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第4章 リュート君誘拐事件!?
22話 反撃開始
しおりを挟む「────レナっ、──っかりしてっレナっ!!」
声が聞こえる。
繰り返し、誰かを呼ぶ声。
これは……リオナの声?
何度も何度も妹の名を呼ぶ少女の声で、俺の意識は浮上した。
「っう…………ここは?」
俺はゆっくりと目を開けて、声の主を見ようとするも体がいつも通りに動かないことに気付いた。
ズキズキと少し傷む頭を覚醒させて、状況を把握していく。
そうだ……俺は、俺達はリオナの妹を助けるために、誘拐されて来たんだ……。
指定された場所で、後から薬品を嗅がされて……
意識がハッキリしていくと、自分達の置かれた状況を思い出し、周囲に敵が居ないか確認する。
見張りは…………、いないみたいだ。
呼吸音は、この部屋で俺を含めて3人分しか聞こえない。
俺達3人が居るのは、薄暗い物置のような部屋だった。
魔力は……やはり使えないか。
腕は後ろで手錠の様なものをかけられていて、ろくに動かせない。
それどころか、足も縛られているので起き上がるのも苦労しそうだ。
試しに魔法を使おうとしたが、予想通り発動しなかった。
恐らく腕に装着された手錠が、魔法を使うのを阻害しているのだ。
罪人などの魔力を封じる為に魔封石を使った手錠があると、文献に載っていたのを見た事がある。
「リオナさん、無事ですか?」
手足を縛られたまま、体を声の聞こえる方向へ向ける。
「!! リュート様、目が覚めてっ! 身体は!? ご無事ですかっっ!?」
俺が声をかけると、リオナが心配そうに俺を見た。
こんな時でも自分を気遣ってくれる彼女に苦笑いが溢れる。
「僕は大丈夫です。それよりリオナさんや妹さんに怪我は?」
「はい、ここに。所々怪我はしているようですが、命に別状はないようです。私も無事です」
リオナの妹の無事を聞くと、リオナはそう答えた。
リオナも俺と同様手足を縛られており、手には魔封石で作られた手錠がつけられていた。
リオナの傍には横たわっている小さな少女がいる。
リオナの妹であるレナだろう。
意識が無いようだが胸が規則正しく動いているのが見えたので、一先ずは無事なようだ。
「んぅ……おねえ、ちゃん?」
「レナっ!? 怪我はない? 大丈夫なの!?」
俺達の声で目を覚ましたレナは、ぼうっとしたままリオナを見上げた。
リオナは妹が無事に目を覚ましたことに喜びながらも、心配そうにレナに具合を確認した。
「ふぇっ、おねえちゃんっ! おねえちゃんっ!!」
レナは自分が誘拐されていることを思い出したのか、怪我の有無を答える事なく泣き出してリオナにすがりついた。
余程怖い目にあったのだろう。
よく見るとレナの頬は、少し赤くなっている。
暴力を振るわれていたのかもしれない。
でも、同じ部屋に閉じ込められて良かった……。
それに状況も、最良と言っていい。
これなら計画通り、上手くいくだろう。
「リオナさん──」
《ドンッッ》
リオナに話しかけようとした時、乱暴に扉が開けられた。
「起きたか子供共?」
扉が開かれると共に、男が部屋に入ってきた。
──こいつが、誘拐犯の1人か。
男を観察すると、何処にでもいそうな外見で、大した武器を所持しているようには見えない。
ただ、身のこなしを見る限り何らかの訓練を受けているようだ。
魔封石は高価な代物だ、一般人に入手は難しい。
他国の間者か、国内の高位の貴族に雇われたものだろう。
まぁ、誘拐の時点で、高確率で他国の間者なのだろうけど。
それにしても──
男の顔を再度見ると顔が赤く、酒の臭いがする。
僕たちを連れ去ったことで、今まで祝杯でも上げていたんだろう。
……随分、なめられたものだな。
「お前達はこれから俺達の国へ行くんだ。そして、リュート・ウェルザック。お前は俺達の国の為に、これからは力を使うんだ。もし抵抗するようなら……分かっているな? 賢いって噂だもんなぁ? お前の大事な侍女共が……どうなるのか?」
男は自分が優位に立っていると疑ってもいないようで、下種な笑みを浮かべてそう脅しつけてきた。
言っている事が、典型的な子悪党だ。
「…………」
俺は余りの滑稽さに、顔を俯けて必死に笑いを堪えた。
リオナは恐怖からか涙を溢す妹を庇うように背に隠し、男を睨み付けた。
あまり時間をかけると可哀想だ。
早く済ませよう。
「ククッ! ビビってんのか? まぁ、温室育ちの坊っちゃんだもんなぁ? でも安心しろよ。お前らがいい子で命令にしたがっている限り、こっちも荒くはしないからよぉ?」
そんな俺の行動をどう勘違いしたのか、下種な笑みを更に深めて俺に近寄ってきた。
もう、無理、限界だ。
「なぁ、聞いて――」
「くっ……ははっ! ……あーダメだ。我慢出来ない」
俺は声を出して笑った。
「子供! 何を笑って!?」
俺が笑いだしたのが、お気に召さなかったのだろう。
男は憤慨した様子で、俺に掴みかかろうとした。
「……僕も随分甘く見られたようだね?」
俺はその様子を嘲笑った。
幾らなんでも俺を侮りすぎだ。
そもそも、魔封石の手錠が阻害するのは、俺自身と俺に直接触れている魔法に対してだ。
そして魔力を操作すること事態が出来ないので、俺自身は魔導具を使用出来ない。
しかし、既に発動している魔法に対しては効果が薄く、威力を少し和らげる程度にしかならないし、俺が触れていなければ魔導具の効果を阻害するものでもない。
……色々対策を立てていたが、この様子では出番はないな。
「何だと……?」
男は本能的な恐怖からか、数歩後ずさった。
流石に間諜なんかをやっているだけに、勘はそこまで鈍くないか。
……国外に出る前から祝杯をあげているような、間抜けではあるようだけれど。
「……せめて手錠でなくて、牢を用意すべきでしたね。それに人質は別々にして捕らえるべきだった」
魔封石で作られた牢であれば、部屋全体で魔法が発動できない。
レナやリオナとは別々に捕らえられていたら、居場所を特定できるまではすぐに行動には移せなかった。
「っつ!? 所詮、魔法が使えなければ何も出来ない子供が何生意気な事言ってやがる!!!」
男はとうとう懐から短剣を取り出すと、俺に突き付けようとした。
「使えない? それは僕自身の話だろう?」
俺は自分と男の間に、口に含んでいたものを吐き出した。
「は? 何を―――――!!?」
コロコロと俺達の間に転がった飴玉のような物を、男は警戒して見つめた。
しかし、これがどうした? と男が声を発しようとした瞬間、それを中心に魔法陣が浮かび上がった。
「何故だ!? 魔法は使えないはずだ!!?」
男は想定外の事態に、声を荒げて叫んだ。
俺が口に含んでいたものは、魔導具の一種だ。
この魔導具と、対となる別の魔導具のある空間を繋ぐ俺特製の魔導具だ。
そして、この魔導具を発動させるのは、俺でなく別の場所にいる人間。
だから俺から離れた途端、魔導具は発動出来る。
本当に部屋全体を、封じ込めるものでなくて良かった。
対策は考えていたが、時間がかかるし面倒だ。
こいつ等にここまで侮られたのは癪だが、間抜けな行動の数々には感謝すべきかもしれない。
叫んだところでもう遅い。
この程度の奴等なら公爵家の兵達が、直ぐ様制圧してくれるだろう。
眩い光と共に、数十人もの兵士達が現れる。
そして、その先頭にいたのは───
「リュー、無事かな?」
……真っ黒なオーラを纏っている、俺の親愛なる兄様でした。
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