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第十一話 -禁忌-
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しおりを挟む…ぱたん。と本を閉じてケイが言った。
「…ごめん。やっぱリュコスの言う通りだ」
「ケイ?」
「こんな資料なんかで友達の過去を覗き見るなんて良くないよな。ごめん。もう余計なページは読まない」
「あ、ああ。そう…だな。俺の泥棒歴なんか六犯じゃ済まねぇしな」
「ほーーー」
呆れた目で見つめ返してからケイが再び本の別のページをめくる。
近くの木の陰で、軽く苦笑して息をついてから医神は黙って診療所に帰って行った。
◇
「あら、おかえりなさい。遅かったわね、レッピー」
「アルテミス…その呼び方はなんとかならないのか…?」
アスクレピオスが診療所に戻ると綺麗な女性がベッドを一つ占領していた。長い金髪をベッドの上に散らしながら透き通るような声で楽しそうに無邪気に笑う。
「あららん…私の可愛かったレッピーがいつからこんな生意気言うようになったのかしらね」
俯せになって足を交互に曲げて遊びながらからかうように言ってくるアルテミスに、アスクレピオスは無表情で何事もなかったかのように執務机に座って仕事をする振りをしながら返した。
「…アポロンに言われて来たのか?」
アルテミスはアポロンの双子の姉である。つまりアスクレピオスとピラムにとっては叔母にあたるが、何故か呼ぶときは姉さんと呼べと強要してくる。
「…どうかしらねぇ。ねぇ当ててみて、レッピー」
可愛らしい声を出してニコニコしながらアスクレピオスを眺めているアルテミスに、彼女の可愛い甥っ子は軽く息をついて硬い声で答えた。
「悪いが、今は忙しい」
「んー…つれないわねぇ…。アポロンからレッピーが新しいお友達を作ったって聞いたからお姉さん、心配になって見に来てあげたのよ?」
「…アルテミス」
「アルテミス姉さんって呼びなさい」
茶化した声でぴしゃりと言われるが、無視してアスクレピオスは続けた。
「ケイのことなら俺がなんとかする。あまり構わないでくれ」
「あららら…随分その子に肩入れしちゃってるのね。レッピーったら…」
ふっとアスクレピオスが気配を感じて顔をあげると、すぐそこに女神の透けるような笑顔があった。
「顔が本気になってるわよん?」
「…………」
そっとアスクレピオスの顔に細い指を添わせながら、母のような優しい声でアルテミスは囁いた。
「大丈夫よん。あなたの大事なお友達なら男嫌いの私も何もしないって約束できるから。お友達がアポロンにいじめられそうになったらいつでも言いなさい」
「…………」
その手を振り払うこともできずに黙ってされるがままになっていたアスクレピオスが何か言いかけた時だった。
「汚い手でいつまで触ってんの? おばさん」
不機嫌…というよりは殺気の塊が服を着て立っていた。
「あ~らピラム。あなたも最近よくここにいるらしいわね。あなたの双子のお兄さんもいるのかしら?」
「帰れよ」
身も蓋もないピラムの言葉にアルテミスが口元だけで笑う。
「怖い顔ね。……まるで親の仇にでも会ったみたいよん?」
「帰れッ!!!!!!」
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