上 下
19 / 61
第一章 日常ラブコメ編

第17話 ラブコメに必要なのはね、ルール無用の争奪戦なんだ

しおりを挟む
 放課後の約束も大事といや大事だが、俺にはそれ以上に大事な事があった。「自分の作品を書き上げる」と言う。昨日の夜に頑張った成果は……「作品」とはまで行かないまでも、人に見せられる(かも知れない)プロット、その骨組みを書き上げる事ができた。 
 
 骨組みの内容は、本当に雑だけど。内容の最初は、俺がラミアと出会って、その総称を聞いた所から始まった。「私は、モノフル。流行の作りだす力が集まって、キューブが擬人化した存在」と。その言葉が、今の不可思議な日常を作りだし、俺に「恋人(みたいなモノ)」と言う物をもたらした。

 今まで彼女すらできなかった俺に。絶世の美女もとへ、美少女を与えてくれたのだ。俺の意思は、まったく無視して。それこそ……まあいい。今は、文芸部に行かなくては。ノートに殴り書きしたプロットモドキを持って、文芸部の部室に向かう。部室の中ではやはり、藤岡がパソコンの画面に文字を打っていた。
 
 俺はいつもの席に座り、鞄の中からプロットモドキを取り出した。

「作品はまだ、書いていないけど」

 から数秒ほど黙る、俺。

「プロットは、作った。あとで作品が書きやすいように」

「そ、そう」とうなずいた藤岡の顔は、今まで見てきたどんな表情よりも可愛かった。「な、なら、あとは書くだけだね?」

「ああ? うん。だけど」

「ん?」

「これだけで書けるかな?」

 藤岡は俺の顔に視線を移し、パソコンも脇に置いて、俺に「見せてみて」と言った。

「プ、プロットを見れば、大体の事は分かる」

「そ、そう?」

 俺は、彼女にプロットモドキを渡した。

「こんな感じだけど?」

 彼女は、俺の書いたプロットを読みはじめた。まるでプロの……マジで現役の編集者だ。確認の集中力が違う。
 それを読んでどう思っているかは分からないけど、時折聞こえる「ふんふん」の声には、作家の心臓をビビらせる、脅しのようなモノが含まれていた。

 その脅しに生唾を呑む。
 
 俺は不安な顔で、目の前の少女に「ど、どうだ?」と訊いた。

「つまんない?」

 ここは、「面白いだろう?」ってツッコミはなしだ。だって、まったく自信ないし。「つまんない?」って聞く方が自然だろう? だからその感想を聞いた時も、がっかりはしないが、「マジで!」と嬉しがる事もなかった。

 藤岡は机の上に「それ」を置いて、俺の顔に視線を戻した。

「ふ、普通……って言うより、ちょっと一本調子かな?」

「一本調子?」

「うん」

 彼女は、俺の目を見つめた。

「時任君」

「ああん?」

「時任君が書きたいのは、ラブコメ……主人公とヒロインがただイチャイチャする話なの?」

 彼女の質問に固まる。自分では、そんなつもりはなかったけど、うーん。確かに……俺とラミアの日常を書き殴っただけでは、そう思われても仕方ない。俺達には(特に)恋の障害も無いし、二人の仲を引き裂く好敵手もいないのだ。
 
 障害も、好敵手もいないラブコメは、単なる作者の妄想、ほのぼの系のラブコメに過ぎない。俺としては、そう言う話でも良いけど。文章に魂を込めている藤岡には、そう言う話はお気に召さなかったようだ。
 
 藤岡は不満げな顔で、俺にプロットモドキを返した。

「ラブコメを書くなら、もっとヒロインを増やさなきゃ」

「ふぇ?」

 斜め上の答えに思わず驚いてしまった。

「ヒ、ヒロインを増やす?」

「そうだよ! たった一人の主人公を奪い合う。ラブコメに必要なのはね、ルール無用の争奪戦なんだ。ヒロイン達は、あらゆる手段を使って」

「ちょ!」

 俺は、(何故か興奮気味の)彼女を落ち着かせた。

「お前の趣味を否定するつもりはないが。俺は、そう言う話は苦手だぞ?」

 そりゃ、「モテたい」って願望はあるが。それだって!

「俺は、一人の女と真剣に付き合いたいんだ」

「時任君の趣味は、聞いていない!」

 藤岡は、机の上を叩いた。ヤバイ! 理由は良く分からないが、今日の藤岡は(って言うか、そう言うキャラだったのね)、これまでにないくらい荒ぶっていた。

「読者は、修羅場を求めているんだよ? 別に付き合っているわけじゃないのに……そう言う展開は、説明しなくても分かるよね?」

「あ、ああ、何となく。全員、何故か彼女面するんだろう? 『私の男を盗るな!』ってさ」

「そう! 時任君の話には、その修羅場が足りません! 読者のみんながドキドキするような」

 彼女は、椅子の上から勢いよく立ち上がった。

「時任君!」

「は、はい!」

「部長命令です! 来週までにこのプロットを書き直して下さい!」

「えぇええ!」

 俺は彼女の命令に反論しようとしたが……ここから先はもう、言わなくても分かるだろう? 例の悪い癖が出て、反論するどころか、その言葉に「分かったよ。書き直します」とうなずいてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...