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第二章 光の子と闇の子
灰の子の言葉
しおりを挟む「5年前、闇の子が幽閉されると聞きました。私の町は情報が遅くてね。そうなってから1カ月以上たってから知ったんです」
先ほどまで妙な口調で話していたサイキだったが、今は雰囲気が変わり、真面目な口調で話している。
「カイムさんと黄金の竜が反対したとの情報も得ています」
サイキは頭から手を降ろし、真っすぐにカイムを見据える。
「…………」
雰囲気が変わったからか、他の理由からか、カイムと竜は再び口を閉ざした。
かつて闇の子を幽閉し、唯一、反対の意見を述べたカイムと竜。彼らは、本当にこれでよかったのか、本当に正しかったのかと何度心の中で問いて来たのだろうか。
闇の話題になると話さなくなるカイムに気を使い、ラムもまた、闇の子について話をしなくなって行った。そうしている間も、真っ暗な闇の中で、過ごし続けている存在がいる事に目を逸らす事が、彼らの出した答えだったのだ。
カイムは、サイキから目を逸らして下を向いた。
彼女は、それでも口を開く。
「間違っています」
それはあまりにも強い口調だった。
”光の代表”とまで言われている人物を目の前にしても、目を逸らし続けた”闇”に再び背を向けるかのように、カイムは下を向いたまま顔を上げようとはしない。
「トイレもなければ窓もない地下に」
あまりにも強い目付きで
「食べ物も与えず、それでも生き続ける子供を幽閉し放置し続けるなんて」
あまりにも真っすぐに
「正しい選択であったはずがないでしょう?」
正義を語り続けるサイキの声を聞きながら、カイムは、下を向いたまま目に手を当てた。
「…………」
涙を拭くカイムは、闇の幽閉が決定された日の事を、思い出しているかのようだった。ラリー一家は、闇の話題を極力避け、見て見ぬふりをし、心の奥に幽閉の事実を封じ込めていたのだった。
「後悔…していました」
下を向き、目の涙を拭ったカイムは、顔をゆっくりと上げて言った。
「あなたたちも、私と同じ事を思ったから意見を述べたのでしょう。それは正しかった。あなたが後悔する事はないんです」
静かな口調で言うサイキ。
「きっと絶望的な雰囲気の中、決定した事。変えられない時だってあります」
まるで、カイムの心の蟠りを紐解くように、落ち着いた口調で話す彼女の言葉は、竜とカイムを妙に納得させた。サイキは一度もカイムから目線を逸らす事はなく、ひたすら真っすぐに見据え続けていた。
彼女の姿は、光の力が煌々と輝き、とても堂々とした貫録があり、言葉に説得力を生む雰囲気を作り出す。時に強い口調で話し、時に落ち着いた静かなトーンで話すサイキは、普段の姿からは想像も出来ないほどの説得力を持っている。
「…………」
再び無言になるカイムだったが、今は視線を下げる事はなく、彼女を視界に入れていた。暫しの沈黙を守った辺りは、落ち着いた静けさを保つ。
「あんた」
次に発言したのはカミナリ。竜もまた、普段とは違い、静かなトーンで話していた。
「その感じを見ると、町の長たちを説得したってのは、うそじゃなさそうだな」
サイキがカイムに意見する様子を、ずっと無言で見ていたカミナリは、幼い声を響かせながらも、低い声を出した。
「全ての町を回りました」
サイキは、しっかりとした口調で言うとカイムは驚いたようにさらに目を丸くし、カミナリは「うそだろ!?」と声を上げる。
「全部の町から闇を出す許しを得たって言うのか!?」
落ち着いた口調で話していたのは一瞬の事で、カミナリはすぐに普段の口調に戻ってしまっていた。
驚いて言うカミナリは、テーブルの上に足を置き、サイキの顔を直視する。
「えぇ、五年もかかってしまいましたが」
サイキはほほ笑みながら、黄金の竜に言うと、竜は再び宙を浮いて部屋を漂い始めた。
「闇の子が入れられてからずっと動いてたってか!? おいカイム! こいつなんだ!? すごいぞ」
まるで嬉しそうに声を上げたカミナリにカイムは「あぁ」と漠然とした返事をした。
「最後に灰の子を見に行って、あいさつしようと思いましてねぇ」
にこやかに笑うサイキは、いつの間にか変な口調に戻っていた。
「しかしまぁ、灰の子の言葉には驚きました。泣いてしまいましたねぇ」
闇の子を外に出すために、五年間各町を走り回っていたサイキは、灰の子が言った言葉を思い出しているようだった。
『はやく、おしえてあげて』
『はやく、ことばをおしえてあげて』
『ぱぱとままみたいに、はやく、やさしくしてあげて』
『はやく、こころをおしえてあげて』
ーそれで、きたんでしょー
「ただいまーーー!!!」
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