地球侵略計画

山吹レイ

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地球侵略計画(後編)

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 ユウは高輝とずっと片手を繋いでいる。今日外出したときもずっと手を握り締めていたので違和感はないが、体を繋げるときですら手を合わせて握ってきたので驚いた。
 愛につながる行為と信じているのだろう。教えたことをなぞるように行動に移すユウは次々と知識を吸収している。
「嫌じゃない?」
 高輝の表情を確認しながら、ユウはゆっくりと体を沈めてきた。
 尻に何かが入ってきた異物感はあるものの不思議と痛みはなく、ユウのぬめりもあって苦しさもない。少しだけ息を吐いて体から力を抜く。
「ユウは……どんな感じだ?」
「熱くてぬるぬる。擦ると気持ちがいい。すぐに出そうになる」
「そうか……気持ちがいいんだな」
 作られたと言っていたし、味覚もあまりわからないようなので、感覚は鈍いかもしれないと思っていたが、快感はきちんとあるらしい。
 快感があるなら、いずれ抱き合う心地よさも、手を繋ぐ安心感も芽生えてくる。それと、心も育っていけば、誰かを愛すること、恋い慕う感情も知るようになるはずだ。
「コウキも気持ちがいい?」
 上から覗きこむユウの表情は、微妙に眉間に皺が寄っている。足をもっと開いて迎え入れると、ユウはきゅっと唇が結び、奥深くまで入りこんできた。
「うん」
「気持ちがいい、はいいことだ」
「いいこと……まあ、そうだな。気持ち悪いよりずっといい」
 ユウの腰がぶるっと震えた直後、温かな体液が溢れてきた。握り締めた左手に痛いほど力がこもる。
「出てしまった……」
 肩口に顔を埋めて息を吐いたユウは、最奥を突いたままじっとしている。
「いい。出せ」
 促すように右手で背中を摩ると、ユウのものがびくびくと絶え間なく蠢いて、流れ出ているのがわかる。
「口づけがしたい」
 ユウは顔をあげて唇を近づけてきた。発情がどうの言っていたが今更だ。高輝は言われるまま目を閉じる。
「ん……」
 唇を貪りながら、ユウは腰をゆるゆると動かしはじめた。くちゅくちゅといやらしい音と共に、尻から溢れたものが垂れてくるのがわかる。ユウのものは一向に萎えずに、動かすたびにまだ先端から出ているような気がした。
 滑らかに接合する部分から、じっとしていられないような快感がこみあげてくる。高輝は堪らずにしがみついて腰を揺らした。
「なんだ、これは……体が溶けていきそうだ」
 打ちつけた腰の動きを速めてユウが唸った。二人で混じり合って溶けてしまいそうな感覚。それは高輝もわかる。うねるような快感が体の中から突き上げてきて、その中で二人、混じり合っているような感覚が怖いほど気持ちがいい。
 繋いだ手を解いてしっかりと抱き合い、激しく絡まったその刹那、体内に迸った。
「コウキ!」
 ユウの声に促されて、高輝も弾けた。あまりに刺激に、体がばらばらになったかのような錯覚に陥る。ぎゅっとしがみついたまま、体が快感を追うように何度もユウのものを締めつけた。
「ああ、コウキ……コウキ」
 ものすごい量が注がれているのがわかる。
 緩慢な動きで、高輝の体内を行き来したあと、やっと長い放埓を終えたユウが体から力を抜いた。
 どっと重い体が伸しかかる。
 尻だけはなく、全身が痺れたようにじんじんしている。
 暑くて汗をかいている高輝に対し、ユウの体はさらさらしていて汗ひとつかいていない。ただ繋がった下半身が著しく濡れていた。
「すごくすごく気持ちがよかった」
 素直に感想を漏らすユウに高輝も同意する。
「俺も気持ちよかった」
 性交することに抵抗があった気持ちも今はそれほどではない。
 互いに目を合わせ、どちらからともなく口づける。
「あとは愛し合って子供ができれば、めでたしだ」
 ユウがそう言ったので、高輝はぎくりとしつつも小さく笑って告げた。
「めでたし、なんて古語、よく知ってたな」
「テレビに童話が映っていた」
「あーなるほど。最後にめでたしめでたしで終わったんだ?」
「終わった。めでたし、は幸せだった」
 ふと、二人の間にも『めでたし』で終わることができるだろうかと考えてしまった。ユウが体を繋げる目的はあくまで繁殖のため。逆に高輝はその繁殖を阻止するために、ユウに抱かれている。
 もし、二人の間に愛が存在するなら、愛し合うことができたなら、性交も子供を成す以外の行為だとわかるはずなのに、言葉でなかなか教えられないのがもどかしい。
 それに、宇宙人に愛がわかるのか? 汗もかかない作られた体に、心は宿るのだろうか? 心は育っていくものだと思っていたが、それが宇宙人にもあてはまるのか、わからない。
「ユウは元の星に帰ったりする?」
 ふと疑問に思い、高輝が訊くと、ユウは首を傾げた。なぜそんなことを訊くのかと不思議な様子だ。
「帰らない。元々、帰ることは想定されていないため、船は消滅した」
 それを聞いて高輝は驚いた。
「片道切符だったのか!?」
「かたみち……きっぷ? 電車やバスじゃなくて一人乗りの船のようなものだ。料金も必要ない」
「そういう意味じゃなく……」
 言葉が通じないジレンマに、高輝はユウの腕を掴んで揺さぶる。
「帰れないって知ってて来たのか?」
「そうだ。役目だからな。たどり着けない可能性もあったが、無事に来れてよかったと思っている」
 あまりにもユウが軽く言うので、信じられない思いで高輝は嘆いた。
「特攻隊みたいなものだったんだな」
「とっこうたい?」
 説明するより、ユウのことを知りたくて話を続ける。
「いや、いい。なぜユウが選ばれた? 一人で怖くなかったのか?」
「怖くはない。ただ任務が遂行できるかどうかの不安はあった。そのために作られたのだから」
「地球に来るために作られた? なんか……想像つかない。たどり着かなかったらどうしたんだ?」
「どういう意味だ? 進路がずれたら、永遠に宇宙を彷徨うことになる。他の星と衝突したら死ぬだろう。船が故障して機能しなくなったらそれで終わりだ」
「やめろー。怖くて聞いてられない」
 高輝は耳を塞いで首を横に振る。
「怖くはない。死は消滅。何も残らない」
 未練も情もない、まるで感情を知らない人形のように死を口にするユウは、まさしく『作られた』ものだった。
 悲しくなって高輝はユウの背中を撫でる。喜びを教えてあげたい。悲しみも怒りも楽しさも怖さも様々な感情を知ってほしい。そうしたら任務だけでなく、もっと他に生きる意義を見つけられるのではないか。
 生まれた星に捨てられたかのような任務よりも、もっと大事なことに気づいたら、夢中になれることを見つけたら、ユウの世界はもっと広がる。
「ユウ……」
 声をかけても返事はない。
「ユウ?」
 顔を覗き込むと、目はしっかりと閉じられていて、揺すってもぴくりとも動かない。
 もうエネルギーが切れたのだと理解したが、怖くなって手首を掴み、脈を調べる。
 脈が見つからなくて焦って心臓に手を当てた。鼓動を感じほっとする。口元に耳を近づけると、呼吸も聞こえたので、やっと安堵した。
 ユウはずっと地球で暮らすしかない。かつてどんな生活をしていたのかはわからないが、帰れないのなら、任務とか考えずに自由に生きてもいいと思う。
 その手助けになるのなら、高輝は協力を惜しまないつもりだった。
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