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【桐壺】Kiritubo

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「何と美しい。まるで光り輝くような男の子だ。かの有名な物語の『玉の男皇子』とはこういうことか。
よく頑張ったな、桐子(ヒサコ)」
桐子と呼ばれた女性が儚げな笑みを浮かべた。彼女の名前は【宮内 桐子】(Miyauchi Hisako)」元貴族【宮内家】(Miyauchike)の本家の一人娘であった。

「お前を何と名づけよう。そうだ、【ヒカル】(Hikaru)にしよう」
嬉しそうにはしゃぎながら桐生とヒカルを交互に見やる男性の名は【御門 桐生】(mikado kiryu)、日本企業の中でもトップに位置するミカド財閥の総帥を勤める男である。桐生は元々妻子がいるため、二人の関係は世間で言うところの不倫の間柄であった。
桐子の実家は元貴族の由緒正しい家柄で、没落しているとはいえミカド財閥にとっては少なからずメリットがあるため正妻も仕方なく目を瞑っていたが、男の子を出産した話を聞くや否や宮内家への嫌がらせをし始めた。
桐生の正妻の父はミカド財閥を支える二大勢力である左代派と右代派、その右代派のトップ【右代 甚五郎】(Uadai Jingorou)であった。娘可愛さに右代が宮内に圧力をかけたのだった。
元々気弱で心優しい桐子はその事に心を痛め、産後の肥立ちも悪かった。
忙しい合間を縫って桐生が何度も見舞いに行くが、その甲斐も無く桐子はこの世を去った。


それから十一年後、ヒカル十一歳。
宮内家でヒカルは育てられていた。

「ヒカル」
サッカーボールでリフティングをして遊ぶヒカルが、その声の主のほうを振り返った。

「籐子姉ちゃん」
ヒカルの元へと嬉しそうに駆け寄る女性は【宮内 籐子】(Miyauchi Toko)十七歳、ヒカルのまたいとこに当たる人物だった。女子高の寮で生活をしている籐子は夏休みを利用して宮内の本家へ毎年遊びに来ているのだった。ヒカルは祖父母から籐子は桐子に瓜二つと聞いていた為幼少の時より思慕の情を抱いていた。しかしその気持ちは恋心へと少しずつ変化し始めていた。
そしてこの夏が、ヒカルにとっては最悪ともいえる夏になろうとはヒカルは思いもしなかった。

「久しぶりだな、ヒカル」
籐子との再開を喜ぶヒカルにもう一人の人物が声を掛けた。
父、桐生であった。左代家を刺激せぬように数年に一度だけ宮内家を訪れる桐生と、籐子はこの日が初めての対面だった。籐子を一目見た桐生が激しく動揺を見せた。桐子の仏壇に供えるための菓子をうっかり落としてしまうほどに。

「大丈夫ですか?」
籐子が桐生に駆け寄って菓子を拾い上げたが、桐生は籐子をじっと見つめていた。
「ひさ、こ」
桐生が小さく呟いた。
反応を返さない桐生に籐子が心配そうに見ていた。

それを少し離れていたところから見ていたヒカルが両の手の拳を強く握り締めていた。


桐子の仏壇に手を合わせた桐生が籐子を見ながら再び「ひさこ」と呟いた。

「そんなに似てますか?桐子姉さんに」
籐子が桐生を真っ直ぐに見て問いかけると、桐生も珍しく相貌を崩して微笑んだ。
「生まれ変わりとしか思えないほどです」
その場に居たヒカルの祖父 宮内も同意見のように頷いた。

「籐子姉ちゃん、遊ぼうよ」
二人の醸し出す雰囲気を引き裂くようにヒカルが籐子に抱きついた。
「こら、ヒカル。折角貴方のお父さまが来て下さったのよ、お話したいことあるでしょう?」
籐子が窘めるが、ヒカルが抱きついたまま離れようとはしなかった。

「まだまだ子供なんですよ、申し訳ないね、籐子さん。俺のことは桐生と呼んでください。
日ごろ父親らしい事をしないので、お父さんと呼ばれるのが気恥ずかしいんですよ」
桐生が大人の余裕でその場を納めた。
桐生が帰るまでヒカルが籐子に抱きついたまま離れることはなかった。


それから二月ほど経った秋。
数年に一度ほどしか宮内家を訪れない桐生が再びやって来た。

「許婚?ヒカルに、ですか?」
宮内が驚いて桐生に聞き返した。
「そうです。お相手のお嬢さんは【左代 葵】(Sadai Aoi)さんと言って、十五歳ですが、ヒカルのように多少子供っぽさのある子には年が上の方が良いと思いまして」
「右代さんのお嬢さん、ですか」
ミカド財閥の二大派閥の令嬢との縁談に、勢力争いを懸念した宮内が苦虫を潰したうな表情を浮かべた。
「お気持ちはお察しします。ですが左代家と縁を結べば右代家からはもう嫌がらせを受けることはなくなるでしょう。ヒカルがこれから成長するにしたがって右代家はきっとヒカルを目の敵にするはずです。ですから、この縁談はヒカルにとってはむしろ後ろ盾を得る機会なのです」
「ヒカル本人の意思も尊重して欲しい」
そういい残し、桐生の言葉に宮内がしぶしぶ頷いた。


その夏を最後に、籐子が宮内家に姿を現すことはなかった。翌年の夏に訪れぬ籐子に何があったのか祖母に聞いたヒカルが、その日を境に急激に変わっていった。夏の日差しのように笑うことも無く、まぶしく輝いた瞳は影を伴ったものになり、まるで別人のように豹変していった。

夏も終わりに近づいた頃、再び宮内家を訪れた桐生に、ヒカルは一つ約束事を取り付る条件付で葵との結婚を承諾した。

その年の秋、とあるホテルの一室で宮内家と左代家の顔合わせが執り行われた。
こうして宮内 ヒカル 十二歳、左代 葵 十六歳の縁談がまとまった。
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