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【第3章 理不尽賢者ローズマリーと魔法科学国オルケイア】

【理不尽賢者とその舎弟Ⅻ】

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王が解放されてから3日後のことである。ローズマリー一行は晩餐会に招かれた。

「そちらにはいくら感謝しても足りんな」現オルケイア国王スリムンガンドは厳粛な雰囲気で言った。

「王様のおっちゃんも大変だったね。半年も魔の者に憑かれていたなんて」

「こら! ローズマリー、あなたねえ相手はこの国の最高権力者なのよ」

「まあ良いのだ。セレーナ様、貴女も不肖の息子クリフトを助けてくれた恩人の1人だ。無礼講じゃ大いに食べ飲もうではないか」

「お父様、1つお願いがあります。どうかお聞き入れくださいませんか」

「良いだろう、次期国王クリフトよ。何でも聞くぞ」

「ならば今回有志で我が部隊に入ってもらった獣人族の部隊に王族にのみ飲むことを許された葡萄酒キングスレインと最高級の料理を振舞ってほしいのです」

「……それだけか?」王は急に不機嫌になった。

「いえ、あとオルケイア国内での獣人族・人間族平等法を制定して頂きたく思っています」

「うむ! ならば良いだろう」一点王は機嫌が良くなった。

「しかし、王様よお! あんた10年前王になってからも首都サザールと北の獣人族の大集落の間に壁をぶっ立てちまったんだろう。そんなあんたが何故クリフトの言う獣人族を向かい入れる法律にあっさり賛成するんだよ」エンデュミオンが偉く的をついたことを言った。

「それは説明するとわが命を狙う者もいるかもしれねが良いだろう。恩人には報いねば失礼だな」



 王スリムンガンドが言うには前王の時に獣人族を皆抹殺するべきだという人間族至上主義者たちが台頭したと言う。挙句の果てには正規軍まで出して獣人族を虐殺したり、奴隷にしたりすることまでやってしまった。そして一方的な虐殺を行うのを子供のころ見せられ現王スリムンガンドはトラウマになってしまったという。なのでこんな差別思想だらけの国にいるよりは魔王軍へ入りそれなりの身分で衣食住が満たされた方がこの国の獣人族の為になるのではないかと考えたらしい。そして壁を立てた理由も人間側がこれ以上獣人族に干渉するのを止める為だという。



「しかし我がバカ息子アザリスは人間至上主義者にまんまと持ち上げられあんな思想を持つようになってしまった。そちらに王旗のほんとうの教えを教えて進ぜよう」



 昔、全ての種族の始まりの『原初』がいたというその者らは羽を持ち空を自在に飛び無限の魔力と永久の命を持っていたという。そしてそこから6つの種族の始祖が生まれたという。ヒュームの英雄神イサリ、エルフの魔法王オベリウス、ドワーフの雷神トール、獣人の暴風の化身ライネス、亜人種の大棟梁ギガガゴグ、魔族の魔界の王ナハトの6人だ。彼らもまた無限に近い魔力と永久の命を持っていたが、子孫を作ると子孫たちは増える度に薄汚く愚かで脆くなったという。それを見た始祖つまり神々は呆れ果て神界に帰った者もいれば未だ未練を残し現世を放浪している者もいるという。



「これがこのシンダリア大陸に伝わる真実のシンダリア教の教えじゃ。私は前王を破ると決めたところでロレンツィオの今は亡き親友ダンドロからこの教えを密かに受け継いだのじゃ」

「それを聞いて……その取り返しのつかないことをしちまったと思うんだけどさ……」ローズマリーが身体をもじもじさせて次の発言をした。

「実はオルケイアに来る前にこの大陸のほぼ全ての魔族と亜人種を殺っちまった」

「何じゃと⁈ 貴女はほんとうに聖女なのか?」

「それはレビの村の村長やウルテジナ護衛団を助けたことが尾ひれがついて噂になっただけだよ」

「まあ。亜人種や魔族は魔王によって歪められてしまったからいつか来る結末だったのかもしれぬな」

「それに北の大陸モリガルアにはこの大陸のそれとは比較になるぬ強さを持つ魔族や亜人種がいるというからのう……」

「そ、それは本当なのか?」ローズマリーは目をキラキラさせた。

「これは全シンダリア大陸全王会議で共有されている秘密情報じゃ。うかつに喋れば命が危ないぞ」

「どうやってその大陸まで行ったんだ?」ローズマリーは魔王をぶっ倒すことがようやくできると思い興奮した柴犬のようになっていた。

「アラム騎士団というこの大陸一の冒険者たちが多大なる犠牲を払って得た情報じゃ。純度100%のミスリルで作られた飛空船で命からがら団長のアラムだけが生き残ったらしい」

「なるほど、じゃあアダマンタイト製の飛空船なら安全にモリガルアに行けるな」

「そんなものを作ろうとしたら白金貨がいくらあっても足りんぞ? お主大賢者の2つ名を持っているが本当に本物なのか?」

「勝手に他人が言い始めたことだよ。あんまり大賢者って呼ばれるのも気にしてないかな」

「ちなみに大賢者様私に憑りついていた影はやはり魔王軍の配下か?」

「違うと思う」

「ではどこの誰が放ったものなのだ?」

「気配からして南の強い奴が放った刺客だと思うよ」

「真か? アザリスも得体のしれないヒュームに唆されたと言っていた……では我が国は魔導皇国グリムズガーデンに目をつけられたということか……厄介じゃな」

「口をはさんで悪いのですがオルケイアと魔導皇国グリムズガーデンは仲が悪いのですか?」セレーナが言った。

「いや昔から南にあって恐れられている国じゃ。大昔は彼の国に対抗しようとしてデススコーピオンなる機械獣を作り出した阿呆なこともあったようじゃがな」

「じゃああたしが行って説得してやるよ。ダチ公の国がヤバい目に遭っているんだったら助けなきゃ本物のダチ公って言えないしな」ローズマリーは、クリフトの目の前で彼をダチ公と呼んだ。それを聞いたクリフトは泣き始めた。

「クリフトどうしたのだ?」

「僕は今までしゃていという名のローズマリー様の奴隷だったのです。それが対等な関係以上に扱ってくれるのが嬉しくて仕方がないのです。こんな世間知らずで馬鹿なこの僕を……うううっ」

「ふっ、泣くなよ。ダチ公よ、男前が台無しだぞ」

「俺は最初からダチ公だと思っていたぜ。【神速】が【閃光斬】に負けた時からな」

「わ、私だって始めは怪しい男だと思っていたけれど段々とそのダチ公っていうのになって言ったわよ」

 王は最初奴隷と聞いたときは身を乗り出していたが皆がクリフトを仲間だと認めてくれているとしり安心したようだ。

「良き仲間を得たなクリフトよ。その絆は何物にも代えがたい宝じゃ。大事にするのだぞ」

「はい、父上」

「それでは早いが明日略式の戴冠式を行う。わしは隠居してクリフトの頭の足りん所を補佐する」



 こうしてオルケイア国第三王子クリフトは戴冠式を待つ身になった。
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