拗らせリアコネクト

山吹レイ

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「違う! それを燃やせるゴミの袋に入れるな!」
 俺は軍手をつけた手で男の手からお菓子のパッケージを奪い取る。プラの表示が見えないのだろうか。よくわからない様子の男を一瞥して、違うゴミ袋に入れる。ついで足元に転がる目薬の箱を手に取り、男が持つ燃やせるゴミの袋めがけて放り投げる。
 いちいち説明していたら、今日中にこの汚い部屋の掃除が終わりそうもないので、勝手に分別してゴミ袋に入れているが、どうしたものか……この生活能力のない男がこのまま放置されれば、数日してまた散らかった部屋を掃除する羽目になるような気がする。
 一歩足を踏み出すと、パリと何かが割れる音がして慌てて片足を上げた。そこには袋から出たせんべいが粉々に割れ、靴下にもべったりと張りついている。
 怒りがこみ上げたが、そこをぐっと我慢して命令した。
「お前はペットボトルを片付けろ。ラベルは剥がす。蓋を外す。中を洗う。やれ」
 男は何度も頷いて、転がっている空のペットボトルを手に持つ。
 それを横目で見ながら、なぜ俺がこんなことをしなければならないのか、という疑問がわきあがった。
 友人に頼まれても、できないことは嫌と言えるほどにはあっさりした性分だと思っていたのに、この男に「助けて」と乞われて、はねつけることはできなかった。
 ただでさえ面倒見がいいほうじゃないのに、しかも関わりたくないと思った隣人だ。
 まあ、何度も鈴木さんに怒られて可哀想だとは思う。しょんぼりする姿に同情はしたがそれも言ってみれば自業自得。もしかしたら、少しだけ絆されたのかもしれない。それとこれで隣人が部屋を片付けて静寂が戻ってくるならという気持ちもある。
 せんべいの袋をゴミ袋に突っ込み、踏んだせんべいはあとで箒で掃くなり、掃除機で吸い込めばいいと、落ちていたボールペンを手に取る。
 要るか要らないかなどいちいち訊きはしない。落ちているものは全てゴミだ。
 顔を上げると男はペットボトルのラベルを躍起になって剥がそうとしている。たった一つのことにすら手間取っている男に対し、俺だけが部屋の中を片付けている状態だ。もう呆れを越して諦めの境地になる。
 こうなったら不器用なこの男にどうやっても分別を覚えさせないといけない。でないとまた二の舞になる。こんなこと二度としたくない。
「おい。ちゃんと頭の中に叩きこんどけよ」
 そう言葉をかけて、拾いながら分別の説明を加えながら片付けていく。男は手を止めて真面目に聞いていた。俺はなるべく怒り口調にならないように気をつけながら、言い聞かせるようにゆっくりと話す。
 男は口を挟むことなく黙って聞いていて、訊いたことに関しては時折頷いたり首を横に振ったりする。
 そうしているうちに、ゴミ袋がいっぱいになったので、次の袋を広げる。
 いつしか室内は薄暗くなっていた。
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