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第二章 光の子と闇の子
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闇の子を産んだ日に夫を亡くした妻は、ミウンタを離れて別の町に住んでいた。
サイキが彼女に会ったのは、ミウンタやカントリーに着く前に寄ったマントと言う町での事だ。
マントは国の端に位置するミウンタから遠く離れた場所にある大きな町だ。
闇の子を産んだ母親は、家と子供を捨て、全く別の土地で生きていた。
サイキが彼女の下へ訪れた時、闇の子の母親、ハンナ・ハミットは当時の事を思い出して発作を起こした。
闇の子を産んだ日の事は、ハンナにとって大きなトラウマになってしまったのだろう。
顔は窶れ、皺は増え、当時とはかけ離れた姿に、サイキは大きく動揺した。
ハンナ・ハミットと言えば、国中が憧れるほどの美女だったと言われていたのだ。
彼女が落ち着いて話が出来るようになるまで、サイキは何日かマントに滞在する事を決める。
ハンナと話ができたのは、サイキが訪れてから5日目の事だった。
サイキはハンナに、闇の子を外に出し育てる事を告げると、ハンナは血相を変えて怒鳴り散らした。
闇の子を産んで死にかけた事、夫が自殺した事、家が焼け爛れた事、黒い闇が家を覆った事など、闇の子を産んだ時に、全てが同時に起こったのだと、"あれ"は外に出すべきではないと。
ハンナは叫ぶように口にしたが、サイキの決意は硬かった。ハンナは、サイキが町を旅立つ時も、闇の子を外に出す事を決して認めようとはしなかった。
サイキ・ハイレンが唯一説得できなかった人物は、闇の子を産んだ実の母親だった。
サイキは最後に聞いた。幸せな頃、夫と決めていたであろう、闇の子の名前を。
「ーーー」
ハンナは虚ろな目でサイキを見て、一言だけ呟き、町を出る彼女を見送る事もなく、部屋へ入って行った。
サイキは切ない表情を浮かべて閉ざされた戸を見続ける。
国中から、気さくで明るい美女と、うわさをされて来たハンナ。
「人は、ここまで変わってしまうのでしょうか」
サイキは小さな声で呟いた。
各町を回り、全てを説得し続けて来たサイキが初めて下を向いた瞬間だった。
───・・・
「ユ~ハ~ン」
サイキは目の前に座るヤンに、ほほ笑みを浮かべながら一言口にした。
「はい?」
驚いたように顔を上げたヤンは、目を丸くしてサイキを見ている。
そんなヤンの姿にクスクスと笑うサイキは「名前です」と呟いてさらに続けた。
「闇の子の名前はユハンです。ユハン・ハミット」
笑顔を浮かべてほほ笑むサイキの顔が、妙に切なげに見える事に気付いたヤンは、黙ってほほ笑み返すだけだった。
───・・・
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