍車をかけていた。
本人が年端もいかない幼い少年であるせいか、聞こえてくるのは少年ではなくその母親が非難される噂ばかりだ。

けれど、詳しい話を聞くと、俺には母親にそれほど非があるとは思えなかった。
元々、公爵家当主と結ばれていたのはアイツの母親で、割り込んで来たのは現在正妻の座にいる女だった。
客観的に責められるべきは、正妻の女の方なのだ。
しかし、シュトロベルンの後ろ楯がある以上、立場の弱い方が悪く言われ続けるのが世の常だ。
貴族連中の下劣な品性には、全くもって嫌気がさす。
父上もそういった悪意から遠ざける為に、俺や母上をあまり表には出さないのだろう。
家も似たようなものであったから。

──俺は父上の実の子供ではない。

だからこそ、話を聞いた時はアイツに対して同情や親近感を抱いていた。
俺とアイツは、似たような立場であったから。
けれど、違った。
俺は実の父親を失い母上も精神を壊したが、アイツは何も失わず笑っていた。
そして、俺の異母兄にあたるレイアス・ウェルザックとも仲が良いようだった。
同じ立場である筈なのに、その様は随分と違っていた。

異母兄には、前々から興味があった。
異母兄の母親、クリスティーナ・シュトロベルンには憎悪しか抱けないが、兄は何も悪い事をしていない。
寧ろ、兄だって被害者だ。
何の罪もない。
俺の周囲は兄の事も恨んでいたが、俺は恨んだ事などなかった。

兄の噂も、よく聞こえてきた。
ひどく優秀で、実の父親と瓜二つだと。
その度に周囲からは、決して負ける事のないよう強く言われてきた。
比べられ、厳しい課題が課せられた。
けれど、それを苦に思った事はなかった。
俺はただ兄と話がしてみたかった。

俺は実の父親や父上達のように、将来騎士になりたかった。
強くて国を護る騎士に。

……兄も、そうなのだろうか?

聞いてみたかった。
どれ位強いのか、手合わせもしてみたかった。
街で見掛ける仲の良い兄弟のように、俺達もなれるのではないかと俺は期待していた。

──でも、結果は違った。

──兄……あの人は、レイアス・ウェルザックは俺の事を見ようとはしなかった。

だから、俺は初めてアイツに会った時、騎士道に反する事を言ってしまった。
立場は似ているのに、俺の欲しい物を持っているアイツを憎く思ってしまったのだ。

冷静に考えると、俺がいかに愚かだったのかが分かる。
アイツは、リュート・ウェルザックは何も悪くないどころか、全く関係ない部外者だ。
ただの八つ当たり。
俺が勝手に期待して、裏切られたと思っただけだ。
けれど、俺は幼児とも言える外見のアイツに、自分の苛立ちを全てぶつけてしまった。
ユーリア王女殿下に咎められなければ、俺は矛を収める事は出来なかっただろう。
本当に申し訳ない事をしたと、今は心から反省している。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆










「……おい、大丈夫なのか?」

「何がです? 全然、問題ありませんよ?」

額から汗を流しながらも、俺の質問に涼しい笑顔を浮かべる。

「何がって……叔父上の事だ。アレはいくら何でも、やり過ぎだろう」

肩で息をしながら何でもないようにするリュートに嘆息しながらも、リュートらしいと苦笑いを浮かべる。

リュートはこんなにチビの癖に、プライドが高くて負けず嫌いだ。
俺も負けず嫌いな性格ではあるが、リュート程ではないだろう。

いや……こういうのは、完璧主義って言うのか?

兎に角、リュートは負ける事を異常に嫌っていた。

「……まぁ、私怨が全く無いとは言えないでしょうが、あの人は相手の実力見てやっていますよ。そう言う意味では、宣言通り公平ですね」

「……叔父上は感情的になりがちな面もあるが、基本的に騎士道に反する事はしないからな」

叔父上がやって来てから1ヶ月、宣言通り叔父上は手心を加える事なく厳しく指導していた。
特にリュートに対して厳しい指導をしていたが、それはリュートの実力を伸ばす為でもあったのだろう。
リュートは俺や他のクラスメイトより、断然強い。
他のクラスメイトと同じ様に指導をしたのでは、リュートはある程度手を抜いて参加してしまうので意味がない。
リュートも自覚があるからこそ、特に何も言わないのだろう。
叔父上もリュートの事は嫌っているようだが、指導を越えた振る舞いをする事はない。

まぁ、それでも8歳児にする指導とは思えないが……。

それだけ、才能を認めているという事だろう。

「そんなに僕の心配ばかりしていていいんですか? また次も僕が勝っちゃいますよ?」

「……別に心配なんてしていない。それに次は、俺が勝つ!」

リュートとは色々あったが、今では良き友でありライバルになったと思う。
リュートのお陰で兄とも剣を合わせ、少しずつだが話せるようになった。
何時までもリュートや兄に負け続けるつもりはないが、リュートには本当に感謝している。

「アシュレイは、手合わせする度に強くなりますからね。期待してます……まぁ、勝ちは譲れませんが」

「言ってろ……」

リュート・ウェルザックは、変な奴だ。
何時もニコニコと誰にでも丁寧に接しているくせに、負けず嫌いでたまに毒舌。
それに時々お節介でもある。
そんなリュートだからこそ、いつか俺や兄、スタッガルドとシュトロベルンの因縁を晴らしてくれるのではないかと俺は期待している。


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