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第6章 憤怒の憧憬

11話 腐は伝染する

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には確かに、罪がある……罰せられるべき、罪が……”

兄様は、どういう意味で言ったのだろうか?
シュトロベルンの血をひいているから言ったのか?

そう言った兄様に俺は意味を問いただしたが、はぐらかされてしまい答えは得られなかった。

……兄様は、ゲームのシナリオからは大分外れている。

ゲームでは死ぬはずだった母様は生きているし、実の父親に対しても執着している様子もない。
けれど、俺の心に生まれた不安を拭い去ることが出来ない。

罰せられるべき罪って……一体何なんだ?

また放課後に、と兄様と別れてからもずっとこの事が俺の頭から離れなかった。

俺は……何か思い違いをしているのか?

けれど、何が違うのかが分からない。
きっと何度聞いても、兄様が俺に教えてくれる事はないだろう。
兄様はどこか人に対して一線を引いている。
自分の心の深いところには、誰にも触れさせようとしない。

──俺が思考を巡らせている、その時だった。

「リュ、リュート様!」

突然呼ばれ自分の名前に、視線を上に向けると息を切らしたスールが切羽詰まった様子で此方に駆け寄ってきた。

……一体どうしたと言うのか?

「助けてください! リオナさんが!!」

余程急いできたのか、息継ぎもしないままにスールは俺に必死で助けを求めた。

何!?
リオナに何かあったのか!!?

俺はすぐに時前に渡していた魔導具からリオナの位置を割り出し、空間魔法で一気にその場所まで跳んだ。

「リオナ! 無事かっ!?」

リオナやスールには、ユリアの面倒を頼んでいた。
もしかしたら、ユリアを狙う暗殺者に危害を加えられたのかも知れない。
無事であってくれと、そう切に願った。

「リュート様!? もう、お戻りになったんですか!!?」

「リュート君!?」

突然部屋に現れた俺に、ユリアとリオナはビクッと肩を揺らすと何かを背後に隠した。

「? ……スールに助けを求められたんですが……賊は何処ですか?」

俺は疑問に思いながらも、スールの血相の変えようを思いだし周囲を警戒した。

「賊? そんな人は来てないよ?」

しかし俺の言葉に、ユリアがキョトンと首を傾げた。

……どういうことだ?
何で、スールはあんなに慌ててたんだ??

「ですが、スールがリオナさんが大変だと……」

「え、わ、私ですか?」

俺が本当に大丈夫なのかと、リオナに目を向ければ頬を高揚させて目を逸らした。

……あれ?
何か嫌な予感が…………凄い嫌な予感がする。

目を合わせた時に、頬を高揚させて目を逸らされる事は今迄にも経験したことがある。
同年代や年下の令嬢などは、大抵その反応だ。
だが、今リオナに向けられた視線は、それらとは大きく違う気がした。

「…………」

俺は無言で、リオナ達の背後に素早く回ると、先程2人が隠した物を奪い取った。

「……まさか、……そんな!」

そんな馬鹿な、俺が目を離していたのは数時間の筈だ。
今迄、そんな前兆を感じた事はなかった。

そうならないように、気を配っていたのに……。

「……申し訳ございません、リュート様。ユーリア王女を止めることが出来なくて……」

スールが申し訳なさそうに頭を下げた。

スールには、前以て腐王女の趣味や嗜好に対して打ち明けており、万が一の時は周囲に広がらぬようにフォーローを頼んでいた。
こうなってしまった責任を感じているのだろう。
けれど、スールは悪くない。
腐王女を止めるなんて、スールには荷が重すぎたのだ。
俺でさえ、振り回され続けているのだから。

「……それで? 申し開きを聞こうか、このドグされ腐王女様?」

「ぃ゛い゛い゛だあ゛ぁーーー!!?? 頭゛わ゛れる゛ぅ!!」

俺の指が思いっきりめり込ませた腐王女は、悲鳴を上げた。
今回は手加減をほぼしてないに等しいので、相当痛いだろう。

けれどこの程度では、俺のこの心の痛みは晴れない。
俺の心はもっと傷付いている。
今回ばかりは、絶対に許さない。

「俺は自重するように言ったよね? その腐った脳味噌は、人語を理解してなかったのかな? かなぁ?」

「ご、ごめんなさ゛い゛!! どう゛して゛も゛、腐レンドがほ゛しか゛ったんです゛!!」

腐王女も今回ばかりは俺が譲る気がないと悟ったのか、すぐに半泣きで許しを乞うた。

「まぁ、友達が欲しいのは分かるよ? けど、態々リオナを腐らせる必要はあったのかな? 俺が怒らないとでも思ってた? ん?」

俺はリオナ達から没収した腐王女自作の薄い本を、魔法で塵1つ残さず燃やし尽くしながらも手を弛めずに言った。

「りゅ、リュート様、怒りをお納めください! これはあくまでも、フィクション、偽物です。現実とは別物です。それにこの本は大変素晴らしいものです!! リュート様も、お読みになれば、きっと分かってくれる筈です!……ぐふ……腐っ」

リオナは腐王女を庇うために色々言っていたが、最後の腐王女と全く同じ笑い方が全てを台無しにしている。

「…………」

清楚で、大人しかったリオナ……
無口だったけど、腐ってなかったリオナ……
妹思いの優しかったリオナが……

「……腐ってしまうなんて」

俺は今、本気で泣きたいよ。

「リュート様、僕も同じ気持ちです」

スールは目に涙を浮かべながら、ハンカチを俺に渡した。



その日リオナは腐って、俺達2人は大切な何かを失った。
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