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第四章 力との闘争
一堂に会す時
しおりを挟む闇の子であるユハン・ハミットが持つ残酷な思想や行動は、光の代表と呼ばれるサイキ・ハイレンによって徐々に制御されつつあった。
闇の子と献身的に向き合う姿は、サイキ・ハイレンの堅実さをギンフォン国中に伝えられ、国民たちは安心したかのように彼女たちの経過を見守っていた。だが、闇の子の教育のほかにも、とても重要な事がもう一つある。
五年前、ギンフォン国で一番大きな町、ギンハンの代表サタラー・ミンハと、光の代表サイキ・ハイレン、灰の子の父親であり、雷の竜を出現させたカイム・ラリーの三人で行われた話し合いは、今後の奇跡の子らの行く末を決めるものだった。
彼らは決定した。奇跡の子や神々の子たちが十歳になった時、家族らの住居を移させ、訓練させる事を。そのため、十歳となった奇跡の子や神々の子の親たちは、住居を移すために、皆、準備をしていた。
サイキ・ハイレンが、引っ越しだと言い、黒猫が驚きの声を上げた頃、ギンフォン国で一番大きな町、ギンハンの東に位置するワラールタウンでは、大きな荷物を背負った一組の家族が、人々に囲まれながら笑顔を見せていた。
神々の子の一人である土の子が住むラワールタウンは、土の力によって、木でできた家や枯れた木々たちが大きく成長し、人々の頭上に葉や花を咲かせ、とても緑豊かなタウンとなった。土の力で成長した彼らの家は、大きな木に戸や窓を付けたかのような風貌をしており、遠くから見ると、町と言うよりもただの森林のようだ。
ラワールタウンの村人たちは、一組の家族を囲い、さまざまな言葉を投げていた。
「気を付けろよ」
「カリュウあっちでいたずらばっかりしないようにね。お母さんとお父さんの言う事よく聞くんだよ」
「マリー手紙ちょうだいね」
村人たちは、寂しそうな声をそれぞれ響かせながら、一家の旅立つ姿に目を潤ませていた。
彼らの中心に立つのは、四人の神々の子の一人、”土の力を持つ子”、カリュウ・レイミーだ。十歳になったカリュウは、指定された町へ引っ越すため、父と母と共に町を出る所だった。
「ありがとう。でもそんな、永遠のわかれみたいに言うなよ。落ち着いたら帰って来るしさ」
笑いながら言ったのは、”土の子”の父親であるランズだ。
隣でほほ笑みながらも涙を流すランズの妻、マリーは「そうだよ」と呟くように声を漏らした。
「う、う、う」
カリュウは、今まで一緒に遊んでいた子供たちの顔を見ながら、言葉にならない声を上げていた。
ラワールタウンの子供たち、皆と仲が良かったカリュウは、涙を流しながら「頑張って、強くなって、すぐ、帰るからね」と涙声で懸命に話す。
彼が泣きじゃくる姿を、涙を浮かべて見ていた子供たちは「うん。早くね。すぐだよ」と、目から溢れ出る水を腕で拭きながら答えた。
「カリュウ、そろそろ行こうか」
しゃがんでカリュウに目線を合わせたランズは、優しい口調で言った。
ランズは涙を流すカリュウを抱いて立ち上がると、村人たちに笑顔を向け、再び口を開く。
「皆、元気で」
とても、清らかに笑うランズの下に、ギンフォン国では珍しい涼しい風が吹き渡った。
そして、馬に手をかけ、丁寧にカリュウを上に乗せると、彼は振り返り、村人たちの先頭に立つ若い男の顔を見て「頼むぞ」と言った。
長い間ラワールタウンのリーダーを勤めていたランズは、活気溢れる若き青年にその座を譲り渡したのだった。
「はい。ランズさんの留守はしっかり守ります」
青年が真面目な顔をして言うと、ランズはやわらかくほほ笑んで、次に妻の顔を見て背中に手を当てた。
目を赤くするマリーは、ランズの顔を見て頷き「皆、体には気を付けてね」と口にし、馬に手をかけた。
持っている荷物を乗鞍の後ろの突起物に巻きつけて固定し、落ちないのを確認するように荷物を引っ張るマリー。ランズは、カリュウが乗っている馬に跨ろうと足や手に力を入れた。カリュウは、子供用の丈が短い鐙に足をかけ、乗鞍の上で寂しそうな顔をしている。
乗鞍はランズと二人で使うため、カリュウが前の方に詰めるように腰を浮かせた後、ランズはすぐ後ろに跨った。
ランズは、カリュウを両手で囲むようにして手綱を掴み、無事に乗れたかを確認するようにマリーに目線を移した。
「いつでも帰って来なね」
「行ってらっしゃい」
「気を付けるんだよ」
町の人たちが離別の言葉を口にする中、笑顔を向けるランズと、寂しそうな顔をするカリュウ。
マリーはまた目に涙を浮かべて頷き、カリュウは「行って来ます」と声を出した。
彼らを見送る町の人たちは、走り出した馬が見えなくなるまで皆そこから動く事はなかった。
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ここまでお読みいただき
ありがとうございましたm(_ _)m
来週の土曜日18時に更新予定です。
今後もお付き合いいただけたら
嬉しいです!宜しくお願いします。
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