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第四章 力との闘争
黒い生き物
しおりを挟む辺りは、茂みから突如現れた黒い生き物を視界に入れて目を丸くした。黒い毛で覆われた生き物の頭には二本の三角形の耳が立っており、目がまん丸の小さな動物だった。お尻からは尻尾が三本生えており、体中の毛は逆立ち、真ん丸な黒いボールのような姿だ。
「おい! ガキ共 ! おいらの子を返せ!」
まん丸なボールみたいな生き物は、迫力のある低い声を響かせ、シエルの手の中にいる黒い小さな生き物を見詰めていた。
「猫?だよな……喋った……」
呟くように言ったカイムは、目を見開いていた。
「なんだこのちっこいの。猫っていうのか」
幼い声を響かせた黄金の竜は、"猫"と呼ばれた小さな黒いボールのような生き物を見ながら、首をかしげる。
黒い猫は、毛を逆立たせながら、三本の尻尾も太くさせて牙を剥き出しにしていた。どうやら、シエルが手の上に乗せている小さな生き物は、黒猫の子供で、"子猫"のようだ。
「この子の親?はい!」
シエルは三本の尻尾を持つ黒猫に言い、手の上に乗せていた小さな黒い生き物を笑顔で差し出す。あまりにも素直に差し出されたもんだから、呆気に取られた黒猫は、逆立たせていた毛を徐々に収めて行った。
地面に置かれた子猫は、親猫の元へたどたどしく歩いて行き「みーみー」と鳴いていた。
「大丈夫だったか?嫌な気配がしたんだが」
子猫には、ひどく優しい声を響かせた黒猫。猫の親子の姿を見ていたユハンの目は、涙ぐんでいた。
「ごめんね」
小さな子猫に、呟くように言ったユハンに心底驚いたような目を向けたのは、サイキとカミナリだった。
闇の力で猟奇的になってしまった人は皆、自分のした事への罪悪感を持たないとされていた。
闇の力を宿す者がいる家庭は崩壊する。愛情を学ぶ場でもある家族と言うものの在り方に、疑念や憎悪を抱く事が、闇の人格形成への拠点となるのだ。ユハンが、親の姿を見て急に罪悪感を持った事を思うと、サイキがユハンに与える愛情は伝わっており、家族の中に生まれる絆をしっかり認識していると言う事だ。
「てめーら」
黒猫は低くも透き通った声を響かせる。黒猫が見ているのは、シエルとユハンだった。
「灰と闇か」
黒猫の短い言葉に、辺りは一瞬無言になり言葉を失ったが、すぐに口を開いたのは、灰の子の親であるカイムだった。
「なぜ分かる」
カイムは警戒心を漂わせるように硬い口調で聞いた。
「おいらには暗闇でも見える目がある。表に力が出てなくても、てめーの力もわかんぞ雷さんよ」
口調に似つかわしくない透き通った品のある声を響かせる黒猫は、三本の尻尾を揺らしながら、腰を落として座った。黒猫の足元には、子猫が丸まっている。
「おまえ、何者だ?三本の尻尾が生えてる喋る猫なんて聞いた事がない」
カイムは、さらに質問を浴びせた。
目の前にいる異様な生き物に、眉を顰めるカイムは、幼い頃猫を飼っており、寿命を全うしたが、最後まで話す事も尻尾が増える事もなかった。
ギンフォン国には餌がないため、動物は少なく、猫はほとんど見かけなくなっていた。国民の中には、猫の存在すら知らない者も多い。
「おいらは昔、風の竜だった」
下を向いて答えた黒猫は、青い目を細めた。
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ここまでお読みいただき
ありがとうございましたm(_ _)m
来週の土曜日18時に更新予定です。
今後もお付き合いいただけたら
嬉しいです!宜しくお願いします。
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