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しーたん

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第二十話 -正体-

01

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「あ……ぁ…」

 それは、今のケイを崩壊させる地獄の走馬灯。

「まぁ…大量虐殺犯はちょっと言いすぎだよね。戦争だったんだし」
 グラグラと並行感のない闇の中を漂う中、嘲笑うようなアイムの声が頭に響く。

「そう…だ。…戦争…だったから…」
「だからって君一人で何十万人くらい殺したの? いや、何百万かな? 言っとくけど、君が殺した数なんてアポロンの比じゃないからね?」

「それは…ッ。戦争で敵を倒すのは普通だろ…ッ! アポロンのしてたこととは違う…ッ!!」
「で、そう言って戦うたびに弱い人たちの死屍累々の山を築き上げて正当化してきたわけだ。女性にも酷かったよね~君は」

「女は殺してないだろッ!!」
「命を助けてあげる代わりに条件として強姦レイプして自分の子供産ませたりしてたじゃない。アポロンと友達になれるんじゃない? 君」

「やめてくれ…ッ!! あれはそんなんじゃない…ッ!!」
「や、そんなんじゃないとかじゃなくて言い訳するならちゃんとしようよ。ほら、お友達が聞いてるよ? 戦争屋さん」

「やめろ…ッ!! 俺は戦いたくて戦ってたわけじゃ…ッ!」
「友達のために戦ってた? 義理人情のため? 確かに君は親友を大事にしてたよね。親友に冷たくした人をあっさり殺しちゃうくらいには。でもさ、それで結局その大事な親友も殺しちゃったら意味ないよね?」

「…ち…違う……ッ!! 殺したくなかったッ!! ほん…とに…殺したくなかったんだ…ッ!!」
 頭が、熱くてふらふらする。一気に全部の感情が押し寄せてきて。

「うん。殺した側は言えるよね。それ。で、息子さんの件も殺したくなかったんだ~とか言っちゃう?」
「そ…れは…ッ、し、知らなかったんだッ!! 気が付かなかったんだよッ!! ホントに…ッ!!」

「知らなかったで済めばなんとかはいらないってね。息子を殺してその言い訳で許されると思ってるところがまたすごい」
「なんでだよ…ッ!! なんで俺がそこまで言われなきゃ…ッ」


「大勢の人がね、君にいなくなって欲しいって言ってきてるんだ」


「…………嘘…だ」
 愕然と開いた目から、光が抜けていく。
 優しい声で悪魔は続けた。

「よく思い出してよ。昔もそうだったじゃない。君がまだ生きてた頃、どうやって死んだの?」
「………………」

「君を恨んでる大勢の人に汚いやり方で嵌められて、武器を奪われて丸腰にされて惨殺されていったんだよ。恨まれてることくらい知ってたでしょ?」
「……違う……俺は……」

「ちーがーわーなーいーの。それじゃ、訊くけど」


 君が大勢に殺されるとき、どうして誰も助けてくれなかったの?


「誰かが助けてくれれば良かったんだよ。君が戦えない状態にされてもさ。守ってくれる仲間がいればよかった話でしょ? あ、仲間なんていないか。だって君………いっつも一人で数万の軍隊と戦ってたもんね」
「……………」
 ついに返す言葉もなくなり、がっくりと膝をつく。

「あのね、ケイくん。君は今まで自分がヤクザの一員かもしれないとか、抗争に巻き込まれたかもとか考えてたみたいだけど、ヤクザは君だけ。君を襲ってたのは君の被害者だよ」
「…………」
 一体どうしてこうなってしまったのか。何を…間違えてしまったのか。



「この物語はね。最初から、みんなで力を合わせて君というラスボスを倒して平和を勝ち取ろうッ! っていう話だったんだよ」



 そもそもの発端は彼自身にあった。神界の戦争でも生前と同じことを繰り返し、毎日のように大量殺戮ならぬ死ねない屍を大量生産し続ける彼を恨んだ大勢の者が、ついに彼を封印すべく堕天し悪魔の力を借りて策略の末、やっとの思いで彼を封印できる寸前まで追い詰めた。

 ところが唯一計算外だったのが、誰も知らぬ間に彼が物理世界に転生していたことだった。神界で暴れまわっているだけの怪物に冥界で物理世界の人々のために働こうなどという殊勝な心掛けがあるはずもなく、何故彼がそんなことをしていたのかは誰にもわからなかった。
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