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健斗の服を見繕って似合いそうなものを片っ端から買った。靴も擦り切れたスニーカーとか色が剥げたサンダルとか、そんなものしか履いていなかったので、新作のスニーカーと歩きやすそうなサンダルにお洒落な靴も数足買う。
そうして二人で両手に大荷物を抱えて帰ってきた。
長時間歩き回って疲れていたので、夕飯は適当にレトルトの牛丼でもいいと思っていたのだが、健斗は豚の角煮を作っておいたらしく、一緒に食べることになった。
ビールを持って行くと、健斗は買ったものは部屋の隅に積み上げておいて、小さな折り畳みテーブルに所狭しと料理を並べて待っていた。
ご飯もある。埃をかぶっていた炊飯器は、今ではほぼ毎日使っているらしい。炊き立てご飯の匂いと醤油と肉の食欲をそそるいい匂いが充満している。
思わず腹がなった。
健斗はニラとモヤシをフライパンで炒めている。味付けは塩コショウだ。
「もうできるから」
手際よく、二人分を皿に盛りつける姿からは、何もできないでいた頃が想像つかない。
俺がテーブルの前に座ると、健斗が皿持ってきて、テーブルの隅に置く。二人一緒に「いただきます」と手を合わせた。
まずは柔らかそうな豚の角煮から頬張った。口の中に入れた瞬間ほろりと崩れ、豚の油とうまみが口いっぱいに広がる。
「うんま!」
ご飯をかきこむと、口の中は幸せに包まれた。
嬉しそうに見ていた健斗も、豚の角煮から箸をつけ「ん、うまくできた」と顔を綻ばせる。
「料理の腕、また上がったんじゃないか?」
健斗は恥ずかしそうに「そうかな?」と頬を染める。
「もう失敗しないだろ?」
「そうでもない。ちょっと目を離した隙に鍋の底を焦がしたり、ゆで卵を爆発させたりしてる」
そう言うが、今では狭い台所に圧力鍋やら玉子焼き器などの以前見なかった調理器具が置かれている。包丁も出刃包丁など六本ぐらい揃えていて、どこまで極めようとしているのか……正直ここまではまるとは思ってもみなかった。
いつも「星矢くんにおいしい料理をたべてもらうため」と言って、自分のことより俺の好みを知ろうとする。そういえば、今日の服選びも、自分の好きな服より俺が見て似合うかどうか、好きな色は何色かどんなスタイルが好みか気にしていた。
自分に自信がないからだろうが、俺の好みより、自分の好きな服を着ればいいと思う。ああ、だからアニメキャラの服しかなかったのか……。
ふと気になって、健斗の前髪を上げてみる。
「なななな……」
健斗は顔を真っ赤にさせて、身を引いた。
「お前、その髪の下、いい男が隠れてんじゃん」
「全然いい男じゃない。目だって垂れてるし、眉毛が濃いし……そばかすも消えない」
箸をきつく握りしめ、健斗は唇を噛みしめる。今まで前髪で顔を隠していただけあって、相当コンプレックスのようだ。
俺が見るからに目はそれほど垂れていないし、眉毛はきりりとして男らしいと思う。そばかすも目の下に少しあるだけだ。それほど目立たない。
「目鼻立ちがすっきりして、好きな顔だけどな。そばかすも嫌いじゃないし」
そう言うと健斗は驚いて箸を落とした。何やらわらわら震えている。
「ほほほ本当?」
「マジ。健斗は気にしすぎだと思うけどな。人って思ってる以上に他人のことなんか気にしてない。健斗だって人の顔気にしないだろ?」
健斗は、ぼうっと俺の顔を見ていたが、やがて考えが至ったのか頷く。
俺は再び健斗の髪をかきあげた。今度は健斗も嫌がらず、黙って俺のしたいようにさせてくれたが、顔が茹蛸のように赤い。
「俺も星矢くんの顔が好き。顔だけじゃなく、面倒見がいい性格も、困った人に手を差し伸べる優しさも好き」
健斗はもじもじししながら、急に褒めてくる。
「あ? 俺を褒めてもなんも出ねえよ」
恥ずかしくなって健斗から手を離すと顔をそむける。
「星矢くんがそう言うなら切ろうかな……」
健斗は自分の前髪を摘まみ「……でもな……美容院って……」とぶつぶつ言いながら、夕飯をそっちのけで思案していた。
そうして二人で両手に大荷物を抱えて帰ってきた。
長時間歩き回って疲れていたので、夕飯は適当にレトルトの牛丼でもいいと思っていたのだが、健斗は豚の角煮を作っておいたらしく、一緒に食べることになった。
ビールを持って行くと、健斗は買ったものは部屋の隅に積み上げておいて、小さな折り畳みテーブルに所狭しと料理を並べて待っていた。
ご飯もある。埃をかぶっていた炊飯器は、今ではほぼ毎日使っているらしい。炊き立てご飯の匂いと醤油と肉の食欲をそそるいい匂いが充満している。
思わず腹がなった。
健斗はニラとモヤシをフライパンで炒めている。味付けは塩コショウだ。
「もうできるから」
手際よく、二人分を皿に盛りつける姿からは、何もできないでいた頃が想像つかない。
俺がテーブルの前に座ると、健斗が皿持ってきて、テーブルの隅に置く。二人一緒に「いただきます」と手を合わせた。
まずは柔らかそうな豚の角煮から頬張った。口の中に入れた瞬間ほろりと崩れ、豚の油とうまみが口いっぱいに広がる。
「うんま!」
ご飯をかきこむと、口の中は幸せに包まれた。
嬉しそうに見ていた健斗も、豚の角煮から箸をつけ「ん、うまくできた」と顔を綻ばせる。
「料理の腕、また上がったんじゃないか?」
健斗は恥ずかしそうに「そうかな?」と頬を染める。
「もう失敗しないだろ?」
「そうでもない。ちょっと目を離した隙に鍋の底を焦がしたり、ゆで卵を爆発させたりしてる」
そう言うが、今では狭い台所に圧力鍋やら玉子焼き器などの以前見なかった調理器具が置かれている。包丁も出刃包丁など六本ぐらい揃えていて、どこまで極めようとしているのか……正直ここまではまるとは思ってもみなかった。
いつも「星矢くんにおいしい料理をたべてもらうため」と言って、自分のことより俺の好みを知ろうとする。そういえば、今日の服選びも、自分の好きな服より俺が見て似合うかどうか、好きな色は何色かどんなスタイルが好みか気にしていた。
自分に自信がないからだろうが、俺の好みより、自分の好きな服を着ればいいと思う。ああ、だからアニメキャラの服しかなかったのか……。
ふと気になって、健斗の前髪を上げてみる。
「なななな……」
健斗は顔を真っ赤にさせて、身を引いた。
「お前、その髪の下、いい男が隠れてんじゃん」
「全然いい男じゃない。目だって垂れてるし、眉毛が濃いし……そばかすも消えない」
箸をきつく握りしめ、健斗は唇を噛みしめる。今まで前髪で顔を隠していただけあって、相当コンプレックスのようだ。
俺が見るからに目はそれほど垂れていないし、眉毛はきりりとして男らしいと思う。そばかすも目の下に少しあるだけだ。それほど目立たない。
「目鼻立ちがすっきりして、好きな顔だけどな。そばかすも嫌いじゃないし」
そう言うと健斗は驚いて箸を落とした。何やらわらわら震えている。
「ほほほ本当?」
「マジ。健斗は気にしすぎだと思うけどな。人って思ってる以上に他人のことなんか気にしてない。健斗だって人の顔気にしないだろ?」
健斗は、ぼうっと俺の顔を見ていたが、やがて考えが至ったのか頷く。
俺は再び健斗の髪をかきあげた。今度は健斗も嫌がらず、黙って俺のしたいようにさせてくれたが、顔が茹蛸のように赤い。
「俺も星矢くんの顔が好き。顔だけじゃなく、面倒見がいい性格も、困った人に手を差し伸べる優しさも好き」
健斗はもじもじししながら、急に褒めてくる。
「あ? 俺を褒めてもなんも出ねえよ」
恥ずかしくなって健斗から手を離すと顔をそむける。
「星矢くんがそう言うなら切ろうかな……」
健斗は自分の前髪を摘まみ「……でもな……美容院って……」とぶつぶつ言いながら、夕飯をそっちのけで思案していた。
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