光と闇

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第四章 力との闘争

4人の天才たち ②

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 光の子が誕生し、成長が見守られる中で、成瀬南のほかに天才と言われている子供たちが、三人いる。二人は今年中学二年生、一人は今年高校入学の歳だ。

 彼らは七年前、メディアで大きく取り上げられ、将来を期待された人材たちであったが、光の子が成長するにつれ、神崎託叶の名がよくテレビをにぎわせる事になり、彼らの名が外に出る事はなくなった。テレビでは取り上げられなくなったものの、彼らがいる世代の全国模試の一位や二位は、必ず名前が出て来るため、同世代からは名前が知られている。

 現在中学二年の大宮おおみや和希かずきは、同じ歳のもう一人の天才、雨宮あまみや直人なおとの存在を、名前だけは知っていた。お互い違う県に住んでいるため、会った事はないが、お互いに意識し合う存在である事は確かだった。

 大宮和希は、全国模試の結果を先生から知らされ、苛々いらいらと眉をひそめながら廊下を歩いていた。

「なんで不機嫌な顔してんだおまえ」

 仏頂面で歩く和希に、絡むように首に手を回して笑いながら言うみつるは、和希が小学生の頃からの友達だ。

「全国模試の結果だよ」

 言葉を投げるように吐き捨てる和希。

「あ?全国模試?」

 みつるは目を丸くして言いうと「二位だったんだよ!  またあいつだ!」と悔しそうに和希は言葉をはいた。

「…………」

 声を押し殺すように笑い始めた充は、和希の肩に組んでいた腕を外しておなかに手を当てた。

「何笑ってんだよ!」

 充が笑い始めたのを見て、和希は怒ったように声を上げる。

「いや、また二位かと思って。一位はあれだろ。雨宮直人ってやつだろ?」

 笑いを堪えながら言う充は「つかおまえら毎回一位と二位とか、頭、おかしんじゃねぇの」と続けた。

「うるせぇ!  そうなっちまうんだからしょうがねぇだろ」

 和希は充から視線を外して前を見て言う。

 充はいつも笑って和希の話しを聞いていた。大きな重圧を抱える和希にとって、何でも笑い飛ばしてくれる彼の存在はとても貴重なものだった。

 教室へ戻った二人は、机に戻って帰る支度を始める。

「まぁ、気を取り直して飯食いに行かね?」

 かばんを手に取った充は、和希に静かに言うと「おう」と短い返事が返って来た。

 かばんを持って歩き始める彼らは、たわいもない話しをしながら学校を後にする。

 歩いている時、周りの生徒たちの視線は大宮和希一点に集中していた。話し掛けて来る訳もなく、ただ無言で見る彼らの視線を、慣れたように無視する二人は会話を続けながら歩いていた。

 かつて、類を見ない天才の一人と呼ばれた和希だったが、光の子が成長するに連れ世の中から騒がれなくなった事で、今では腫れ物のような扱いを受けていた。周りの視線に苛々いらいらしながら前に突き進んで行く和希は、再びメディアに騒がれる事になるとは思いもせず、友達と一緒にご飯を食べに行くため歩き続けた。

 大宮和希と雨宮直人は、別の地域に住んでいるが、同世代で天才と騒がれている事もあり、お互いの名前を耳にする事が多かった。

 そして、和希が友達とご飯を食べながら会話している頃、和希と同じ中学二年生の雨宮直人は、何人もの友達に囲まれ、人の良い笑顔を浮かべていた。絵に書いたような優等生を演じる雨宮直人は、クラスの皆に勉強を教えたり、先生の手伝いを自ら買って出たりしていた。

「直人くんがいてくれてよかった」

 先生は、雨宮直人に笑顔を向けて言った。

「いいえ、とんでもないです」

 資料を持ちながら先生に着いて行く直人は、やわらかい口調で言う。

「また一位だったね。おめでとう。今度は世界模試がある。頑張れよ」

 先生は直人の顔を見て、ほほ笑みながら口にし「世界模試だったら、大宮和希君や"野々村ののむらりゅう"君の名前もきっと出て来るだろう」と続けた。

「…………」

 直人はよく聞く名前を無言で聞いていた。

 彼らがメディアに騒がれるほど、天才と言われるには理由がある。

 エフティヒアの"天才"たちが騒がれるようになったのは、大人も参加する"世界模試"に、ある子供の名前が載った事がきっかけだった。

 世界模試はエフティヒアだけではなく、あらゆる国の人たちが年齢関係なく受ける事が出来る大規模のテストであり、エフティヒア人で五百位以内に入った人は今までに数人しかいない。

 天才と呼ばれる三人の中の一人、今は高校生の野々村ののむらりゅうが子供の頃、世界模試を受けた所、五百位以内に入ってしまったのだ。当時九歳だった野々村竜は、世界模試で五百位以内に入った史上最年少の記録を作り、世界からエフテフィアが注目されるきっかけを作った人物だ。

 それからと言うもの、天才と呼ばれる子供たちを大きくメディアが報道し始め、野々村竜のほかで名前が上がったのは、当時七歳だった大宮和希と雨宮直人だった。

 光の子が成長するに連れて、メディアは彼らを追う事はなくなったが、今もなお天才たちは知識を伸ばし続けている。

 世界模試と聞いて、雨宮直人は笑顔を浮かべて静かに口を開く。

「楽しみですね」

 そう、彼だけは分かっていた。世間でかつて騒がれた天才たちが、再び脚光を浴びる事になる事を。



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ここまでお読みいただき
ありがとうございましたm(_ _)m
来週の土曜日18時に更新予定です。
今後もお付き合いいただけたら
嬉しいです!宜しくお願いします。

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