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第二章 光の子と闇の子
五歳の灰の子
しおりを挟む奇跡の子、神々の子が生まれてから、五年の月日が流れた。
五歳になった光の子、神崎託叶は、周囲の環境によって、最先端の教育を受ける事となった。託叶の個別教育の専門教師として呼ばれたのは、エフティヒア国内で、学力がトップの有名大学の教授だ。
どんなに天才的頭脳を発揮した学生であっても、通常であれば、義務教育中に別室の個別教育を受けさせる例もなければ、学校側が専属の教師を準備する事もまずない。奇跡の子と呼ばれる光の子の教育であるからこそ異例の特別扱いなのだ。
若くして天才の要素を生み出した光の子。
エフティヒアのメディアが特別教育の事を大きく取り上げた時、食べ物も少なく貧しい国、ギンフォン国で生まれた奇跡の子や神々の子もまた、大きな成長を遂げていた。
大きな島国のギンフォン国で産まれた灰の子は、光の子と同じく五歳になっている。
灰の子もまた、優秀な頭脳を持っており、両親や周りの大人たちを驚かせるような発言を繰り返した。天才だと周りが言い出した時、ギンフォン国は宴を開いた。
「おいおい。いくらなんでもはしゃぎすぎじゃねぇか?」
相変わらず小言を漏らす金色の竜は、辺りの宴の騒ぎを見ながらかわいらしい子供のような声を出した。
灰の子が産まれた町、カントリーでは、奇跡の子が天才的頭脳の持ち主だと周りが気付くと、宴で町の人たちは浮かれてお祭り騒ぎだった。
カントリーのコンハタウンに住む灰の子の両親、夫、カイム・ラリーと、妻、ラム・ラリー。彼らは、灰の子である息子を連れて、町で開かれている祭りに参加していた。
カイムとラムは、灰の子を連れて外に出て、宴に顔を出していたのだった。
「すごい! すごい!」
初めて見る人の多さに、興奮したように大きな声を上げる灰の子は、カイムに抱かれ、彼の首に手を回していた。人が多すぎて、小さな子供には視界が悪いのだろう。
「やいシエル! 見ろよ! おまえのためにこんなに人が集まってんだ」
幼い声を響かせた竜は、灰の子に話しかけた。シエルと呼ばれた灰の子は、金色の竜を視界に入れると、ニコニコと笑顔を浮かべる。
金色の竜は、シエルが産まれた時よりも二倍はど大きくなっていた。体の長さは二メートル近くになり、5年前より二回りほど太い胴体になっていた。幼い声が似つかわしくないほど、迫力のある竜だ。
竜の大きさは、神々の力の威力に比例すると言われている。雷の竜が大きく成長したと言う事は、カイムは日々、雷の鍛錬を怠らず力を強めて行ったと言う事だろう。
「奇跡の子」
「すごい大きくなったのね」
「灰の子だ!」
カイムに抱かれるシエルを見た町の人たちは、口々に歓迎の声を響かせた。
灰の子の宴に集まった町の人たち。そして、ほほ笑ましく周囲に笑顔を向けるカイムとラム。
「あ……」
呟くように声を上げたシエルの声に、誰も気付く者はいなかった。シエルはある一点を見つめ、目を丸くしている。
「…………」
一度声を出したきり、口を閉ざす彼は、人混みに紛れる一人の女性に釘付けになっていた。
巫女のような衣装を身に纏った女性は、真っ白な服を靡かせ、周囲から明らかに浮いていた。上の服は白衣で、下は行灯袴、袴姿の巫女装束だ。
彼女は遠くにいる灰の子を無言で見つめ、シエルの視線に気付いても、真顔でその場に立ち続けている。
「…………」
あまたの人たちがいる中、なぜかシエルと女の人は、目を合わせたままお互いに逸らす事はなかった。
「………ねぇ」
小さなかわいらしい声を響かせたシエルの声を聞き「?」金色の竜は彼の異変に気付いた。
一点を見つめたまま「ねぇカミナリ、あの人、光ってる」と、カミナリと呼ばれた金色の竜に、静かに話しかけるシエル。
賑やか周りでは、幼く小さな声は誰にも届かず、カイムとラムは周囲の町の人たちと話しており、シエルの声に気付いていなかった。
カミナリは、シエルの視線の先にいる女性の存在に気付く。
「…………」
シエルとカミナリは無言で彼女を視界に入れた後「おいカイム」と、カミナリが、ようやくカイムに声をかけた。
カイムがカミナリに視線を移す。ラムもまた竜を見つめて首をかしげた。
カミナリは「”光”が来てるぞ」とだけ言った。
カイムは目を丸くし、カミナリが見つめる先に視線を向け、遠くで、シエルを見つめたまま、立ち続ける女の人を確認すると、驚いたように声を出した。
「まさか…サイキ・ハイレンか?」
「…………!」
ラムもまた、驚いたように目を丸くしている。
ラリー一家は、サイキに向かい、歩き始めた。
「一体全体、”光”が何のようかね?」
黄金に輝く竜が、カイムたちに着いて行きながら小言を口にする。
「さぁな」
一言口にして進むカイム。
ラリー一家が歩き出したのと同時に、サイキと言う女性もまた、シエルに向かい、歩き始めた。
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