光と闇

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第四章 力との闘争

旅たちの時

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 ギンハンのラワールタウンから、訓練するために用意された場所までは、何日もかかる。

 二十の町を持つギンフォン国だが、カリュウたちが集められる場所は、新たな土地として開拓され、地名も決められていなかった。ギンハンの代表、サタラー・ミンハを中心に、その土地の名前の話し合いが行われた。二十一個目の新たな町の名はデオルムと名付けられ、さまざまな村の人たちが協力し合い、新たな土地に小さな町を切り開いたのだった。

 ギンフォン国の中でも一番北に位置するデオルムは、海が見える奇麗な町となった。だが、神々の子や奇跡の子が住む町からは遠く、皆、数日かけて行く事になる。

 もっと良い場所はないものかと、さまざまな人が模索したが、太陽光が強く降り注ぐギンフォン国の中で、人が住める環境は少ない。森は愚か、砂地や岩場しかなく、町を切り開くにも、どこも足場が極端に悪い。水不足や食材の不足が深刻化する土地で、唯一、新たに開拓できる場所は、デオルムだけだった。

「ランズ、そろそろ馬を歩かせないと」

 マリーは高い声を響かせ、前を走るランズに話し掛けた。

 ギンハンのラワールタウンを出てから、いつの間にか数時間経過していた。

 走るのが得意な馬だが、数時間に一度は速度を緩めて休憩をさせなければならない。

 ランズが手綱を引いて速度を緩めると、マリーも馬を歩かせる。

「こりゃ先は長いな」

 ランズは、のんきな口調で言った。

 数時間も馬を走らせたが、まだギンハンすら抜けていないのだ。町の外れを進む彼らの前に、人の姿をはないにしても、目で見える範囲には家がたくさん建てられていた。

「そうだね。でも、砂漠は止まらないで一気に行きたいでしょ?」

 マリーは明るい声を出し、馬をランズの横へ歩かせた。

「あぁ、砂漠は怖いからな」

 彼は少し低い声を出してつぶやくように言う。

「うん。水もとっておこうね。カリュウ、大丈夫?」

 ラワールタウンを出てから一度も口を開いていないカリュウを気に掛けたマリーは、優しい口調で聞いた。

 ランズの前におとなしく座るカリュウは、声を出す事なくうなずくだけだった。

「…………」

 そんな息子の姿を不安そうに見詰めるマリー。

 引っ越しの準備を始めた数日前から、ずっと元気がないカリュウは、町を離れる事をひどく嫌がっていた。まだ子供である彼は、自分の力がいかに大きなものであるのかも、大人たちがなぜ外で訓練を受ける事を決めたのかも、いまいちよく分かっていないのだろう。

 マリーやランズから、住居を変えなくてはならない理由は説明はされており、仕方ない事だとは分かっているようだが、心の底から納得できるほどは理解していないようだった。カリュウはただ、寂しそうに、眉をハの字に曲げている。

「カリュウ」

 馬の足音が鳴る中、声を上げたマリーの声はとても優しかった。

 名前を呼ばれ、下を向いていたカリュウは、顔を上げてマリーの横顔を見た。

「リキュウと遊ぶのは楽しいでしょ?」

 マリーは明るい声で言う。

「……うん」

 カリュウは今はまだ高い声を出してうなずいた。

「今から行く所にはね、リキュウやカリュウみたいな子が何人もいるんだよ」

 マリーは声をさらに高くして、楽しそうに言った。

 運動神経が他の子供たちよりも優れているカリュウが、皆と遊ぶ時、息一つ、切らさない姿をずっと見て来たマリーは、”氷の力を宿す子”であるリキュウ・ブラッカーと駆けっこしている時だけは全力で遊べている事を分かっていた。

「そうだ!  カリュウ、皆で遊んだらすごい事になる。力だって使えるんだ。楽しい事ばっかじゃん」

 ランズは、のんきな口調で、笑いながら前に乗るカリュウの頭を見下ろしながら言う。

 カリュウは、父や母の話を聞いて、表情が徐々に明るくなって行った。レイミー夫婦は、非常にポジティブな思考の持ち主で、カリュウが落ち込んだ時は楽しい事のみを口にする。

「元気出た?つらい時もあるけど、ほら、いい事の方が多いんだよ」

 カリュウの顔を笑みを浮かべて見ているマリーは、とても明るい声を響かせた。

 先程まで寂しそうな顔をして下を向いていたカリュウだったが、前を向いて「そうだね」と少し明るい声でつぶやく。

 会話をしながら進んで行く彼らは、馬を走らせたり、歩かせたりを数時間置きに繰り返した。

 時折止まって休憩を挟むが、熱帯であるギンフォン国での旅は簡単ではなく、彼らの疲労は徐々に積み重なって行った。

 日が沈む前に砂漠を抜けた彼らは、森に入ると、馬から降りて用意していた野宿用の毛布に包まっていた。昼間はとても熱いギンフォン国だが、夜になると気温は一気に低下し、身が震えるほど寒くなるからだ。

 馬の手綱を木につなぎ、三人は、カリュウを真ん中にしておしくらまんじゅうのように寄り添っていた。暖かい温もりをお互いに感じながら、いつしか眠気が襲って来た彼らは静かに目を閉じた。




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