上 下
139 / 159
第6章 憤怒の憧憬

21話 特別教官

しおりを挟む
 
「皆にも紹介する。今日から君達に実技を教えてくれる、キリリィク・ブロウル殿だ。現役の騎士、それも将軍補佐殿に教えを受ける機会などそうはない。皆、これを機により一層励むように!」

その週の実技の授業で、その人物は俺の前に再び現れた。
いずれまた会うことになるとは思っていたが、こうも早く機会が巡ってくるとは予想外であった。

「マジかよ……キリリィク様って、将軍補佐だろ?」

「……あぁ、こんな大物がたかが小等部の生徒を教えるなんて……やっぱり」

周囲の生徒も期待はしていたが、まさか将軍補佐が出張るなんて思いもしなかったのだろう。
皆驚愕の表情を浮かべ、興奮を隠せずにいる。
中にはキリリィク・ブロウルに憧れて騎士を目指しているものも、多数いるのかもしれない。

「アシュレイ・スタッガルドがいるからか……」

そして、半数の生徒はアシュレイにチラチラと視線を向けていた。
アシュレイは将軍の息子で、キリリィク・ブロウルの親類だ。
その関係でやって来たのだと考える生徒がいても、不思議ではない。

「キリリィク叔父上……何で……」

しかし、当のアシュレイも他の生徒と同様に、キリリィク・ブロウルが来た事を心底驚いた顔をしていた。 
どうやら、アシュレイも事前に知らされてはいなかったようだ。

「黙れ! 今、この場での私語を私は許していない!」

キリリィク・ブロウルのその一言で、先程まで騒がしかった場内が一瞬で静まった。
アシュレイに注がれていた視線も、自然とキリリィク・ブロウルに寄せられる。

「将軍補佐をしているキリリィク・ブロウルだ。私もこの学園の出であり、かつては君達と同じ様に現役の騎士に剣を教わった。……今でも、私が最も尊敬している騎士だ。だからこそ今回、私はこの学園からの依頼を引き受けたのだ。故に私がこの場で誰か・・に手心を加える事も、贔屓をする事は断じてない!」

毅然と言ってのけたキリリィク・ブロウルだが、一瞬俺によせた視線には敵意がひしひしとこめられていた。

「……また、嫌な予感しかしないな」

寧ろこれだけ敵意を向けられて前向きでいられる程、俺の神経は図太くない。
手心を加える事はなくとも、特別厳しくされる事はありそうだ。

「キリリィク様! 本物だっ!!」

そんな俺の気持ちとはいざ知らず、ミーハーな腐王女は乙ゲーの登場キャラに目をキラキラと輝かせていた。

……本当、軽く不幸になってくれないかな。

「……キリリィク・ブロウルって、ゲームだとどんな立ち回りな訳? 確か、悪魔に憑かれる訳じゃないんだよな?」

俺はキリリィク・ブロウルを直接見た事で、また何か思い出した事がないかと腐王女にゲームについて確認した。

「うん、悪魔には憑かれないよ。でも、復讐を否定するヒロインを、キリリィク様は嫌ってたかな。場合によっては、敵キャラにまわったり、味方になる事もあるキャラだよ」

すると腐王女は記憶を思い出したのか、スラスラと情報を吐いていった。

……この見たら思い出すシステムは、一体何なんだろうか?
重大な情報が後から後から出てくる事もあるし、面倒この上ない。

「それに今思い出したんだけど、キリリィク様ってファンディスクで攻略キャラになってたよ!! やっぱり、攻略キャラだから超イケメンだねっ!」

腐王女はそう言うと、キリリィク・ブロウルの頭からつま先までをガン見し始めた。
きっと近いうちにキリリィク・ブロウルも、腐王女の腐った妄想の被害者になってしまうのだろう。

「は? ……また、攻略対象者なのかよ」

本当、後出し多いな!!
そういう重要事項は、早く言えよっ!

新たにもたらされた重大な情報に、俺も思わずキリリィク・ブロウルに目を向けた。

確かに彼の容姿は、ひどく整っている。
父様と並んでも見劣りはしないだろう……父様の方が格好いいけど。

「……あーぁ、やっぱりそうだよね。そうなるよね」

俺が視線を向けたその先で、射殺さんばかりに睨み付けているキリリィク・ブロウルの視線と交差した。

本当に、面倒くさい。

前世なら、ああいった輩は自分の周りから遠ざけていた。
当たり障りがないよう、関わらないのがお互いの為にもなるからだ。
けれど、兄様達の事がある以上逃げる訳にはいかない。
腐王女が駄目駄目な以上、俺1人で何とかしなくては。






……でも、あんまり厳しくされるようだったら、腐王女の創作物を陰でバラ撒いてやろうかな。
多分、最高の嫌がらせになるし。

俺は独り心の中で黒い笑みを浮かべたのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
ファンタジー
天寿を全うしたチヒロが生まれ変わった先は、なんと異世界だった。 目が覚めたら知らない世界で、少女になっていたチヒロ。 前世の記憶はある。でも今世の記憶は全くない。 そんなチヒロは人々から『空の子』様と呼ばれる存在になっていた! だけど『空の子』様とは《高い知識を持って空からやってくる男の子》のことらしい。 高い知識なんてない。男の子でもない。私はどうしたら? 何が何だかわからないまま、それでも今を受け入れ生きていこうとするチヒロ。 チヒロが現れたことで変わっていく王子レオン、近衛騎士のエリサ。そしてシンを 始めとするまわりの人々。そのうち彼女の秘密も明らかになって?  ※年ごとに章の完結。  ※ 多視点で話が進みます。設定はかなり緩め。話はゆっくり。恋愛成分はかなり薄いです。   3/1 あまりに恋愛要素が薄いためカテゴリーを変更させていただきました。     ただ最終的には恋愛話のつもり……です。優柔不断で申し訳ありません。  ※ 2/28 R15指定を外しました。  ※ この小説は小説家になろうさんでも公開しています。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-

星里有乃
ファンタジー
 旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』  高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。 * 挿絵も作者本人が描いております。 * 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。 * 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。  この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

違う未来(2話完結/ループする世界に立ち向かう)

ぬいの
児童書・童話
朝起きて学校へ向かう。いつもと変わらない景色。 しかし、それは昨日と全く同じ世界だった。 昨日の失敗はしたくない! 主人公が歩み出します。 短い作品ですので、ぜひお気楽にご一読ください。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

勘違いの婚約破棄ってあるんだな・・・

相沢京
BL
男性しかいない異世界で、伯爵令息のロイドは婚約者がいながら真実の愛を見つける。そして間もなく婚約破棄を宣言するが・・・ 「婚約破棄…ですか?というか、あなた誰ですか?」 「…は?」 ありがちな話ですが、興味があればよろしくお願いします。

処理中です...