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【第2章 理不尽賢者ローズマリーとリガイア共和国】

【乙女とユニコーン】

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あたしは今ユニコーンの背に乗ってオルケイアに行くための地図を貰いにシンダリア大陸の中央の国リガイア共和国の首都シュナイアに来ている。何故私がユニコーンに乗っているかは3日ほど前にさかのぼる。



「リガイア共和国はオルトリン執政官が事実上の独裁国家を作っている国だ。男尊女卑も激しく女子供は家で内職をし、男どもは大塩湖から吹いてくる潮風の中開墾を強いられている」リガイア共和国から帰ってきたらしいヒュームの青年シルは言った。なんでも自分の格闘技術を基礎とした流派の道場を開くため全世界を旅し己を鍛えているのだとか。淡々と話すが甘いマスクのおかげか感じの良い奴に思えてくる。あーそういえば、あたしは恋愛とかに全く無縁のまま高校を卒業し、レディースの総長兼特攻隊長になってしまったなーと自分の恋愛運の低さに驚愕していた。

 だがこれには一つ理由がある母が私の父に当たる人物に捨てられたという苦々しい現実だ。相手は某財閥の御曹司だったらしいが、妊娠した母に子供つまりあたしを堕ろせと言い、母がキレて(お母さんがキレたことなんてあたしが生まれてから一度もなかった)その御曹司をボッコボコにしたのだという。

 この話を聞いた幼いあたしは男どもを寄せ付けない負のオーラを纏うようになった。逆に女子からは毎日のように告られ、ふり、泣かせ、また告られるという無限ループの中で生きてきた。



「余と結婚してほしい」独裁者オルトリンからそう言われた時は心臓の脈が狂いそうになった。何せ人生初の男からの告白だったからだ。断る条件としては幻のユニコーンに乗って首都シュナイアの元老議員議会に現れることと言われた。ルーンベルトが何度も抗議していた。あたしがどれだけゲスイ戦法で悪漢共をしばき倒してきたかやユニコーンのような処女しか乗せない遥か昔に滅んだという幻獣にあたしみたいな殺戮兵器が遭えるわけがないと、半ば悪口のようにしか聞こえない抗議は2時間にもおよんだ。



この独裁国家リガイア共和国では極度の交通網の規制がされている。他国に侵略されたり内乱が起きた時に地図などがあると一気にそれらが燃え上がるからだ。だが、南のオルケイアという国に行くにはリガイア共和国の地図が必要だ。その為にオルトリンの親衛隊を拳のみで下し奴の前に参上すると奴はあたしのような強い女がこれからはこの国に必要だと考えを改めたらしくその象徴として妻になって欲しいとのたまったのだ。



 そしてその後三日三晩寝ずにあたしは血眼ちまなこになりながらユニコーンを探していた。あんな不細工と結婚するなんて冗談じゃない。しかしエンデュミオンの馬鹿ときたら「良かったな、人生初のモテ期が来て」と笑う始末だった。あいつめ必ずユニコーンに乗って首都に帰ってやる。その時にはあばら骨何本か頂戴しようと心に決め森を探索していた。

寝ていなかったので少し疲れ夢現で森を歩いていると少年が首輪をつけられダークエルフに引っ張られていた。少年は黄金色の眼に銀髪のやや中性的なイメージの大人しそうな雰囲気をしていた。首輪はきつく締められており可哀想だと思った。

「おい、ダークエルフのおっさん、その子は奴隷か?」問うとダークエルフはこう言った。

 都では男色好きな権力者が多数いるらしく森で遊んでいた少年を捕まえた、と。そしてあたしの特攻服を珍妙だとぬかしやがった。

 なんやかんやでフラストレーションが貯まっていたあたしは無意識のうちにダークエルフをボッコボコのバッキバキにしたらしく、助かった少年に抱きつかれた。その瞬間オルトリンに好きだと言われたのとは違うもっとこー甘酸っぱいふわふわした気分になった。少年は柔らかく抱きしめる力加減には安心感を覚えてしまった。

 そして疲れもあり眠ってしまった。で、気が付くとユニコーンに乗っていたというわけだ。もうすぐ元老議員議会に着く。どうだ、これが真の乙女の力だ。愛らしいユニコーンの鬣を撫でるとユニコーンは尻尾を振って喜ぶ。あたしはこのユニコーンの正体に気が付いているが誰にも言わないつもりだ。これは一時の秘密の恋の物語。摩武駄致まぶだち達にも内緒。私の人生の宝石箱にしまっておくつもりだ。



エンデュミオンとセレーナが手を振っている。遅れてあたしに気が付いたルーンベルトも手を上げた。これからまたオルケイアに向けて旅立たなければならない。寂しいがユニコーンとはこれが最後の逢瀬だろう。
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