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第一章 日常ラブコメ編

第7話 ファッションショー

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 今夜の晩飯は、豚カツだった。母ちゃんが近所のスーパーで買ってきた、お財布に優しい外国産の何とか豚。……はぁ、豚が胃袋の中に流れて行く。その表面にソースを付けられて、喉の奥に「うーん」と入って行くのだ。俺達家族は、その豚を問答無用に平らげた。

「ごちそうさま」と、俺の父親(以下、親父)。俺もそれに続いて、「ごちそうさま」と言い、キッチンの台所に食器類を持って行って、自分の食器を丁寧に洗った。「よし、終わり」
 
 所定の場所に食器類を片づける。ご飯茶碗とかは後ろの食器棚に、箸は専用の場所に入れた。俺はテーブルの席に戻り(所謂、食休みだ)、風呂の順番が来るまで、テレビの映像をぼうっと眺めつづけた。

 風呂の順番が来たのは、テレビのバラエティ番組が「キューブマニア」の事を伝えはじめた(そう言う番組の企画だ)時だった。
 
 俺は家の風呂に行き、今日の疲れを落として、自分の部屋に戻った。だが……たぶん、ノックをしなかったのが悪かったのだろう。「自分の部屋だ」と思って。今は(表現はおかしいが)、同年代の美少女と同棲状態(仮)にあるのだ。

 視界の中に飛びこんでくる、彼女の下着姿。
 
 俺は急いで部屋のドアを閉め、着替え中の彼女に「ご、ごめん!」と謝った。

「見るつもりは、なかったんだ」

 彼女は、俺の謝罪に応えなかった。無情にも響く、無音の声。その声に混じって、彼女の動作……つまりは、何かの服に着替える音が聞こえてきた。
 
 俺はその音に興奮する一方、罪悪感に悶え、その場にゆっくりと座り込んだ。俺がまた、床の上から立ち上がったのは、彼女が俺に向かって「入って」と言った時だった。
 
 俺は、部屋の扉を恐る恐る開けた。扉の向こうには、着替えを終えた彼女が立っていた。今日買ってきた服に身を包んで。その値札も、綺麗に切り取られていた。
 
 俺は、彼女の前に歩み寄った。彼女の姿に見惚れるように。彼女の姿はそう、美人画の中に美人が乗り移った程に美しかった。現実の人間では、決して表現できない。彼女は正に、生きた芸術品だった。

 その姿に思わず息を飲む。
 
 俺は、自分の気持ちを何とか落ち着かせた。

「そ、それって」

「今日、買って貰った服」

 どう? の目にドキッとした。

「に、似合っているな。それ」

「そう」

 彼女は満足げに笑い、今の服をゆっくりと脱ぎはじめた。

 俺はまた、彼女の身体から視線を逸らそうとした。

 でも、「逸らさなくて良い」
 
 彼女の声が、それを許さなかった。

「好きな人に見られるのは、構わない」

「なっ!」と、焦ったのは俺だった。いくら好きな人だからって。異性に裸を見られるのは、流石に抵抗がある筈だ。それなのに! 彼女には羞恥心と言うか、異性に対する恥じらいがなかった。

 彼女の身体に視線を戻す。

 俺は(なるべく見ないように)、彼女の身体をチラッと見た。
 彼女の身体は……言葉にできない程、綺麗だった。「綺麗」なんて言葉では、言い表せないくらい。彼女の身体には(下着姿だが)、男が憧れる「エロ」と、女が憧れる「美」が潜んでいた。
 
 俺は、その二つに息を飲んだ。
 
 彼女はその反応を笑い、また新しい服を着はじめた。

「これは、どう?」

「って」

 それはもう、可愛いしかないです。ミニスカートの彼女も魅力的だが、ロングスカートの彼女も大人っぽくってヤバかった。
 
 俺は胸の興奮を抑えつつ、あくまで冷静に「良いんじゃねぇの?」と答えた。
 
 彼女は、その答えにニッコリした。

「そう。なら、良かった」と言って、また今の服を脱ぎはじめる彼女。彼女は今の服を脱ぎ捨て、また次の服に手を伸ばした。
 
 俺はその光景に驚いたが、彼女の意図にふと気づくと、やっぱり冷静な顔で、彼女に「なぁ?」と話し掛けた。

「今日は、キューブに戻らなかった理由って」

「そう」

 彼女は、優しげに微笑んだ。

「あなたに『これ』を見せたくて」

「今日買った服を見せる、ファッションショーを?」

 俺は、彼女のサービス精神に感心した。

「お前って凄いんだな」

「え?」も言わずに、キョトンとする彼女。彼女は上着の袖に腕を通してからすぐ、俺の顔をまじまじと見た。

「何が?」

「そこまでやる根性が。普通は(たぶんだけど)、そんな事やらないぞ?」

 彼女は「分からない」と言う顔で、俺の目をじっと見つめた。

「私は、そうは思わない」

「ふぇ?」の言葉が無視されたが、別に気にならなかった。

「好きな人の為なら、喜んで裸にもなれる」

 言葉を失った。「恋愛」の持つ魔力に。恋愛は人を臆病にする(らしい)が、同時に大胆にもするようだ。

 彼女の大胆さにただただ驚く。
 
 俺は彼女の大胆さに感動しながらも、真面目な顔でそのファッションショーを楽しみつづけた。
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