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第七話 -音楽の神-
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「まったく、リュコスのおかげで散々だよ」
病院を出て冥界へ戻りながら愚痴るピラムにアスクレピオスが淡々と言う。
「まぁそう言うな。リュコスのおかげで私たちは一度助かったわけだからな。それに、悪いのはほぼ全部アポロンだ」
「『ほぼ』だけどね。でも、あの分だとリュコスを探しに冥界にも来るんじゃない? あの人」
「……塩でもまいておくか」
まだ何か話し続けているアスクレピオスとピラムが少し先に行ってしまった後、ケイの背後から声がした。
「言い忘れてたんだが」
「…………ッ!!!」
危うく叫ぶところだった。くつくつと喉を鳴らして笑っているアポロンの声が聞こえるが姿は見当たらない。ケイはなんとか何もいない空間に向かって訊いた。
「な、なな…なんだよ」
「ちょっと俺と遊ばねぇか?」
悪魔に誘われているかのようだった。くらくらする頭を叱咤しながらケイが必死に答える。
「…なんで俺なんだよ」
「三十分後にそこの病院の正面玄関に来い」
「…………」
無視してやるのは簡単だったが、それはそれで後が怖い。
アスクレピオスたちも悪魔からケイを守ってはくれてもアポロンから守るのは果たして可能かどうか…。
渋々指定された場所へ行く。
病院の幽界ははっきり言って怖い。アスクレピオスが仕事で何度か来ていたからケイも一緒についてきたことはあったが、ちょっとした肝試し状態だ。
「? なんだよ、正面玄関で待ってろっつっただろ。なんで外で待ってんだお前」
しばらく経って現れたアポロンに正直に答える。
「…………中は人が多いんだよ」
「ああ。怖ぇのか」
くつくつと笑っているアポロンに慌ててケイが怒鳴り返す。
「何の用だよッ!!」
「だから、俺と遊ばねぇかっつっただろ? どうせお前、入院してんだから朝になっても起きなくても平気だろ? ちょっと付き合えよ。…なぁ?」
不敵に笑うアポロンの目は美しい色に光っていた。
だがケイにはそれが…すごく邪悪な色に見えた。
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