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トマトに転生⁈

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「先輩またトマトだらけの弁当っすね」
「おう! 三食必ずトマトは食べているからな」
「本当にトマト愛を感じる弁当っすね」
「お前だって結婚する総務課の美香さんの愛妻弁当だろう」
「えっ⁈ まだ部長とかにしか話してないのに……」
「気をつけろよ。あんまり油断していると足元すくわれるからな」
「了解っす」

☆☆☆

 仕事が終わり埼玉の家に帰ろうとしているている時のことだった。
 俺は背後から何者かによって突き飛ばされホームから落ちてしまった。特急列車の光で目が眩む。
 油断するなと忠告した俺が一番油断していたのか……。
 意識はそこで途切れていた。

☆☆☆

 気が付くとそこはトマト畑だった。走馬灯のようなものだろうか?。ああ神様っているんだな。最後にトマト畑の夢を見せてくれるなんて……。
 気が付くと何者かに突かれていた。ゴブリンである。動いて追い払おうとしたが腕が動かない。ゴブリンの瞳に反射する俺の姿は何とトマトだった。俺は叫んでみることにした

「キシャ―――――!」
「ギャ?ギャヒ――!」

 ゴブリンは驚き逃げて行った。ざまあ見ろ、トマトは人類に神が授けた神聖なる食べ物ゴブリン如きが食していいものではない。

 その大声で近くにある家から中年のおっさんが現れた。

「もしや、キラートマトができたのかな?」

 おっさんは興奮していた。そして俺の前に来た時喜びが隠せないようで撫でてきた。流石にくすぐったいのでやめて欲しいと思い話してみた。叫べたのだから話くらいできるだろう。

「くすぐったいのでやめてもらえませんかね」
「これは伝説のトマト……インテリジェンスキラートマトだ!」
「これもしかして……異世界転生ってやつか?」
「そうなんですよ、稀に他の世界からの知識を持って生まれてくる人間やエルフ、ドワーフなどがいるんですがインテリジェンスキラートマトはさらに珍しいんですよ」
「俺、動けないんだけど、やっぱこのまま動けないのかな」
「今切り離しますね」
「おおっ! 空中浮遊できるのか! 気持ち良いな」
「他にできることは何かないのかい?」
「相手に噛みついて水分を吸収することができるかと……キラートマトの場合はですがね」

 それからおっさんに話を聞いた。どうやら相当なトマト好きらしく普通のトマトからフルーツトマトまであらゆるトマトを作り育てているらしい。
 
 しかし悲しいことに村の者からは変人扱いされ、トマト畑に石を投げられたりすることがあるという。村での蔑称は『トマト野郎』だそうだ。俺はこの愛すべき友を見過ごすことができないと思った。

 コツンと窓に小石が当たった。これが例の嫌がらせか……。許せん。

 おっさんに家から出してもらうと数人の悪ガキどもが、石ころを投げつけてくる。一個熟した美味そうなトマトが破裂した。もう我慢の限界だ。俺はおっさんの手のひらから空中を舞った。

 そして慎重にガキどもに気づかれにように背後を取った。そしてガキどもに指示をしているガキ大将の背後から首に思いっきり噛みついた。

「い、いてえええ!」

 戦では大将首を取ってしまえばよほどのことがない限り勝利である。子分のガキどもは恐ろしげに俺のことを見ている。
 
 段々とガキ大将が干からびていくのが分かる。殺しちゃまずいからな。もうかじるのをやめた。トマト農家のおっさんが水を持ってきて干からびたガキ大将に水を飲ませるが、元に戻ってもガキ大将の目だけは虚ろげである。

「いけない、魔力切れだ。ちょっと待っていてください」
「魔力切れ? なんだそれは?」
「この世界では魔力が生命エネルギーなんです。多分インテリジェンスキラートマトさんが噛みついた時水分の他に魔力も吸収されていたのでしょう」
「あっそんな良い感じに熟れたトマトをこんな悪ガキに食べさせるなんて勿体ない」
「いえ、トマトは食されるために生まれてきたもの、ここで食べさせなくて何がトマト農家でしょう」

 その言葉に、俺は感動した。そうだ全人類皆毎日三食トマトを食べるこれこそトマト好きのユートピアである。大事なことを思い出させてくれたこのおっさんに感謝である。

「ああ、俺……生きてる……」ガキ大将は眼に生気を取り戻した。

 そしてことの顛末を聞くとガキども全員が俺とトマト農家のおっさんに謝ってきた。

「もう、トマト野郎とか言いませんし、石を投げつけたりしません。良いよな、皆?」
 
 ガキども全員が首を縦に振った。そしてガキ大将は意外な提案をしてきた。

「あの……トマトさん、この村を救ってくれませんか?」

 何? 一介のトマトに過ぎない俺に村を救えと?

「一週間に一遍盗賊がやって来るんです。俺の父ちゃんは妹たちを守るために斬り殺されてしまいました」
「よし、分かった。一介のトマト如きに何ができるか分からんが、やってやるから村の偉い人を呼んできな」

☆☆☆

「どうも、インテリジェンスキラートマトさん、儂がこの村の村長です」
「で、盗賊団は何人くらいいるんだい?」
「はい、大体30名程になります」
「そうか、正攻法じゃ、相手をするのにも苦労しそうだな」
「何かいい策があれば良いのですが……」
「ちなみに盗賊が寝ている時間帯は分かるのか?」
「奴らは夜に酒を飲み、賭博をやり、昼は眠っているらしいです」
「それだ! 今すぐに盗賊のアジト近くまで案内してくれ」

 案内はトマト農家のおっさんが買って出てくれた。村はずれで盗賊の被害を受けていなかったことに引け目を感じていたらしい。どこまでもお人好しなおっさんだ。背中にはもしもの為の錆びついたカイトシールドをつけている。本当に良いおっさんだ。トマトじゃなければ酒を飲み交わしたいくらいだ。

「ここから見える、あの洞窟が奴らの根城です」
「分かった。気を付けるよ」
「頑張ってくださいませ。この厄介ごとが終わったら、あなた様を村長に迎えたいと村長が言っていましたよ」
「まあ、村長云々は置いておいて、人が傷つくのは見たくはないからな」
「殊勝な心掛けですな……」
「頑張ってみるよ」
「ではご武運を!」
「おうよ!」

 洞窟には寝ているが見張り番がいた。まずコイツから始末しよう。喉仏に噛みついた、ガキ大将にやった軽い感じじゃなくて本気で。数秒で見張りはミイラになった。その後も出会う寝ている盗賊のことを片っ端から噛みつき倒していった。
 盗賊の親分がいる部屋に入った途端、空気が変わった。もう相手は侵入者がいることに気づいているようだ。

「入ってこい、暗殺者よ」
「俺は言われた通り入った」
「なんだ? そのみょうちくりんな擬態は。しかし俺も一時は王都の魔術学院にいた身、恐ろしいほどの魔力を感じる」
「擬態じゃねえよ。俺はインテリジェンスキラートマト、お前を倒す者だ!」

 開戦の火ぶたは斬られた。相手は斧で斬りかかってきたがこちらは的が小さい。軽く避けて、思いっきりタックルを食らわせた。ゴキリとあばら骨の折れる音がした。

「畜生トマトのくせになんて硬さとスピードだ!」
「フレイムショット」聞いた瞬間俺は部屋を出た。案の定部屋は火に包まれた。逃げた俺を追いかけてきた盗賊の親分は驚いた顔をしていた。部下が全員干からびたミイラになっているのだ。

「お、俺はもう村を襲ったりはしないだから許してくれないか?」
「うーん、そうだなあ……」

 返事をしようとした時に相手は斬りかかってきた。また油断した。完全な無防備。あ、俺死んだ、と思った時に思わぬ助っ人が現れた。トマト農家のおっさんの盾に守られたのだ。
 後ろには武装した村人全員がいる。盗賊の親分は土下座して命乞いをしてきたが、今までの行いを聞いている俺は許す気にはなれなかった。顔面に張り付き水分と上質な魔力をいただき、他の盗賊どもと同じミイラにしてやった。

 その晩は遅くまで宴が催された。トマトを使った料理のオンパレードだった。ピザやらスパゲッティやらオムレツやらハヤシライスやら……とにかくトマト尽くしだった。そして誰かが言い始めたことなのだが今日の日をトマト感謝祭にしようと言うことになり、俺は村長になることになった。

☆☆☆

 10年後、俺は巨大新興国家『トマトピュア』の君主になっていた。最初はあの村の農民にトマトを崇める宗教を作ろうぜと笑い話をしていたのだが、まさか新興国家にまで発展するとは思わなかった。

 俺が鎮座されて馬車で外に出ると国民が「おめでトマト! おめでトマト! おめでトマト!」と騒いでいた。何故か分からず、宰相になったトマト農家のおっちゃんに聞くと、トマト感謝祭だからだと教えられた。こうなったら世界中トマト色に染めてやろうかなと野望に燃えるトマトだった。


ここまで読んでくれてありがトマト!
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