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第3章 敬虔なる暴食

26話 亡国の姫君

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ユーリとトーリは暫しの間、抱き締めあっていた。
トーリは1度諦めてしまっていたからこそ、尚更ユーリと離れ難いようで落ち着くまで時間がかかりそうだ。

……でも、本当に助ける事が出来てよかった。

2人を見て、俺も肩にかかっていた力を抜いた。

「よかったね、リュー! 僕もまさかこの土壇場で、魔眼が開眼するとは思わなかったな……しかもそれが浄化能力のある固有魔法だとは……僕も流石に驚いたな」

兄様が背後から俺の肩にぽんっと手を置いた。
その顔は安堵の表情で、やはり兄様もユーリを手にかけたくなかったみたいで嬉しそうであった。

「僕も驚いています。でもユーリを助けたいと思ったら、頭の中に唄が響いたんです」

俺もこれには驚いた。
むしろ固有魔法がなかったら、まだ状況は打開できてなかっただろう。
中二臭いと思っていたこの目魔眼にも感謝だ。

「ははっ、そっかリューらしいね……でもアストラル・ファイアか……」

兄様は俺に微笑むとまた難しい顔をした。

「……そう言えば僕のこの魔法って、隔世遺伝ですか? ……どこの家のだろう?」

俺だって自分の固有魔法が、何なのか興味はある。
だから公爵家と関係のある国内の目ぼしい固有魔法を持つ家の事を調べたことがあるが、こんな魔法は聞いたことがない。

……もっと先祖に遡ったところのなのか?

「……いや、それはないな」

兄様は思い当たる節があるようで、俺の考えをはっきりと否定した。

ないって……隔世遺伝じゃないってことか?
でもここ数世代で公爵家と縁戚を築いた家の中で、該当する魔法はない。

「どう言うことです?」

俺は手っ取り早く、何かを知っている兄様に聞いてみた。

「……まだ、確定は出来ないけど……それは義父上からの遺伝ではないと思うよ? 多分カミラさんからだと思う。……まさかカミラさんがあの血族の血を引いているとはね…………」

「母様が!? ……母様は平民の、只の商人の娘であった筈ですが。父様からの遺伝ではないのですか?」

自分は庶民の出だと、母様は自分で言っていた。
だから、母様からの遺伝した可能性は全く考慮に入れていなかった。

「僕もそう思っていたんだけどね。義父上からは、まずあり得ないだろうね。それこそ2000年以上前の事とかだと分からないけど……それが今発現したとは考え難い。それにあの方には子供がいたと聞いたことがある……争いの中で死んだとされていたけど」

「……どこの……家の……固有魔法何ですか?」

兄様は先程から難しい顔をしたままだ。
俺はごくりと唾を飲み込んで、兄様の答えを待った。

余程の家なのだろうか?
それにあの方って…………誰の事だ?

「今から20年近く前に滅びた国の皇太子妃が持っていた魔法だよ。我が国と……いやシュトロベルンとかな? 戦争になって滅びんだ。そして皇太子妃は、元々ある固有魔法を持つ少数民族の出なんだ。ウェルザックは勿論、我が国の人間でその一族をめとった者はいない。だから義父上からの遺伝はあり得ないんだ。それに皇太子妃には当時3歳になる姫がいた筈だから、カミラさんともちょうど年が合うんだ。」 

兄様は俺にとって衝撃の事実を口にした。
母様は魔眼持ちの血族処か、亡国とはいえ王家の血を引いているらしい。

それにしても、シュトロベルン……ここでも関わって来るのか。

「皇太子妃や皇太子は、その戦争でお亡くなりに?」

俺は母様の両親が存命か尋ねた。

「……皇太子はそうだね、戦死となっているね。皇太子妃は今から10年近く前にこの国で亡くなったとされているよ、……シュトロベルン公爵の後妻として、ね」

この事がシュトルベルンが魔眼狂いと呼ばれる由来にもなっているよ、と兄様は続けた。

「は?」

俺は理解が追い付かなかった。
だって、それではあまりにも──

「なんせ、この戦争は公爵が皇太子妃を見初めて奪うために、起こしたようなものだからね」

兄様は吐き捨てるかのようにそう言った。

何だこの国……。
幾らなんでも泥沼過ぎるだろう……。
戦争になりうる火種がそこら中に転がっているようなものだ。

俺はこの乙女ゲームとは思えない世界の先行きを、本気で憂いた。
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