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第4章 リュート君誘拐事件!?
09話 王様からのご依頼
しおりを挟む父様達は揉めに揉めた。
それはもう俺が眠気からこくりこくりと、船をこき始める位に。
長い話し合いの結果、最終的にはお祖父様達が暫く家に滞在することに話は落ち着いた。
お祖父様達の粘り勝ちだ。
そして今日、俺は父様と王宮を訪れている。
王様から来るようにと、手紙が送られてきたからだ。
「お久し振りです、陛下。リュート・ウェルザック、此処に参上いたしました」
俺は頭を下げ、挨拶をする。
相変わらず眩しい位の見事な金髪だ。
「あぁ、最後に会ってからゴタゴタしてたから久し振りだな。元気にしてたか?」
「はい」
王様もルーベンスの事後収集に大変だったと聞く。
今は落ち着きを見せたからか、顔色もよく元気そうだ。
父様も一時期寝不足と忙しさで、顔色がすこぶる悪かった。
まぁ、今ではお祖父様と口論できる程に戻ったが……。
「ルーベンスではよくやったな。お前が居なければ、今回は本気でヤバかった……地図からルーベンスの町の名が1つ、消えかねなかったからな。この国を預かる王として、再度感謝する」
王様は頭を下げた。
「陛下!?」
父様が驚愕の声を上げた。
驚くの無理はない。
非公式の場とはいえ王様が一臣下たる俺に頭を下げるなど、普通あってはならない。
だから、父様が驚いて止めに入るのは当然だろう。
「止めるな、ヴィンセント。俺は感謝すべき時に、頭も下げれねぇ頭でっかちな王にはなりたくねぇ。それに今回の件は、俺や王宮で働く大人達の落ち度でもある。それをまだ6歳の子供に、尻拭いさせたんだ。頭くらい下げて当然だろ」
頭を下げるのは自分なりのケジメだと王様は言った。
豪胆で傍若無人。
しかし強いカリスマ性を持ちながらも、感謝すべき時はきちんと誠意を示す。
きっと王様は、皆に好かれているんだろうな……。
自分にはない才能だ。
素直に称賛する。
「いえ、僕がそうしたいからしただけですから。それに此方こそ色々融通をきかせて貰ってありがとうございます。物資をあれだけの量すぐに用意できたのは、王様や父様の力があってこそだと聞いてます……それにトーリさんの件……内密にしていただいた事も、ありがとうございます」
物資や事後処理を色々してもらっていたので、今度は俺が頭を下げて感謝を示した。
「物資は当然だ、俺は王だからな。国民の命を救うのは、当たり前の事だ。それにトーリ・クレイシスの事は、お前達の為ではない。国にとってそちらの方が、よいと判断したからそうしたんだ。お前が頭を下げる必要はねぇよ」
頭を下げる俺に、王様はキッパリとそう言いきった。
「それでもです。今回は、かなり僕の我が儘を聞いて貰いましたから。本当にありがとうございます」
俺はそう言って再度頭を下げた。
「……まぁ、そう言うことにしとくよ。それよりリュート、今日はお前に頼みがあるんだ」
王様は少し照れたように頭をかくと、今日の本題に入った。
「頼み……ですか?」
俺は首を傾げた。
「あぁ、お前空間魔法を使えるだろう?」
「はい」
「今この国で空間属性を持つものは少ない。短い距離の転移くらいなら使える者もいるにはいるが、お前のレベルには到底敵わん。だが、空間魔法は非常に有用だ。特に今回お前が使った魔法は、使い方次第で、この国を更に発展させることも出来る」
ここまで聞いたら、王様の頼みが何なのか俺にも分かった。
つまり──
「空間魔法で各地と王都を繋いでくれないか?」
空間魔法は非常に便利な魔法だ。
特に活躍するのは、戦争や商業でだろう。
戦争では一気に敵の本拠地に、軍隊を送り込む事が出来る。
商業では遠くの地の名産品などを、鮮度を保ったまま大量に運送出来る。
通常日や手間がかかる程値段が釣り上がってしまうが、この方法なら費用を抑える事が出来る筈だ。
「構いませんが……時間はかなりかかると思いますよ?」
俺にとってデメリットもない話だが、回復魔法の魔玉作りもしなければならず大幅に時間は取れない。
「あぁ、それは分かっている」
父様からその件は伝わっていたのか、王様は鷹揚に頷いた。
「それに……あまり遠く離れた地と、直接王都を繋がない方がいいと思います」
便利な分、デメリットもある。
各都市と王都を空間魔法で直接繋いでしまっては、敵国が攻め入った時に一気に王都まで侵攻される危険がある。
俺はその危険について王様に進言をした。
「確かに……万が一を考えると危ないか。中継地点を挟むのが、無難だな……」
「はい。それとルーベンスと同様に常時接続するのではなく、開閉も出来るようにした方が安全かと。魔力などで個人を識別して発動させるシステムを組み込む事くらいは、余分なコストがかかったとしても採用した方がいいかもしれませんね」
それに魔法だと込められた魔力が尽きれば消えてしまうが、魔導具なら整備さえすれば長期にわたり使える。
それこそ、俺という空間魔法の使い手がいなくとも。
金は余計にかかるだろうが、長い目で見ればその方がいいと思うのだ。
「そうだな……うむ、そのように手配しよう」
「えぇ、腕利きの職人を用意させます」
王様や父様も、俺の意見に納得してくれたようだ。
「それで、リュート。報酬の話だが通行料として幾らか取るつもりだから、その利益の3%を毎年支払う形でいいか?」
「毎年!?」
俺は思わず、驚きの声を上げる。
通行料を幾らにするか分からないが、毎年だと結構な額になる事が容易に想像出来る。
実用されたら、殆んどの流通は空間魔法を使うことになるだろうし……。
いきなり目の前に差し出された大金にくらりとする。
これは俺の一存では決められない。
俺は父様に返事を仰ぐように、父様を見詰めた。
「これは自前に私と陛下とで話し合ったことだ。問題はない。だから、お前の好きにしていいい」
父様は俺を安心させるように頷いた。
仕事には厳しい父様から見て、この金額で妥当なだということだ。
「……では、それでお願いします」
俺はおずおずと、頷いた。
一瞬、金額はもう少し下げていいと言おうと思ったが、前に兄様が言っていた働きには正当な対価が必要だと言われた事を思い出したのだ。
「よしっ! 決まりだな!!」
「えぇ、早速次の会議で通します」
王様は嬉しそうに笑った。
「……それにしても、本当に毎年でいいんですか?」
俺は受け入れはしたものの、念の為もう1度確認した。
やっぱり期間は決めると言われても、俺は全然構わない。
「あぁ、問題ない。実はそれに今回のルーベンスでの報奨も、含まれているんだ。だが今回の件でかなりの金額を動かしたからな……あまり大した報奨は国庫からは動かせないんだ。だからその分、多く設定した形だな」
「なるほど……そう言うことなら納得です」
そう言うことなら、素直に受け取った方がいいだろう。
「じゃあ決まったことだし、俺らは仕事に戻るとするかな、ヴィンセント?」
「えぇ、今日までに終わらせるべき陛下の仕事が、山程残っていますから」
「面倒くせぇ…………あぁそうだ、リュート。オズワルドやエドワードが、終わったらお前を寄越せと言ってたぞ。顔を見せてやれ」
王様はダルそうにしながら、席を立って言った。
「はい!」
オズ様にエド様か……会うのは久し振りだな。
俺は王様達が退席すると、2人が待つ部屋に向かったのであった。
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