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第3章 敬虔なる暴食

04話 粘着系な悪役令嬢

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突如現れたのは、エド様の婚約者にして悪役令嬢であるリリス。
茶会に割り込んで来たのは、これで2度目だ。
リリスは俺達の存在を無視して、すぐさまエド様に駆け寄りその腕に手を絡めた。

「エド様っ!! 先日は楽しかったですわっ! 今日はわたくしに会いに来てくださったのね! 言ってくだされば、出迎えをしましたのに」

「……」

リリスの余りの勢いに、エド様の表情筋がひきつっている。
リリスはそんなエド様に気付いていないのか、更に腕を深く絡めた。

……死んだ魚の目のような目をしている。

まだ幼いのにひどく憐れだ。 
心から同情する。

「リリス、皇太子の御前だ。無礼だぞ。それにお前はこの場に招かれていない。とっとと下がれ」

兄様が今すぐ本邸に帰るよう促す。
普段あんなに笑みを浮かべているのに、一切笑っていない。

わたくしはエド様の婚約者ですわっ!! ここにいる権利がございます!」

リリスが無茶苦茶な言い分を述べる。
離れようとするエド様をがっしりと掴み、全く離れる気配がしなかった。

エド様……可哀想。

日本だったらストーカーで訴えて接近禁止に出来るのに、こっちだと権力さえあれば理不尽な事でもまかり通ってしまう。

……この世界では魔導具なる物もあるし、いつか逃走用に空間魔法を付与した導具を作って上げよう。

何となくエド様は泣いて喜ぶのではないかと思った。

「はぁー、邪魔が入ったな。今日はお開きにしよう。エドワード、城に戻るぞ!」

「はいっ! 兄上っ!!」

埒があかないと思ったオズ様が席を立ち、エド様も促す。
エド様はすがりつくように兄からの助け船に乗った。

「まだ会ったばかりですのに嫌ですわっ! そうだ夕食はわたくしと共に家でとりましょう? 料理長に最高のものを用意致しますわ!!」

リリスはエド様の手を引き、本邸に連れていこうとする。
意外に力が強いのか、エド様は中々振り払うことが出来ない。

「リリス、お前皇太子の御前で何を言っている? いい加減にしろ」

見かねた兄様が、立ち上がって無理矢理リリスを引き剥がした。

「じゃあ、僕達は失礼しますっ!」

リリスから解放されたエド様は逃げるように、オズ様と屋敷から出ていった。

「何をなさいますのお兄様っ!?」

「それは此方の台詞だ。皇太子の前で何をやっているんだ? 分かっているのか? お前より遥かに格上の相手だぞ?」

「婚約者なのですから、エド様と共にいるのは当然でしょう!?」

「はぁー、お前とは話にならない。本邸に戻れ。リュー、ユーリ君また騒がしくしてすまないね」

人の話を聞く気配のないリリスに兄様は理解させるのを諦め、そして俺達にも騒ぎになってしまったことを詫びた。
俺は別にいいけれど、ユーリはこんな場面に出くわして可哀想かもしれない。

「お兄様も……エド様もこないだから、その妾の子ばかりっ! よくもわたくしの兄と婚約者に色目を使ってくれましたわねっ!? 絶対に許しませんわっ!!」

リリスは急に俺を睨み、怒鳴り付けて去っていった。

えぇっ!?
ここでまた俺に来んの?
こないだ鼻っ柱へし折ったのに懲りないな。
と言うか、色目って……俺男なんですけど?

嫉妬するにしても、せめて女相手にして欲しいものだ。
近付く者全てを排除されていったら、エド様も息がつまる。

そもそも、普通は友情とかが先に浮かばないのか?
…………コイツも腐っているのか?
そもそもなんで俺がヒロインポジションにいるんだよ!?

俺は全力で無実を主張したい。

「リュー……とばっちり? か…わいそう」

俺を気の毒に思ったのか、ユーリが俺の頭を撫でて慰めてくれた。

「ありがとうユーリ。君だけが僕の唯一の癒しだよ」

ささくれていた心に優しさが染み渡った。
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