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第六話 -医神-
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しおりを挟む「親以外にも、そこら中から盗んでは都合が悪くなれば私のところへ逃げてくる…。ま、今回はお前の護衛のために私の方から声をかけたが…」
「…………。なんであいつは捕まらねぇんだ?」
というか、彼の冥界での仕事は一体なんなんだろう。医神はわかりやすかったが。
「あいつは物理世界で言うルパン三世みたいなものだからな。盗みばかりしている割に何故か神界では嫌われないどころか奴に好意を持っている者が多い。いや、正確に言えばルパン二世か」
「物理世界の人格も泥棒とかじゃないだろうな…」
物理世界でやれば確実に刑務所行きのキャラだ。息をするように自然な流れでケイは用意していたセリフを吐いた。
「それで? 今日はナナミは随分早寝してくれたんだな」
「…………。よく気づいたな」
乾いた空気が流れる。ケイは軽く痛む頭を押さえた。
「まさかとは思ったけどな。はぁ…なんでナナミなんだよ…。つかお前、転生するときに女性とか選ぶか?」
まるでネトゲで少女アバターを作る男性のようだ。しかし、気づいてしまった時の衝撃はこちらの方が大きい。
「悪い。お前を騙すつもりはなかった。ただ、お前に物理世界でナナミに余計なことを話されると困る」
「だろうな。口外しねぇからさ。色々教えてくれよ。先生」
「……?」
いつもと様子が違うケイに少し驚いているアスクレピオスにケイは笑って続けた。
「いろいろ考えたんだ。最初は…なんかこう、異世界に迷い込んで神様に出会ったラノベの主人公みたいな気持ちでフワフワしてて…何にも考えてなかった。けど、神様にも名前があって、人格があって、いい奴も悪い奴もいて…リュコスみたいに泥棒もいるけど。…友達になれるんじゃないかって、思えたんだ」
「……………」
初めてだった。今までただただ流されてきた彼が、自分の意思を語ったのは。
「ナナミには何も言わない。レピオスからしてみりゃナナミは自分自身かもしれないけど、俺にとってはやっぱナナミはナナミだ。お前とは違う。俺は魂も霊体も俺だけど。…精一杯楽しんで生きたいんだ。どっちの世界でも。変かな? 何度も殺されかけてこれからもまだこんな生活が続くかもしれないって時に」
穏やかな目で語るケイに、アスクレピオスが軽く笑った。
「いや。楽しんで生きることは悪いことじゃないさ。それに、お前の言う通りナナミはナナミだ。霊体は私であっても、ナナミの人格は彼女の物だし、彼女の人生も魂も一度きりしかない命だ。次の人生があってもそれは別の人格の人生であって今の人生はこれきりだからな。…私の方こそ悪かった。もう少し、お前の気持ちを考えるべきだった。それで? 私の何を知りたい?」
こちらも初めてだった。
アスクレピオスが、自分のことについて話してくれる。それが嬉しくて、少し近づけたようで、ケイは勢い良く叫んだ。
「まず、なんでナナミを設定するときにシステムエンジニアにしたのかッ! あ、あと女性を選んだ理由とか?」
苦笑して、アスクレピオスはそれらの質問に一つ一つ答えていった。
「システムエンジニアは面白そうだと思ったからだ。今までの時代にはなかったものだし、私は比較的毎回どの人生でも違う職業を選ぶようにしている。女性を選んだのは偶然だ。前世は男性だったしその前は女性だった。特に性別にこだわりはない」
「ナナミの前世…。前回も日本人だったのか?」
「いや。私は千数百年前に日本に来て以来、日本の神には良くしてもらっているし、私も日本が気に入っていて本当は極力日本で活動したいが…前回の人生は第二次世界大戦の時期とかぶってしまってな。魂側の精神状態が極端に不安定になると仕事どころではなくなる恐れもあって、アメリカ人男性を選んだ」
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