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【第4章理不尽賢者と魔導皇国グリムズガーデン】

【理不尽賢者と魔剣士Ⅷ】

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霧の都市ダースレイクの中央区ロンドスここには街のどこからでも見える巨城ラフタンピュティアがある。そこにこの都市の主『漆黒の魔法騎士ツァーク』が住んでいる。中央区の宿屋のオヤジの話だといつも漆黒の鎧を着ており眠ることもなく『原初』へ続く『鍵』を守っているという。この200年でラフタンピュティアに足を踏み入れた者は皆帰って来なかったという。



「丁度200年前だ。奴と剣を交えたのは……まだヤツはエルフ族にしては若かった。だから『鍵』を使いグリムズエルデンに行くのは容易かった。だが200年間で奴がどれだけ強くなったかは分からん」とカーヴァインは言い続けて「だがこちらには頼もしい味方がいる……お前だ、ローズマリー」

「『鍵』はそんなに奪うのは難しいのか?」

「『鍵』は魔力を吸収するだから門を開くまでが大変なのだ。だからお前の出番だ」

「色や形は?」

「鈍色の錆びた鍵だ。持っただけで体がダルくなるかもしれんから気を付けろ」

「了解、そっちこそ殺られるんじゃないぞ、ここは通過点なんだから」

「当たり前だ。私も伊達に長い間生きてはいないからな……」

「じゃあ大丈夫だね」



 中央区ゲンガは蒸気地区に比べるとおたやかで良い街だった。無数の商店が立っている。どれも遠方の地から運ばれてきたのが分かる。中には美術商もおり、なんとあの『灰色のマリア像』を持っていた。手にいれた経緯を聞くとあの華の都リリンツィで槍使いのヤツから買ったという。ルーンベルトめ、今度会うまでに幼少時女の子として育てられたことを広めてやる。



「ラフタンピュティアまでもうすぐだぞ?心の準備は万端か?」

「ああ、大丈夫だよ」

「ここからは無駄口はしないで集中しろ、以前とは違う状況のようだ」

 先を見ると霧に包まれた『不老人』達がカチャカチャと鎧の音をさせ、ぎこちなくこちらに向かってくるその数、数百。

 しかし、ローズマリーとカーヴァインはあうんの呼吸で霧の兵士達をかわしながらラフタンピュティアの門を目指した。しかし、数が多いこれがアンデッドなら迷わずファイアボールなのだが、相手は人間だ。多分『原初』に操られているのだろう。ぱんぴーを殺すような真似をしたら背中の名前が泣く。



「ようやくぬけたな」

「喋っている暇はないぞ、上から来るぞ! 気を付けろ!」



 顔が龍のようなマスクをつけた槍使い達が突然攻撃してきた。ラフタンピュティアの最後の親衛隊だろう。そのなかでも一番大きく立派な鎧をつけた者が前に出てきた。



「我が名はベルフェイン!ラフタンピュティアの親衛隊長だ。何用があってここを通ろうとする?」

「グリムズエルデンに行くためだと言ったら通してくれるのか?」

「たわけ者が! ここでそなたらのことを退けるのみ!」親衛隊に号令をかけると約50人の槍使いが襲いかかってきた。あたしはビリケンで、カーヴァインは峰打ちで敵をあしらっていった。

 最後に残ったベルフェインは覇気を纏っていた。

 そしてカーヴァインとベルフェインが交錯した近くの木々が一刀両断され地面も抉れている。

「古強者と見た、お前はダークエルフだな!」カーヴァインは剣のつばぜり合いをやめるため相手の体を蹴った。その瞬間にローズマリーは杖による一撃を相手の持つ槍に食らわせた。耳に響く音と共に槍は砕け散った。



「これで得物はないだろ。降参しなよ」ローズマリーが言うも相手は無反応だ。代わりに残った柄に炎の魔法ブレイジングランスで刀身を作り出した。ヤル気満々のようだ。



「ここからが本番だ……」ベルフェインは今まで戦った者の中で精神が1番強かった。タフさと多分主への忠誠心が高いのだろう。何度カーヴァインに斬られようと抗い続ける。



「殺すこともやむ形無しだな、お前は半端に強すぎた。ツァークへの忠誠心も並みではない。もう立ち上がるな、死ぬぞ」

「貴様らにツァーク様の何が分かると言うのだ!」鎧はボロボロになり最早立ち上がるのは無理なはずなのにベルフェインは立ち上がった。己の少なくなった魔力をエネルギーに変え魔力を暴走させている。自爆するつもりだ。あたしはとっさにビリケンを発動させた。なんだか死ぬには惜しいヤツに思えたからだ。



「起きたらまた襲ってくるかもしれんぞ」

「お前は相手に手心を加えすぎだ、いつかそのツケが回ってくるぞ」

「それも覚悟はしてるよ」

「ふん、お前は甘過ぎるよ」

「自分だってさっきの奴の部下のことは殺さない程度に手加減していたくせに……」

「……ふんっ」



 ラフタンピュティア城に侵入したが、中には誰もいなかった。不用心過ぎじゃないか? それとも何かの罠か? ローズマリーは警戒した。



「この城には先程の親衛隊の他、お付きのメイドが数人しかいないから警戒しなくていいぞ」

「なんで分かるんだい?」

「昔もそうだったからだ。その時はあのような強者ではなかったが……な。ツァークは用心深い、鍵の側から離れることは少ない。人が多ければ潜入されやすいからな」

「城に住んでるんだからもっと愉しめばいいのにな」



2人は螺旋階段を上り城の最上階霧の間に向かった。上を見ると深い闇に覆われていた。
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