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第四章 力との闘争
微笑み
しおりを挟む「え……あ!!!」
近付いて来た小さな物体に気付いたシエルは、目を丸くしてそれを見て声を上げた。
「…………」
ユハンもまた、大きな目をさらに見開いてそれを視界に入れる。
「うわー! かわいい!」
シエルはやわらかいほほ笑みを浮かべて、近付いて来た黒い固まりを両手で持ち上げた。
「何それ?かわいい?」
ユハンは、シエルと黒い物体を不思議そうに眺めて声を出した。
「うんかわいいよ。ほら」
シエルはユハンの手のひらにそっと黒い生き物を乗せて言った。
「…………」
ユハンは自分の手のひらに乗る小動物を眺めながら、手に力を込める。ユハンは、不思議そうに首をかしげながら、まるで、当たり前かのように、平然と手に力を込めた。
「みー! みー!」
彼女の手の中で暴れ始めた黒い物体は、手で締められているため痛みを感じ、懸命に声を上げていた。
痛みで悶える黒い生物を締め上げながら、ユハンは奇麗な笑顔を作ると「かわいいね」と口にする。
ユハンが手にさらに力を込めると、生き物は苦痛に歪んだ声を出して痛みから逃れようと体をばたつかせ始めた。ユハンは、生き物の痛々しい姿を見詰めながらも、変わらずほほ笑み続けている。
「ちょっ! 何やってんだ!」
そんなユハンを見たシエルは、怒鳴るように大きな声を出した。
シエルの声に驚いたユハンは、黒い生き物を持つ手の力を緩めた。彼女の手の中で息を切らすように呼吸を早める生き物は、ぐったりとしている。
「何て事するんだ! ひどいよ!」
彼女の手から黒い生き物を拾い上げて、泣き出しそうな声を出したシエルは、生き物を見詰めながら眉をハの字に変えた。
「…………」
シエルの姿を驚いた顔をして見ていたユハンは、彼が泣き出しそうな表情をした事で自分が悪い事をした事を初めて自覚したように「シエル…ごめん…ごめんなさい」と急に謝り始めた。
ユハンに熱が下がらないシエルは「何でそんな事するんだよ!」と再び怒鳴った。
「わかんない……ごめん」
シエルが血相を変えて彼女を見る目を見て、ユハンは怯えたように目を潤ませて泣き声に近い声を出し始めた。
少し冷静になって来たシエルは、黒くて小さな生き物を優しく包み込むように手を添える。シエルの手に包み込まれた小さな生き物は、光を放ち始め、薄い膜に覆われて行った。生き物の体を覆った薄い膜が消えて行くと、先ほどまで息を切らしてぐったりとしていた黒く小さな生き物は、元気を取り戻したかのように体を起こした。
「…………」
シエルはあんどしたかのように安心した顔をして生き物を見詰めた。
「ユハン、ダメだ。生き物を苦しめるのは絶対にダメ!」
隣で生き物を見詰めるユハンの顔を見ながら、力強く声を出したシエルは、とても怒っていた。
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ここまでお読みいただき
ありがとうございましたm(_ _)m
来週の土曜日18時に更新予定です。
今後もお付き合いいただけたら
嬉しいです!宜しくお願いします。
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