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雪のように、とけていく(前編)
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取引先の営業の人と居酒屋で別れ、水江伊摘は雪が降る空を見上げる。
街頭の灯りに照らされて舞う雪は儚げで美しく、しばし伊摘は立ち尽くして天を仰いだ。
都心では雪が珍しいが、北海道に帰れば、うんざりするものに変わる。
もっとも、今シーズンは都心でも雪が積もるほど降り、今日も雪か、と眉を顰めた人も多かっただろうが。
吐く息が白く、コートの襟を立てて、伊摘は鞄を脇に挟み掌を擦る。
まだこのくらいの寒さは序の口ともいえる寒さだが、つい今しがた居酒屋でぬくぬくと酒を飲んでいただけに、寒さが堪える。
ぶるりと体を震わすと、伊摘はポケットに手を突っ込み、足早に歩き出した。
明日は朝一の飛行機で北海道に帰る。
伊摘は東京生まれの東京育ちだが、訳あって十年前北海道に引っ越した。
はじめは馴染めないと思っていた雪や寒さも、十年も暮らせば慣れもするし、自然と愛着もわいてくる。
それに食料自給率が高いだけあり、地産地消を推進している北海道では、食料が新鮮で安く安全でなおかつおいしい。もちろん、東京と比べ物にならないほど自然が豊富で環境もよく、雪がなければ、これほど住みやすい場所もないだろう。
「あ」
小走りに走ってくる女性にぶつかり、伊摘は咄嗟に手を伸ばして女性の腕を掴んだ。
目が合うと女性は恥ずかしそうに顔を赤らめて、滑ったヒールを手前に引いた。
「すいません」
よほど急いでいるのか、女性はすぐに走り去っていく。
東京と北海道では人の多さも忙しさも違う。
北海道でのんびりとした生活を送っている今では、今更その忙しさに身を投じることはできないだろうと思った。
東京に来たのも十年ぶり。そう、東京を離れてから一度も足を踏み入れることはしなかったので、余計人の流れや忙しさが目についたのかもしれない。それだけ北海道の風土や時間の流れがしみこんでしまったのだろう。
伊摘は二十八歳になった。
十年前を思えば、財布さえ持たず、逃げるように東京を後にしたことを、懐かしむだけの余裕も出てきた。
胸はもう痛まない。
あれほど毎夜苦しめていた夢も見なくなって久しい。
あと二年で三十歳。
その頃には結婚をして子供もでき、誰かと共に暮らしているのだろうか。
今現在恋人がいない伊摘には、結婚という文字が随分遠く感じられた。まして自分の子供など想像がつかない。
「ふっ……」
思い出したくないことを考えてしまい、俯き苦笑する。
今まで数多くの人と付き合ってきた中で、恋人として思い浮かべるのはたった一人だけなのだ。
伊摘と同性の逞しい体をした乱暴な人。
伊摘が東京を捨て北海道で暮らすきっかけになった男だ。
夢は見なくなったとはいえ、男の存在は今も忘れがたい。忘れようとしても忘れられないのだ。
今もこうして十年ぶりに東京に戻ってきたと思うだけで、胸を騒がせる。
会うはずがないのに。会えるはずがないのに。
伊摘は顔を上げて、ふんわりと微笑む。
苦い思いも、雪のようにとけてなくなってしまえばいいのにと。
向こうから歩いてくる若い女性は、微笑んだ伊摘と目が合い、ぎこちなく視線をそらした。目元がうっすらと赤い。
目をそらしたものの気になるのか、女性はすれ違いざま、伊摘をちらり横目で見つめる。だが、伊摘はもう女性を見ていない。女性はがっかりした顔で通り過ぎる。
伊摘は急に足を止めた。
酒でほんのり赤らんでいた顔が、見る見るうちに青ざめていく。
目を見開き、驚きに口を開けたまま立ちすくみ、伊摘は向こうから歩いてくる人の群れを見つめる。
歩道を塞がんばかりに横に広がり、我が道のように闊歩している十人ほどの男たち。
通行人は邪魔だと思っているものの、誰一人として彼らを注意しない。逆に彼らに道をあけ、かかわらないように車道側を歩く者もいた。
格好や鋭い眼差しを見ただけで、彼らの職業が人の道から外れていることがわかる。ヤクザだ。
その中央にいる、いかにも周囲の男たちを従えている貫禄のある大柄な男を、伊摘は呆然と見つめていた。
男は最初、気づいていなかった。
厳しい顔をして、車の流れを見るとはなしに見ていたが、まるで引きつけられるかのように視線を正面に向けた。
伊摘ははっと我に返り、ぎこちなく視線をそらすと汗ばんだ手で鞄を持ち直した。
その手が小さく震えていた。吐き気がする。
まさか、こんなところで会うとは思わなかった。
偶然という言葉で括るには、あまりにもタイミングがよすぎる出会いに、運命は残酷だと感じずにはいられない。
東京は広い。なのに、こんな場所で会うなど、しかも明日には帰るという滞在期間の短い中で、よくこうもばったりと偶然出会ったものだ。
運命、という言葉を信じたくはないが、今ここで会うのが定めならば神は本当に意地悪だ。
伊摘はごくりと生唾を飲みこんで、咄嗟に足を引いて踵を返そうとした。
みっともなく逃げてどうする。もう、伊摘は男となんの関係もない、赤の他人だ。
伊摘は俯いたまま踏みとどまった。
そして震える唇を噛み締め、引いた足を前に踏み出し、意地で歩きだした。
十年前に姿を消し、逃げた伊摘を男が今更追うはずがない。
なんでもない振りを装って通り過ぎてしまえば……。
「伊摘」
すれ違う瞬間、名前を呼ばれ、伊摘は口から心臓が飛び出しそうになるほど驚いた。
緊張し、うるさい心臓を宥めるように平然を装っていた表情が、一瞬で剥がれ落ちる。
伊摘は恐怖のあまり顔を強張らせて走り出した。
「組長!」
走る伊摘の背後から息遣いが聞こえる。
男が追いかけてくる気配に、伊摘は死に物狂いになりながら走った。
「きゃっ」
すれ違う通行人に当たろうが、靴を踏みつけようが、押しのけて伊摘は闇雲に走る。
だが、あっという間に襟首を掴まれて、アスファルトに倒された。
「うっ」
倒れた衝撃で膝や手、頬をすりむき、スーツやコートは雪でとけた泥に塗れる。
巨漢からは信じられないほど俊敏な動きで、男はもがく伊摘を上から押さえつけていた。
何事かと周囲は一瞬ざわついたが、伊摘をねじ伏せる男の鋭い眼光を目の前にして、見てはいけないものを見てしまったように、皆一様に足早に去っていく。
伊摘は痛みに顔を顰めて、大きく息を吸った。
そのとき、馴染みある男の体臭とフレグランスのない交ぜになった匂いが鼻を掠め、涙が溢れそうになる。
懐かしい匂いは今も伊摘から冷静さを失わせるだけの効果があった。
十年経てもなお心の琴線を震わす男。
「組長! どうかしましたか? その男がなにか?」
後を追ってきた男たちがわらわらと集まってくる。
「車を持って来い」
男はその質問には答えずに、有無を言わせない声で命令した。
十年も経てば忘れるだろう男の声音も、伊摘の耳はしっかりと覚えていた。低く滑らかなその声が、激怒した際、いかに乱暴に冷たく変わるのか、伊摘を抱くとき、どれほど甘く蕩けた睦言を囁くのかを。
忘れるわけがない。
これほど人を愛したことはないと思えるほど、愛した男なのだから。
伊摘はあっという間に車に乗せられ、拉致同然で男にマンションの一室まで連れてこられた。
襟首を掴まれ、引き摺られた状態で部屋に入り、リビングを抜けて寝室へと入るなりベッドに放り投げられる。
シーツや毛布が伊摘の衣類についた泥で汚れた。
身長百九十センチを超える筋肉隆々の大男にとって、百七十五センチの細身の男は、大して苦にならない重さだろう。
放られた衝撃はベッドが柔軟に受け止めてくれたおかげで怪我はなかったが、逃げる間もなく男は伊摘の上に馬乗りになると、手を頭上へと拘束する。
キングサイズのベッドが男の重みで沈み、軋む。
胸にぴたりと重なる男の厚い胸板、伊摘を跨ぐ太い太股、股間の怒張した昂りに目眩を覚えながら、男から発せられるむんむんとした熱と野生じみた匂いを吸いこんだ。
否が応でも、昔を思い出さずにはいられない。
この粗暴な男のセックスがどれほど伊摘を情熱的に満たしたのかを。
「こうやってお前に触るのも久しぶりだな」
「貴昭……」
伊摘は男の名を呟き、苦悩の表情で目を閉じた。
瞬間、軽く頬を叩かれる。
反射的に目を開けて呆然と貴昭を見た伊摘は、無表情で見下ろす冷たい瞳を見つけて、体をぶるぶる震わせた。
十年前と変わらぬ貴昭の癖を目の当たりにして、伊摘の体は恐怖で竦む。そしてその恐怖の後に与えられる体の意思すら奪い取ってしまうほどの悦楽を思い出せば、背が甘く痺れるように戦いた。
「十年、十年だぞ、伊摘」
貴昭はぎりっと奥歯を噛み締め、伊摘を睨みつける。
その目は怒りでギラギラ光り、今にも伊摘を食い殺そうにも見えた。
飢えた獣の眼差しは今も昔も変わっていない。
ただ今の方が数倍も恐ろしく感じてしまうのは、十年という経た月日の長さ以上に、伊摘の心にやましいことがあるからだろうか。
貴昭は伊摘の反応を待たず強引に唇を重ねた。
厚い舌が咥内へ侵入するなり、舌の動きも唾液も息すらも奪う荒い口づけに、息も絶え絶えになりながら伊摘は首を横に振り逃れようとする。
細い顎を貴昭の大きな手が掴んだ。
「伊摘、どうして逃げた?」
貴昭は口づけをやめたが、粘つく舌で伊摘の唇を舐める。
苦い煙草の匂いがした。
貴昭の舌が、唇から泥がついているだろう頬へと移る。
アスファルトに擦った頬が貴昭の舌に触れて、小さな痛みを訴えた。
泥がついていても、貴昭は丁寧に伊摘の頬を舐る。
そして再び伊摘の唇へと戻ってくると深く唇を重ねた。
泥の匂いとジャリジャリとする砂の感触に、伊摘は眉を顰めながら顎を掴む貴昭の手を離そうとする。
伊摘が両手で引き剥がそうとしても、貴昭の片手は微塵も動かない。
「お前ほど強情な男は見たことがねえ。俺にたてつく男もな」
貴昭は乱暴に顎から手を離すと上半身を起こし、ベルトを緩めてジッパーをさげた。
下着をずりさげた途端、濃い茂みから目を瞠るほど巨根が亀頭を擡げて露になる。
伊摘は未だかつてこの男より大きいものを見たことがない。
昔はこれを見るたび、はやる気持ちを抑えなければならなかったのが嘘のように思える。今は恐怖のあまり顔が強張り、無意識のうちに首を横に振っていた。
貴昭が跨ったまま、猛った巨根を伊摘の目の前へと持ってきて言った。
「銜えろ」
饐えた雄の匂いに、伊摘はきつく口を閉ざした。
するとまたもや貴昭に頬をぶたれた。
今度は先ほどよりも痛く、本気が混じったのだと知る。
それでも口を開かずにいると、貴昭は伊摘の上から退いた。
諦めてくれたのかと思っていれば、いきなり貴昭に髪を掴まれ顔を股間へと押しつけられる。
「口を開け」
異物など入れなくとも、大きくエラが張った先端が伊摘の頬をつつく。
伊摘は意を決して貴昭を見上げる。
「貴昭、俺はもう結婚して子供もいる」
こんな嘘を言うのは不本意ではないが、貴昭から逃れるためにそう嘯いた。
もうあの頃の自分ではないのだと、目を覚まさせるために。
貴昭は大きく目を見開き、一瞬、動きを止めたが、唇を歪ませ「ほう……」と笑った。
貴昭はどこからともなくナイフを取り出すと、残忍な顔でナイフの刃を舐める。
「それならガキと女の首をぶった切ってこの部屋に飾ろうか。お前のガキならさぞツラがよくて、いいインテリアになるだろうよ」
ありえない言葉に伊摘は凍りついた。
昔から暴力的な男だと知っている。ヤクザなのだから。
躊躇いもなくナイフを振るうその姿に戦慄さえしたが、それも伊摘に対して一切ナイフを向けないとわかってから恐れはなくなった。
だが、今はそのナイフを伊摘に向け、器用に伊摘のコートを背中から切り裂き、スーツをもバラバラに裂いた。
どこか楽しげに伊摘の衣類を裂き剥ぎ取っていく貴昭に、狂気じみたものを感じずにはいられない。
口は笑っているが、底冷えするような冷酷な目はにこりともしない貴昭に、もうあの頃とは違うと思い知ったのは伊摘のほうだった。
ほとんど体を露にするだけ切り裂いた衣類を纏ったまま、伊摘は体を縮ませ、がたがた震える。
怖い、貴昭が心底怖い。
貴昭は、冷酷な目を伊摘に据えたまま言った。
「それとも子作りに励んだコレを切り落としてやろうか」
下着に包まれた伊摘の股間を貴昭はナイフの先端でつついた。
「ひいっ」
咄嗟についた嘘が貴昭の逆鱗に触れたのだと今悟った。
貴昭は笑ったまま、ゆっくりとナイフの先端を押しつける。
銃よりナイフを愛用している貴昭は、どんなときでも対処できるよう、ナイフの切れ味の鋭さを万全に保っている。
過去にそれで何人もぶった切ったことを知っている伊摘は、縮こまっている己の性器など簡単に切り落とすだろうと予想して失禁寸前だった。
「い……やだ……」
逃げられない。怖くて逃げることもできない伊摘は、体を震わせたまま、ぎゅっと目を閉じた。
「お前は孕ませるつもりはなかったんだよな? ああ? コレが勝手に女の中に入って種を植えつけたんだろ?」
詰め寄る貴昭に今更嘘だと言えない。
内股に冷たい気配を感じたと同時に、ナイフが布を切り裂く音がして、伊摘は痛みを覚悟し、歯を噛み締めて耐えた。
「あーあー可哀想に。萎んで竦んでるじゃねえか」
しかし痛みは襲ってくることはなく、伊摘は恐る恐る目を開けて股間を見つめる。
伊摘の露になった性器は傷一つなく、怯える心境を物語っているかのように、項垂れ震えている。
その性器を貴昭がナイフの側面でぴたぴた叩いた。
それでもナイフは伊摘を傷つけることはない。
「うわああっ!」
伊摘は突如として大声をあげると、貴昭を押しのけ、性器と内股にちくりとした痛みが走ったのを無視して逃げようとした。
その隙を与えず、貴昭は伊摘の足を掴むと、正面から倒れた伊摘をひっくり返して股間を覗きこんだ。
「切れてるぞ。いっそ切り落としてやるか?」
何十人の敵に囲まれても、冷静さを失うことなくナイフを振るう貴昭にとって、伊摘の抵抗など蚊を振り払うようなものだと知る。
それでもめげずに抵抗した伊摘の頬の脇にナイフが突き刺さった。
「うるせえ」
貴昭の一喝に、びくりと体を震わせて動きを止める。
「うるせえんだよ」
苛立たしげに再度貴昭は言うと、簡単に伊摘をうつ伏せにさせて、尻を鷲づかみして左右に押し開いた。
「いやだ……いやだ!」
この後にくる展開を察知して、伊摘は泥のついたシーツを握りしめ、ぐっと尻に力を入れて叫んだ。
青筋の浮いた貴昭の巨根が伊摘の尻へ定められる。
「いやだ! いやだ!」
「うるせえつってんだろ!」
貴昭は、濡れてもない伊摘のそこに己の先端を無理やりねじこませた。
「痛い! 痛い! 痛い!」
あまりの衝撃に仰け反り、逃げようとする伊摘の細い腰を掴み貴昭はさらに亀頭の部分まで侵入を果たした。
「銜えろと言っても銜えない、お前が悪い」
痛みを責任転嫁して、貴昭がさらに突き上げたと同時に、吐き気が襲った。
「ぐっ……」
内臓を抉られるような激しい不快感に、伊摘は堪らず嘔吐する。
それでも構わず、貴昭はぎりぎりまで引き抜くと、再び突き上げた。
「うっ……!」
苦しげに涙を流し、息が止まるような圧迫感と、直腸を押し広げられ胃がずり上がる気持ち悪さに、伊摘は喘ぎながら再び吐いた。
貴昭は一旦引き抜くと、伊摘を軽々と持ち上げて、吐いた汚物をシーツごとベッドから引き抜いて落とした。
再びベッドに伊摘を横たえると、貴昭は先ほどと違う苦渋の表情で見つめている。
先ほどまで貴昭が入っていた場所から、一筋の血が流れ落ちて太股を濡らした。
ぐったりとベッドに体を沈め、涙が滲んだ目で貴昭を見つめる伊摘は、抵抗もできないほど胸を喘がせていた。
貴昭は目を細め唇を舐めると、伊摘の片足を高く掲げ、再び押しこんでくる。
「この角度が好きだったよな」
「くっ……うっ……」
信じられないほど奥まで侵入してくる貴昭に、伊摘は恐怖を覚えながら、かつてこの行為に夢中になっていた自分が信じられなかった。
まるで熱した鉄を体内へと押しこまれているかのような焼け爛れた感覚を好んでいたとは、信じがたい。
ぎっちり隙間なく埋め込まれた巨根は、確かな脈動をもって伊摘の体内で息づき、さらに硬さと大きさを増した。
貴昭はゆっくりと腰を引き、動くたびに締めつけて捲れあがる内襞を、馴染ませるように揺らす。
潤滑剤の助けもなく濡らすことをしない挿入は、双方に大きな負担と、忍耐を強いる。
ほぼ血の滑りだけで動きの助けを借りている行為は、もはや痛みだけしか伴わない。
それでも、徐々に早く打ちつける腰に、重く揺れる陰嚢がぴたぴたと吸いつくように叩いてくると、貴昭の顔に恍惚とした表情が浮かんだ。
「たっぷりと中に出して孕ませてやる」
「い……いやだ……」
顔をベッドに伏せたまま抵抗を口にする伊摘に、貴昭は片手をついて上半身を伸ばすと、伊摘の耳朶を噛んだ。
「いやだじゃねえ、いい、だろ? 伊摘」
貴昭は突如として、伊摘の細い体を押さえ込むようにして叩きつけた。
「おら、出すぞ」
体内の貴昭が大きく膨らみ、先端から灼熱の体液が迸った。
「いやっ……あああっ!」
伊摘は泣きながら爪を立て、大量に内襞を伝うどろどろとした白濁を容赦なく受け止めた。
貴昭はさらに体液を纏いながら巨根を押し込めると、再びビュクビュクと射精した。
伊摘は体を激しく痙攣させて、声にならない悲鳴を上げた。
「まだだ、おら」
幾度となく突かれても、尽きることなく流れる貴昭の大量の体液に犯され、伊摘は放心状態でピクリとも動かない。
失神したのだ。
貴昭は伊摘の頬を二度叩いた。
「うっ……うっ……」
伊摘はうっすらと目を開けて、嗚咽をもらす。
「口ではいやだと言っておきながら、伊摘、お前もいったじゃねえか」
貴昭に言われ、伊摘は己の下半身を見て、ベッドを濡らす白濁に呆然とした。
ひくついて震えているが、とろりと体液の残りが先端から流れる。
自分が信じられなかった。
射精を終えた貴昭が、引き抜いた途端、滝のように溢れ出た。
貴昭の大きな陰嚢や巨根から、一度の射精でもありえないほどの大量の精液を放出することを思い出した。
女ならばこれだけで孕ませる威力を持つくらい、勢いも濃度も量も普通の男とは桁違いなのだ。
緩くカーブを描いて勃起したままの巨根は、一度では足りないとばかりに、先端から涎を垂らしていた。
「お前の行方がわからねえってんで、十年、死んでんのか生きてるかすらわかんなかった」
改まった口調で話し出した貴昭にはっとして、伊摘は目を向ける。
「俺が病院で生死を彷徨っているときに、お前は組の金を持ち出して逃げたなんて冗談にもならねえ」
組の金を持って逃げた……だと?
伊摘は驚いて、貴昭の顔を見つめた。
あのとき手渡された金の出所など伊摘が知る由もない。
あれは手切れ金のようなもので、自由に使えと言って渡されたもの。
それを……泥棒のように持ち逃げしたなどと言われるとは心外だった。
伊摘の脳裏に一人の男が思い浮かぶ。
手術を終えて貴昭の命が助かったのだと知り、神に感謝したい気分で意気揚々と面会に行ったとき、決して伊摘を貴昭に会わせなかった男。
何度行っても面会は叶わず断固として通さなかったあの男こそ伊摘の逃亡を促したのだ。
組の金がどこにしまってあるかなど、知るはずもない伊摘が金を持ち出すことなどできるはずがない。
「俺が撃たれて怖くなったか?」
ギシとベッドが軋み、貴昭は伊摘を仰向けにさせ足を開かせると、太股を折り曲げた。
垂れ流しになっている穴を覗きこみ、太い指を突き入れると、縮んだ伊摘の性器を口に銜えた。
「あっ……」
「そんなにも俺から離れたかったか?」
静かな声で喋る貴昭が、どんな表情でいるのか知りたくて、伊摘は力が入らない肘を立てて貴昭を見ようとする。
傷つけたくて傷つけたわけじゃない。
逃げたくて逃げたわけじゃない。
そう口に出したくとも、今の伊摘にそんな言葉が言える資格がない。
組の金を持ち出した、という間違いを訂正することすら。
やっと震える右肘をついて貴昭の表情を見た伊摘は愕然とした。
貴昭があからさまに傷ついた表情を浮かべるとは思っていなかったが、まさか笑っているとは考えもしなかった。
「お前は俺のもんだ。誰にも渡さねえ」
街頭の灯りに照らされて舞う雪は儚げで美しく、しばし伊摘は立ち尽くして天を仰いだ。
都心では雪が珍しいが、北海道に帰れば、うんざりするものに変わる。
もっとも、今シーズンは都心でも雪が積もるほど降り、今日も雪か、と眉を顰めた人も多かっただろうが。
吐く息が白く、コートの襟を立てて、伊摘は鞄を脇に挟み掌を擦る。
まだこのくらいの寒さは序の口ともいえる寒さだが、つい今しがた居酒屋でぬくぬくと酒を飲んでいただけに、寒さが堪える。
ぶるりと体を震わすと、伊摘はポケットに手を突っ込み、足早に歩き出した。
明日は朝一の飛行機で北海道に帰る。
伊摘は東京生まれの東京育ちだが、訳あって十年前北海道に引っ越した。
はじめは馴染めないと思っていた雪や寒さも、十年も暮らせば慣れもするし、自然と愛着もわいてくる。
それに食料自給率が高いだけあり、地産地消を推進している北海道では、食料が新鮮で安く安全でなおかつおいしい。もちろん、東京と比べ物にならないほど自然が豊富で環境もよく、雪がなければ、これほど住みやすい場所もないだろう。
「あ」
小走りに走ってくる女性にぶつかり、伊摘は咄嗟に手を伸ばして女性の腕を掴んだ。
目が合うと女性は恥ずかしそうに顔を赤らめて、滑ったヒールを手前に引いた。
「すいません」
よほど急いでいるのか、女性はすぐに走り去っていく。
東京と北海道では人の多さも忙しさも違う。
北海道でのんびりとした生活を送っている今では、今更その忙しさに身を投じることはできないだろうと思った。
東京に来たのも十年ぶり。そう、東京を離れてから一度も足を踏み入れることはしなかったので、余計人の流れや忙しさが目についたのかもしれない。それだけ北海道の風土や時間の流れがしみこんでしまったのだろう。
伊摘は二十八歳になった。
十年前を思えば、財布さえ持たず、逃げるように東京を後にしたことを、懐かしむだけの余裕も出てきた。
胸はもう痛まない。
あれほど毎夜苦しめていた夢も見なくなって久しい。
あと二年で三十歳。
その頃には結婚をして子供もでき、誰かと共に暮らしているのだろうか。
今現在恋人がいない伊摘には、結婚という文字が随分遠く感じられた。まして自分の子供など想像がつかない。
「ふっ……」
思い出したくないことを考えてしまい、俯き苦笑する。
今まで数多くの人と付き合ってきた中で、恋人として思い浮かべるのはたった一人だけなのだ。
伊摘と同性の逞しい体をした乱暴な人。
伊摘が東京を捨て北海道で暮らすきっかけになった男だ。
夢は見なくなったとはいえ、男の存在は今も忘れがたい。忘れようとしても忘れられないのだ。
今もこうして十年ぶりに東京に戻ってきたと思うだけで、胸を騒がせる。
会うはずがないのに。会えるはずがないのに。
伊摘は顔を上げて、ふんわりと微笑む。
苦い思いも、雪のようにとけてなくなってしまえばいいのにと。
向こうから歩いてくる若い女性は、微笑んだ伊摘と目が合い、ぎこちなく視線をそらした。目元がうっすらと赤い。
目をそらしたものの気になるのか、女性はすれ違いざま、伊摘をちらり横目で見つめる。だが、伊摘はもう女性を見ていない。女性はがっかりした顔で通り過ぎる。
伊摘は急に足を止めた。
酒でほんのり赤らんでいた顔が、見る見るうちに青ざめていく。
目を見開き、驚きに口を開けたまま立ちすくみ、伊摘は向こうから歩いてくる人の群れを見つめる。
歩道を塞がんばかりに横に広がり、我が道のように闊歩している十人ほどの男たち。
通行人は邪魔だと思っているものの、誰一人として彼らを注意しない。逆に彼らに道をあけ、かかわらないように車道側を歩く者もいた。
格好や鋭い眼差しを見ただけで、彼らの職業が人の道から外れていることがわかる。ヤクザだ。
その中央にいる、いかにも周囲の男たちを従えている貫禄のある大柄な男を、伊摘は呆然と見つめていた。
男は最初、気づいていなかった。
厳しい顔をして、車の流れを見るとはなしに見ていたが、まるで引きつけられるかのように視線を正面に向けた。
伊摘ははっと我に返り、ぎこちなく視線をそらすと汗ばんだ手で鞄を持ち直した。
その手が小さく震えていた。吐き気がする。
まさか、こんなところで会うとは思わなかった。
偶然という言葉で括るには、あまりにもタイミングがよすぎる出会いに、運命は残酷だと感じずにはいられない。
東京は広い。なのに、こんな場所で会うなど、しかも明日には帰るという滞在期間の短い中で、よくこうもばったりと偶然出会ったものだ。
運命、という言葉を信じたくはないが、今ここで会うのが定めならば神は本当に意地悪だ。
伊摘はごくりと生唾を飲みこんで、咄嗟に足を引いて踵を返そうとした。
みっともなく逃げてどうする。もう、伊摘は男となんの関係もない、赤の他人だ。
伊摘は俯いたまま踏みとどまった。
そして震える唇を噛み締め、引いた足を前に踏み出し、意地で歩きだした。
十年前に姿を消し、逃げた伊摘を男が今更追うはずがない。
なんでもない振りを装って通り過ぎてしまえば……。
「伊摘」
すれ違う瞬間、名前を呼ばれ、伊摘は口から心臓が飛び出しそうになるほど驚いた。
緊張し、うるさい心臓を宥めるように平然を装っていた表情が、一瞬で剥がれ落ちる。
伊摘は恐怖のあまり顔を強張らせて走り出した。
「組長!」
走る伊摘の背後から息遣いが聞こえる。
男が追いかけてくる気配に、伊摘は死に物狂いになりながら走った。
「きゃっ」
すれ違う通行人に当たろうが、靴を踏みつけようが、押しのけて伊摘は闇雲に走る。
だが、あっという間に襟首を掴まれて、アスファルトに倒された。
「うっ」
倒れた衝撃で膝や手、頬をすりむき、スーツやコートは雪でとけた泥に塗れる。
巨漢からは信じられないほど俊敏な動きで、男はもがく伊摘を上から押さえつけていた。
何事かと周囲は一瞬ざわついたが、伊摘をねじ伏せる男の鋭い眼光を目の前にして、見てはいけないものを見てしまったように、皆一様に足早に去っていく。
伊摘は痛みに顔を顰めて、大きく息を吸った。
そのとき、馴染みある男の体臭とフレグランスのない交ぜになった匂いが鼻を掠め、涙が溢れそうになる。
懐かしい匂いは今も伊摘から冷静さを失わせるだけの効果があった。
十年経てもなお心の琴線を震わす男。
「組長! どうかしましたか? その男がなにか?」
後を追ってきた男たちがわらわらと集まってくる。
「車を持って来い」
男はその質問には答えずに、有無を言わせない声で命令した。
十年も経てば忘れるだろう男の声音も、伊摘の耳はしっかりと覚えていた。低く滑らかなその声が、激怒した際、いかに乱暴に冷たく変わるのか、伊摘を抱くとき、どれほど甘く蕩けた睦言を囁くのかを。
忘れるわけがない。
これほど人を愛したことはないと思えるほど、愛した男なのだから。
伊摘はあっという間に車に乗せられ、拉致同然で男にマンションの一室まで連れてこられた。
襟首を掴まれ、引き摺られた状態で部屋に入り、リビングを抜けて寝室へと入るなりベッドに放り投げられる。
シーツや毛布が伊摘の衣類についた泥で汚れた。
身長百九十センチを超える筋肉隆々の大男にとって、百七十五センチの細身の男は、大して苦にならない重さだろう。
放られた衝撃はベッドが柔軟に受け止めてくれたおかげで怪我はなかったが、逃げる間もなく男は伊摘の上に馬乗りになると、手を頭上へと拘束する。
キングサイズのベッドが男の重みで沈み、軋む。
胸にぴたりと重なる男の厚い胸板、伊摘を跨ぐ太い太股、股間の怒張した昂りに目眩を覚えながら、男から発せられるむんむんとした熱と野生じみた匂いを吸いこんだ。
否が応でも、昔を思い出さずにはいられない。
この粗暴な男のセックスがどれほど伊摘を情熱的に満たしたのかを。
「こうやってお前に触るのも久しぶりだな」
「貴昭……」
伊摘は男の名を呟き、苦悩の表情で目を閉じた。
瞬間、軽く頬を叩かれる。
反射的に目を開けて呆然と貴昭を見た伊摘は、無表情で見下ろす冷たい瞳を見つけて、体をぶるぶる震わせた。
十年前と変わらぬ貴昭の癖を目の当たりにして、伊摘の体は恐怖で竦む。そしてその恐怖の後に与えられる体の意思すら奪い取ってしまうほどの悦楽を思い出せば、背が甘く痺れるように戦いた。
「十年、十年だぞ、伊摘」
貴昭はぎりっと奥歯を噛み締め、伊摘を睨みつける。
その目は怒りでギラギラ光り、今にも伊摘を食い殺そうにも見えた。
飢えた獣の眼差しは今も昔も変わっていない。
ただ今の方が数倍も恐ろしく感じてしまうのは、十年という経た月日の長さ以上に、伊摘の心にやましいことがあるからだろうか。
貴昭は伊摘の反応を待たず強引に唇を重ねた。
厚い舌が咥内へ侵入するなり、舌の動きも唾液も息すらも奪う荒い口づけに、息も絶え絶えになりながら伊摘は首を横に振り逃れようとする。
細い顎を貴昭の大きな手が掴んだ。
「伊摘、どうして逃げた?」
貴昭は口づけをやめたが、粘つく舌で伊摘の唇を舐める。
苦い煙草の匂いがした。
貴昭の舌が、唇から泥がついているだろう頬へと移る。
アスファルトに擦った頬が貴昭の舌に触れて、小さな痛みを訴えた。
泥がついていても、貴昭は丁寧に伊摘の頬を舐る。
そして再び伊摘の唇へと戻ってくると深く唇を重ねた。
泥の匂いとジャリジャリとする砂の感触に、伊摘は眉を顰めながら顎を掴む貴昭の手を離そうとする。
伊摘が両手で引き剥がそうとしても、貴昭の片手は微塵も動かない。
「お前ほど強情な男は見たことがねえ。俺にたてつく男もな」
貴昭は乱暴に顎から手を離すと上半身を起こし、ベルトを緩めてジッパーをさげた。
下着をずりさげた途端、濃い茂みから目を瞠るほど巨根が亀頭を擡げて露になる。
伊摘は未だかつてこの男より大きいものを見たことがない。
昔はこれを見るたび、はやる気持ちを抑えなければならなかったのが嘘のように思える。今は恐怖のあまり顔が強張り、無意識のうちに首を横に振っていた。
貴昭が跨ったまま、猛った巨根を伊摘の目の前へと持ってきて言った。
「銜えろ」
饐えた雄の匂いに、伊摘はきつく口を閉ざした。
するとまたもや貴昭に頬をぶたれた。
今度は先ほどよりも痛く、本気が混じったのだと知る。
それでも口を開かずにいると、貴昭は伊摘の上から退いた。
諦めてくれたのかと思っていれば、いきなり貴昭に髪を掴まれ顔を股間へと押しつけられる。
「口を開け」
異物など入れなくとも、大きくエラが張った先端が伊摘の頬をつつく。
伊摘は意を決して貴昭を見上げる。
「貴昭、俺はもう結婚して子供もいる」
こんな嘘を言うのは不本意ではないが、貴昭から逃れるためにそう嘯いた。
もうあの頃の自分ではないのだと、目を覚まさせるために。
貴昭は大きく目を見開き、一瞬、動きを止めたが、唇を歪ませ「ほう……」と笑った。
貴昭はどこからともなくナイフを取り出すと、残忍な顔でナイフの刃を舐める。
「それならガキと女の首をぶった切ってこの部屋に飾ろうか。お前のガキならさぞツラがよくて、いいインテリアになるだろうよ」
ありえない言葉に伊摘は凍りついた。
昔から暴力的な男だと知っている。ヤクザなのだから。
躊躇いもなくナイフを振るうその姿に戦慄さえしたが、それも伊摘に対して一切ナイフを向けないとわかってから恐れはなくなった。
だが、今はそのナイフを伊摘に向け、器用に伊摘のコートを背中から切り裂き、スーツをもバラバラに裂いた。
どこか楽しげに伊摘の衣類を裂き剥ぎ取っていく貴昭に、狂気じみたものを感じずにはいられない。
口は笑っているが、底冷えするような冷酷な目はにこりともしない貴昭に、もうあの頃とは違うと思い知ったのは伊摘のほうだった。
ほとんど体を露にするだけ切り裂いた衣類を纏ったまま、伊摘は体を縮ませ、がたがた震える。
怖い、貴昭が心底怖い。
貴昭は、冷酷な目を伊摘に据えたまま言った。
「それとも子作りに励んだコレを切り落としてやろうか」
下着に包まれた伊摘の股間を貴昭はナイフの先端でつついた。
「ひいっ」
咄嗟についた嘘が貴昭の逆鱗に触れたのだと今悟った。
貴昭は笑ったまま、ゆっくりとナイフの先端を押しつける。
銃よりナイフを愛用している貴昭は、どんなときでも対処できるよう、ナイフの切れ味の鋭さを万全に保っている。
過去にそれで何人もぶった切ったことを知っている伊摘は、縮こまっている己の性器など簡単に切り落とすだろうと予想して失禁寸前だった。
「い……やだ……」
逃げられない。怖くて逃げることもできない伊摘は、体を震わせたまま、ぎゅっと目を閉じた。
「お前は孕ませるつもりはなかったんだよな? ああ? コレが勝手に女の中に入って種を植えつけたんだろ?」
詰め寄る貴昭に今更嘘だと言えない。
内股に冷たい気配を感じたと同時に、ナイフが布を切り裂く音がして、伊摘は痛みを覚悟し、歯を噛み締めて耐えた。
「あーあー可哀想に。萎んで竦んでるじゃねえか」
しかし痛みは襲ってくることはなく、伊摘は恐る恐る目を開けて股間を見つめる。
伊摘の露になった性器は傷一つなく、怯える心境を物語っているかのように、項垂れ震えている。
その性器を貴昭がナイフの側面でぴたぴた叩いた。
それでもナイフは伊摘を傷つけることはない。
「うわああっ!」
伊摘は突如として大声をあげると、貴昭を押しのけ、性器と内股にちくりとした痛みが走ったのを無視して逃げようとした。
その隙を与えず、貴昭は伊摘の足を掴むと、正面から倒れた伊摘をひっくり返して股間を覗きこんだ。
「切れてるぞ。いっそ切り落としてやるか?」
何十人の敵に囲まれても、冷静さを失うことなくナイフを振るう貴昭にとって、伊摘の抵抗など蚊を振り払うようなものだと知る。
それでもめげずに抵抗した伊摘の頬の脇にナイフが突き刺さった。
「うるせえ」
貴昭の一喝に、びくりと体を震わせて動きを止める。
「うるせえんだよ」
苛立たしげに再度貴昭は言うと、簡単に伊摘をうつ伏せにさせて、尻を鷲づかみして左右に押し開いた。
「いやだ……いやだ!」
この後にくる展開を察知して、伊摘は泥のついたシーツを握りしめ、ぐっと尻に力を入れて叫んだ。
青筋の浮いた貴昭の巨根が伊摘の尻へ定められる。
「いやだ! いやだ!」
「うるせえつってんだろ!」
貴昭は、濡れてもない伊摘のそこに己の先端を無理やりねじこませた。
「痛い! 痛い! 痛い!」
あまりの衝撃に仰け反り、逃げようとする伊摘の細い腰を掴み貴昭はさらに亀頭の部分まで侵入を果たした。
「銜えろと言っても銜えない、お前が悪い」
痛みを責任転嫁して、貴昭がさらに突き上げたと同時に、吐き気が襲った。
「ぐっ……」
内臓を抉られるような激しい不快感に、伊摘は堪らず嘔吐する。
それでも構わず、貴昭はぎりぎりまで引き抜くと、再び突き上げた。
「うっ……!」
苦しげに涙を流し、息が止まるような圧迫感と、直腸を押し広げられ胃がずり上がる気持ち悪さに、伊摘は喘ぎながら再び吐いた。
貴昭は一旦引き抜くと、伊摘を軽々と持ち上げて、吐いた汚物をシーツごとベッドから引き抜いて落とした。
再びベッドに伊摘を横たえると、貴昭は先ほどと違う苦渋の表情で見つめている。
先ほどまで貴昭が入っていた場所から、一筋の血が流れ落ちて太股を濡らした。
ぐったりとベッドに体を沈め、涙が滲んだ目で貴昭を見つめる伊摘は、抵抗もできないほど胸を喘がせていた。
貴昭は目を細め唇を舐めると、伊摘の片足を高く掲げ、再び押しこんでくる。
「この角度が好きだったよな」
「くっ……うっ……」
信じられないほど奥まで侵入してくる貴昭に、伊摘は恐怖を覚えながら、かつてこの行為に夢中になっていた自分が信じられなかった。
まるで熱した鉄を体内へと押しこまれているかのような焼け爛れた感覚を好んでいたとは、信じがたい。
ぎっちり隙間なく埋め込まれた巨根は、確かな脈動をもって伊摘の体内で息づき、さらに硬さと大きさを増した。
貴昭はゆっくりと腰を引き、動くたびに締めつけて捲れあがる内襞を、馴染ませるように揺らす。
潤滑剤の助けもなく濡らすことをしない挿入は、双方に大きな負担と、忍耐を強いる。
ほぼ血の滑りだけで動きの助けを借りている行為は、もはや痛みだけしか伴わない。
それでも、徐々に早く打ちつける腰に、重く揺れる陰嚢がぴたぴたと吸いつくように叩いてくると、貴昭の顔に恍惚とした表情が浮かんだ。
「たっぷりと中に出して孕ませてやる」
「い……いやだ……」
顔をベッドに伏せたまま抵抗を口にする伊摘に、貴昭は片手をついて上半身を伸ばすと、伊摘の耳朶を噛んだ。
「いやだじゃねえ、いい、だろ? 伊摘」
貴昭は突如として、伊摘の細い体を押さえ込むようにして叩きつけた。
「おら、出すぞ」
体内の貴昭が大きく膨らみ、先端から灼熱の体液が迸った。
「いやっ……あああっ!」
伊摘は泣きながら爪を立て、大量に内襞を伝うどろどろとした白濁を容赦なく受け止めた。
貴昭はさらに体液を纏いながら巨根を押し込めると、再びビュクビュクと射精した。
伊摘は体を激しく痙攣させて、声にならない悲鳴を上げた。
「まだだ、おら」
幾度となく突かれても、尽きることなく流れる貴昭の大量の体液に犯され、伊摘は放心状態でピクリとも動かない。
失神したのだ。
貴昭は伊摘の頬を二度叩いた。
「うっ……うっ……」
伊摘はうっすらと目を開けて、嗚咽をもらす。
「口ではいやだと言っておきながら、伊摘、お前もいったじゃねえか」
貴昭に言われ、伊摘は己の下半身を見て、ベッドを濡らす白濁に呆然とした。
ひくついて震えているが、とろりと体液の残りが先端から流れる。
自分が信じられなかった。
射精を終えた貴昭が、引き抜いた途端、滝のように溢れ出た。
貴昭の大きな陰嚢や巨根から、一度の射精でもありえないほどの大量の精液を放出することを思い出した。
女ならばこれだけで孕ませる威力を持つくらい、勢いも濃度も量も普通の男とは桁違いなのだ。
緩くカーブを描いて勃起したままの巨根は、一度では足りないとばかりに、先端から涎を垂らしていた。
「お前の行方がわからねえってんで、十年、死んでんのか生きてるかすらわかんなかった」
改まった口調で話し出した貴昭にはっとして、伊摘は目を向ける。
「俺が病院で生死を彷徨っているときに、お前は組の金を持ち出して逃げたなんて冗談にもならねえ」
組の金を持って逃げた……だと?
伊摘は驚いて、貴昭の顔を見つめた。
あのとき手渡された金の出所など伊摘が知る由もない。
あれは手切れ金のようなもので、自由に使えと言って渡されたもの。
それを……泥棒のように持ち逃げしたなどと言われるとは心外だった。
伊摘の脳裏に一人の男が思い浮かぶ。
手術を終えて貴昭の命が助かったのだと知り、神に感謝したい気分で意気揚々と面会に行ったとき、決して伊摘を貴昭に会わせなかった男。
何度行っても面会は叶わず断固として通さなかったあの男こそ伊摘の逃亡を促したのだ。
組の金がどこにしまってあるかなど、知るはずもない伊摘が金を持ち出すことなどできるはずがない。
「俺が撃たれて怖くなったか?」
ギシとベッドが軋み、貴昭は伊摘を仰向けにさせ足を開かせると、太股を折り曲げた。
垂れ流しになっている穴を覗きこみ、太い指を突き入れると、縮んだ伊摘の性器を口に銜えた。
「あっ……」
「そんなにも俺から離れたかったか?」
静かな声で喋る貴昭が、どんな表情でいるのか知りたくて、伊摘は力が入らない肘を立てて貴昭を見ようとする。
傷つけたくて傷つけたわけじゃない。
逃げたくて逃げたわけじゃない。
そう口に出したくとも、今の伊摘にそんな言葉が言える資格がない。
組の金を持ち出した、という間違いを訂正することすら。
やっと震える右肘をついて貴昭の表情を見た伊摘は愕然とした。
貴昭があからさまに傷ついた表情を浮かべるとは思っていなかったが、まさか笑っているとは考えもしなかった。
「お前は俺のもんだ。誰にも渡さねえ」
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