光と闇

vv0maru0vv

文字の大きさ
上 下
52 / 57
第四章 力との闘争

黒い生き物

しおりを挟む



 辺りは、茂みから突如現れた黒い生き物を視界に入れて目を丸くした。黒い毛で覆われた生き物の頭には二本の三角形の耳が立っており、目がまん丸の小さな動物だった。お尻からは尻尾が三本生えており、体中の毛は逆立ち、真ん丸な黒いボールのような姿だ。

「おい! ガキ共 !  おいらの子を返せ!」

 まん丸なボールみたいな生き物は、迫力のある低い声を響かせ、シエルの手の中にいる黒い小さな生き物を見詰めていた。

「猫?だよな……しゃべった……」

 つぶやくように言ったカイムは、目を見開いていた。

「なんだこのちっこいの。猫っていうのか」

 幼い声を響かせた黄金の竜は、"猫"と呼ばれた小さな黒いボールのような生き物を見ながら、首をかしげる。

 黒い猫は、毛を逆立たせながら、三本の尻尾も太くさせて牙を剥き出しにしていた。どうやら、シエルが手の上に乗せている小さな生き物は、黒猫の子供で、"子猫"のようだ。

「この子の親?はい!」

 シエルは三本の尻尾を持つ黒猫に言い、手の上に乗せていた小さな黒い生き物を笑顔で差し出す。あまりにも素直に差し出されたもんだから、呆気あっけに取られた黒猫は、逆立たせていた毛を徐々に収めて行った。

 地面に置かれた子猫は、親猫の元へたどたどしく歩いて行き「みーみー」と鳴いていた。

「大丈夫だったか?嫌な気配がしたんだが」

 子猫には、ひどく優しい声を響かせた黒猫。猫の親子の姿を見ていたユハンの目は、涙ぐんでいた。

「ごめんね」

 小さな子猫に、つぶやくように言ったユハンに心底驚いたような目を向けたのは、サイキとカミナリだった。

 闇の力で猟奇的になってしまった人は皆、自分のした事への罪悪感を持たないとされていた。

 闇の力を宿す者がいる家庭は崩壊する。愛情を学ぶ場でもある家族と言うものの在り方に、疑念や憎悪を抱く事が、闇の人格形成への拠点となるのだ。ユハンが、親の姿を見て急に罪悪感を持った事を思うと、サイキがユハンに与える愛情は伝わっており、家族の中に生まれる絆をしっかり認識していると言う事だ。

「てめーら」

 黒猫は低くも透き通った声を響かせる。黒猫が見ているのは、シエルとユハンだった。

「灰と闇か」

 黒猫の短い言葉に、辺りは一瞬無言になり言葉を失ったが、すぐに口を開いたのは、灰の子の親であるカイムだった。

「なぜ分かる」

 カイムは警戒心を漂わせるように硬い口調で聞いた。

「おいらには暗闇でも見える目がある。表に力が出てなくても、てめーの力もわかんぞ雷さんよ」

 口調に似つかわしくない透き通った品のある声を響かせる黒猫は、三本の尻尾を揺らしながら、腰を落として座った。黒猫の足元には、子猫が丸まっている。

「おまえ、何者だ?三本の尻尾が生えてるしゃべる猫なんて聞いた事がない」

 カイムは、さらに質問を浴びせた。

 目の前にいる異様な生き物に、眉をひそめるカイムは、幼い頃猫を飼っており、寿命をまつとうしたが、最後まで話す事も尻尾が増える事もなかった。

 ギンフォン国には餌がないため、動物は少なく、猫はほとんど見かけなくなっていた。国民の中には、猫の存在すら知らない者も多い。

「おいらは昔、風の竜だった」

 下を向いて答えた黒猫は、青い目を細めた。





───────────────
✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦

ここまでお読みいただき
ありがとうございましたm(_ _)m
来週の土曜日18時に更新予定です。
今後もお付き合いいただけたら
嬉しいです!宜しくお願いします。

✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦✦

しおりを挟む

処理中です...