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18話
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「気分転換も兼ねて城下町を散歩してきたらどうだ? ほら、これお前の自由に使っていい奴だから。それで好きに遊んで来いよ」
翌日。
重みのある小さな革袋を渡され、私はこの建物の外に出ることになった。
昨晩で「私は家事方面において絶望的なまでの無能である」と確定した私はショックで半泣き状態になりながら眠りに落ちたわけだが、朝になってもヴィリス王子やマルファさんは私に軽蔑の視線を向けることなく笑顔で送り出してくれた。
器が大きい方たちであったことに感謝をしなくては。
もしあの場面で激しく責められていたら正直当分の間立ち直れなかったと思う。
とは言えこのままただの無能な居候の地位に甘んじるのは私の本意ではない。
今の私にも出来ることを何か見つけたい。それがどのような形になるのかは想像もつかないけれど、きっと何かあるはずだ。
自分の居場所は自分で作るもの。自分に対して改めてそう言い聞かせる。
革袋にはお金が入っていた。
一応仮にも貴族だった私たちランドロール家はこの国に来るにあたって持てるだけの資金を持ってこの国に来ている。
当分は遊んで暮らせるくらいあるはずだが、そのほとんどは父の手元にある。
つまり今自由が利くお金はそう多くないのでこれはありがたくいただこう。
「そう言えばお使いも頼まれたんだっけ」
金は自由に使ってくれて構わないが、帰りにオレの行きつけのパン屋でパンを買ってきてくれないか?
と、言われた。
ちなみにヴィリス王子は本日予定があるらしく、同行はできないとの事。
予定が無かったら町案内も兼ねてついてきてくれるつもりだったらしい。
当然私に断る理由などないので了承した訳だけど、始めて歩く町なので帰りの時間には少し余裕を持った方が良さそうだ。
そうそう。マルファさんには城下町の地図を持たされたんだった。
「本当はあたしが町案内して上げられれば良かったんですけどね。ちょっと忙しくて……でもこれがあれば多分迷子にはならないと思います!」
それはただの地図ではなく、要所要所にメモ書きが記されていた。
殿下の行きつけだというパン屋の場所も明記されているのでこれは非常に助かる。
他にもおすすめスポットや美味しい飲食店の場所なども記されており、正にいたせりつくせりと言ったところだ。
もしかして私のためにわざわざこれを作ってくれていたのかな。
そうだとしたらマルファさんには頭が上がらないな。
改めて深く感謝しつつ、私は城下町に向けて歩き出した。
「……結構賑わってる」
思わずそんな言葉が漏れてしまうほど、そこは人の往来が激しかった。
メインストリートと呼ぶべき大通りには様々なお店が展開されており、食べ歩きをする人、買い物をする人、どこに入ろうか迷っている人などで埋め尽くされている。
ディグランスの王都とはまた違った形で賑わっているその光景には目を奪われるものがあるな。
ただ私はどちらかと言えば静かな場所の方が好きなのでこういった場所はちょっと落ち着かない。
人ごみをかき分けながら大通りを進みつつ、先ほどの地図を頼りに抜け道を探す。
道中、屋台が放つ美味しそうな匂いに釣られそうになったが、その前に並ぶ行列を見るとちょっと今日はやめておこうという結論に至った。
しかし途中で見つけた家具屋やアクセサリー店には少々興味を惹かれ、導かれるようにふらふらと足を踏み入れてしまった。
結果として何かを購入した訳ではなくただの冷やかしになってしまったが、存外に楽しい時間を過ごせた気がする。
「そう言えば私、一人で街を出歩くの久しぶりかも」
これでも元公爵家の令嬢。当代の要の巫女である私が出掛ける時は大抵誰かがお付きとして付いてきた。
それはそれで悪い思い出ではないけれど、誰かに気を遣うことなく自由に歩ける時間と言うのも悪くない。
少し疲れた私は、先ほどよりは人気の少ない道のベンチに腰を掛けて休んでいた。
ちなみに今日はメイド服ではない。
私の私服の中でも比較的動きやすいラフな格好だ。
こういうのも持っておきなさいとお父様に買っていただいたものだが、なかなか着る機会がなかったのでちょうど良かった。
さて、そろそろどこかで食事でもと立ち上がろうとした時、
「隣、いいかな?」
透き通るような、それでいてどこか重みを感じる声が聞こえた。
するとそこにはサングラスをかけた背の高い金髪の偉丈夫が一人。
穏やかな笑みを浮かべながらこちらを見降ろしている。
「えっと、はい。どうぞ……?」
このベンチは数人が腰を掛けられるほど余裕があるが、他にも空いているベンチはあるはず。
何故わざわざここを選んだのかはよく分からなかったけれど、つい反射的に頷いてしまった。
「さて、初めましてと言うべきかな。リシア・ランドロール殿」
「えっ、何故私の名前を――」
「知っているとも。父上とヴィリスから聞いている」
「ヴィリス殿下から……? えっと、まさか」
「私の名はアラディン。アガレス王国第一王子と言えば分かるかな?」
そう言って彼はゆっくりとサングラスを外した。
翌日。
重みのある小さな革袋を渡され、私はこの建物の外に出ることになった。
昨晩で「私は家事方面において絶望的なまでの無能である」と確定した私はショックで半泣き状態になりながら眠りに落ちたわけだが、朝になってもヴィリス王子やマルファさんは私に軽蔑の視線を向けることなく笑顔で送り出してくれた。
器が大きい方たちであったことに感謝をしなくては。
もしあの場面で激しく責められていたら正直当分の間立ち直れなかったと思う。
とは言えこのままただの無能な居候の地位に甘んじるのは私の本意ではない。
今の私にも出来ることを何か見つけたい。それがどのような形になるのかは想像もつかないけれど、きっと何かあるはずだ。
自分の居場所は自分で作るもの。自分に対して改めてそう言い聞かせる。
革袋にはお金が入っていた。
一応仮にも貴族だった私たちランドロール家はこの国に来るにあたって持てるだけの資金を持ってこの国に来ている。
当分は遊んで暮らせるくらいあるはずだが、そのほとんどは父の手元にある。
つまり今自由が利くお金はそう多くないのでこれはありがたくいただこう。
「そう言えばお使いも頼まれたんだっけ」
金は自由に使ってくれて構わないが、帰りにオレの行きつけのパン屋でパンを買ってきてくれないか?
と、言われた。
ちなみにヴィリス王子は本日予定があるらしく、同行はできないとの事。
予定が無かったら町案内も兼ねてついてきてくれるつもりだったらしい。
当然私に断る理由などないので了承した訳だけど、始めて歩く町なので帰りの時間には少し余裕を持った方が良さそうだ。
そうそう。マルファさんには城下町の地図を持たされたんだった。
「本当はあたしが町案内して上げられれば良かったんですけどね。ちょっと忙しくて……でもこれがあれば多分迷子にはならないと思います!」
それはただの地図ではなく、要所要所にメモ書きが記されていた。
殿下の行きつけだというパン屋の場所も明記されているのでこれは非常に助かる。
他にもおすすめスポットや美味しい飲食店の場所なども記されており、正にいたせりつくせりと言ったところだ。
もしかして私のためにわざわざこれを作ってくれていたのかな。
そうだとしたらマルファさんには頭が上がらないな。
改めて深く感謝しつつ、私は城下町に向けて歩き出した。
「……結構賑わってる」
思わずそんな言葉が漏れてしまうほど、そこは人の往来が激しかった。
メインストリートと呼ぶべき大通りには様々なお店が展開されており、食べ歩きをする人、買い物をする人、どこに入ろうか迷っている人などで埋め尽くされている。
ディグランスの王都とはまた違った形で賑わっているその光景には目を奪われるものがあるな。
ただ私はどちらかと言えば静かな場所の方が好きなのでこういった場所はちょっと落ち着かない。
人ごみをかき分けながら大通りを進みつつ、先ほどの地図を頼りに抜け道を探す。
道中、屋台が放つ美味しそうな匂いに釣られそうになったが、その前に並ぶ行列を見るとちょっと今日はやめておこうという結論に至った。
しかし途中で見つけた家具屋やアクセサリー店には少々興味を惹かれ、導かれるようにふらふらと足を踏み入れてしまった。
結果として何かを購入した訳ではなくただの冷やかしになってしまったが、存外に楽しい時間を過ごせた気がする。
「そう言えば私、一人で街を出歩くの久しぶりかも」
これでも元公爵家の令嬢。当代の要の巫女である私が出掛ける時は大抵誰かがお付きとして付いてきた。
それはそれで悪い思い出ではないけれど、誰かに気を遣うことなく自由に歩ける時間と言うのも悪くない。
少し疲れた私は、先ほどよりは人気の少ない道のベンチに腰を掛けて休んでいた。
ちなみに今日はメイド服ではない。
私の私服の中でも比較的動きやすいラフな格好だ。
こういうのも持っておきなさいとお父様に買っていただいたものだが、なかなか着る機会がなかったのでちょうど良かった。
さて、そろそろどこかで食事でもと立ち上がろうとした時、
「隣、いいかな?」
透き通るような、それでいてどこか重みを感じる声が聞こえた。
するとそこにはサングラスをかけた背の高い金髪の偉丈夫が一人。
穏やかな笑みを浮かべながらこちらを見降ろしている。
「えっと、はい。どうぞ……?」
このベンチは数人が腰を掛けられるほど余裕があるが、他にも空いているベンチはあるはず。
何故わざわざここを選んだのかはよく分からなかったけれど、つい反射的に頷いてしまった。
「さて、初めましてと言うべきかな。リシア・ランドロール殿」
「えっ、何故私の名前を――」
「知っているとも。父上とヴィリスから聞いている」
「ヴィリス殿下から……? えっと、まさか」
「私の名はアラディン。アガレス王国第一王子と言えば分かるかな?」
そう言って彼はゆっくりとサングラスを外した。
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