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第2章 俺と攻略対象者と、時々悪役令嬢
22話 誕生パーティー ③~対決?~
しおりを挟む……滅茶苦茶睨まれている。
周りに他の貴族が大勢いるのに、顔が鬼のようだ。
周囲がドン引いてる。
俺は敢えて視線を合わせずに、王様達と会話を続ける。
こういうのはスルーするに限る。
周囲の貴族達も視線を合わせないよう、少しずつ距離を取っていた。
「じゃあ、俺達はまだ他の貴族供の相手があるから、仲良くすんだぞ?」
「「はい」」
王様達は俺達から離れるとすぐに、別の貴族達に囲まれた。
王子の誕生会だけあって、国中の貴族が集まっている。
挨拶に来る相手も山程居そうだ。
「……王子は芸術性に富んでいるとお伺いしましたが、特に何がお好きなんですか?」
王様にああ言われた事だし、王子であるエドワードとコミュニケーションを図ってみる。
「僕のことはエドって呼んでっ! 兄上もそう呼んでいると聞いたし。僕は音楽が好きだよ、自分でもヴァイオリンをよく弾くんだ!」
王様が居なくなったせいかエドワードは態度を崩し、弾んだ声でニコニコと俺に言った。
「私(わたくし)のエド様に……(ブツブツ)」
「そっ、そうなんですか」
思わず俺の声が上ずってしまった。
おぉっ!? 益々、嫉妬オーラが。
これが婚約者って……同情するな。
俺は心の中でエドワードに手を合わせた。
「リュート君も弾いたりしないの?」
エドワードはリリスに気づかずに、楽しそうに俺に話しかける。
いや、本当は気付いていて、気づいてない振りをしているのかもしれない。
そうでもしなければ、リリス以外とまともに話す事が出来ないから。
「僕は「エド様っ! 私(わたくし)、貴方の為にピアノの練習をしてきましたの!! 一曲プレゼントいたしますわ!」……」
リリスは俺達の間に無理矢理割り込むと、自身の胸をエドワードの腕に押し付け媚びるように言った。
その姿が母親と被る。
7歳児の無い胸を押し付けて、どうするんだ?
意味か無いだろうに……。
「あぁ……そうだね」
エドワードは先程までの感情豊かな表情が一変して、ひきつった笑顔を浮かべる。
俺は、先日の本邸での出来事を思い出す。
リリスの非道を。
そして味わったばかりの自分自身の無力さも。
……イライラする。
こいつにも、自分自身にも。
……駄目だな、切り替えないと。
今日は人脈を作りに来たんだ。
そうこう考えているうちに、ピアノの音色が会場に響く。
皆がリリスに注目し、本人も得意気だ。
………………これは。
「流石、エドワード様の婚約者ですな」
「まだ7歳ですのに」
そう口々囁かれていた。
は?
この演奏が?
下手……じゃ、ないか?
それとも、一般的な7歳児ってこの程度なのか?
俺は前世でピアノや演奏の部類で幾つも賞を受賞していたので、このレベルが上手いとはとてもじゃないが思えない。
お世辞かとも思ったが、完全にそういう訳ではないみたいだ。
これがこの世界の一般のレベル。
音楽が止み、会場が拍手に包まれる。
そして演奏を終えたリリスが、俺の元に近寄ってきた。
「如何かしら、私(わたくし)の演奏は?」
「…………」
俺はあまりの得意気な様子に、黙りを決め込んだ。
「ふっ、言葉もでなくて? まぁ所詮、下賎な平民の子ですもの。教養がなくてもしょうがないわね。ふふふっ!」
俺の沈黙を別に捉えたのか、リリスが大声で罵ってきた。
俺は公爵子息であり、魔眼持ちだ。
こう言っては何だが、この国では俺の価値の方がリリスより遥かに高い。
これには周囲の貴族達も眉を潜めた。
そしてエドワードもその1人であった。
「リリス、言葉が過ぎるんじゃないか?」
「只の事実ですわ、エド様。……そうだ貴方もエド様に演奏の1つでもプレゼントしたらどうかしら? ふふっ、まぁ妾の子はピアノに触れたこともないでしょうけど?」
エドワードの制止も聞かず、リリスは更に俺と母様を侮辱し挑発してきた。
俺は黙ってピアノに向かう。
「あら、止めた方がいいのではなくて? ウェルザックの名に傷がつくわ!」
リリスはクスクスと嘲笑を浮かべる。
その顔は俺が失敗する事を確信しているようだ。
……いいよ。
その喧嘩、買ってやるよ。
母様まで侮辱した事、後悔させてやるよ。
俺はリリスが嫌いだ。
だから、容赦はしない。
俺は鍵盤に触れ、音を奏で始めた。
前世でよく弾いた曲を。
会場はその音色に聞き入り、その奏でる姿に終始見惚れた。
演奏が終盤を迎え弾き終える頃には、涙を流す者も大勢いた。
曲が終わり席を立って、お辞儀をしてもまだ誰も動くことは出来ない。
一拍遅れてハッとしたように、溢れんばかりの拍手と歓声が上げられる。
「所詮、僕は平民の生活に慣れ親しんでいたので、この程度(・・)しか弾けませんね。今度教えて頂こうかな?」
俺はリリスに先程の仕返しとばかり、嫌味を言う。
俺とリリスの演奏、どちらが優れているかは明白だ。
先程から周囲からは俺の演奏に対する称賛ばかりが送られ、もはや誰もリリスが演奏したことなど覚えていない。
リリスは先程より一層顔を歪ませ、憎悪に満ちた目で俺を睨み付けた。
7歳の子供に対して大人げないと思うが、こいつは別だ。
俺はこいつを許さない。
「すっすごい!! こんな演奏は初めて聞いよっ!! 一番嬉しい贈り物だっ!」
エドワードは先程の演奏にいたく感激なされたようで、頬を上気させ俺の手をぶんぶんと振った。
設定通り、音楽などの芸術に対し並々ならぬ情熱を持っているようだ。
「喜んで頂けて光栄です」
「僕も教師が褒めてくれていたけど、まだまだだね! あぁっ、もう一曲! もう一曲弾いてくれないか!?」
「えぇ、勿論。……そうだ、折角ですしデュエットしませんか? エドワード様がヴァイオリンを弾いて」
「本当!? すぐに用意させるよ! それとエドって呼んでっ!」
一緒に弾かないか提案すると、エドワードは益々目を輝かせた。
そして俺達は二人で曲を奏でた。
こんなに楽しいのは初めてだと、エドワードは笑っていた。
……俺はこの時知らなかった。
エドワードの攻略には高い教養が不可欠で、攻略すると二人で演奏するスチルが出る事を。
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