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離れている間
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まずは馬小屋を建てることからはじめた。
きけばガイアが乗ってきた馬は、騎士団に入ったころから一緒にいる大切な存在らしい。アルドと名付けていて、今度帰って来るときも連れてきたいと言っていた。
だからその日のうちにすぐに街の大工に依頼した。
春は一番仕事がある時期らしいが、運よく手が空いている大工がいてすぐに取りかかることになった。
次はガイアの部屋を作ることだ。結婚したとはいえ、彼の部屋もあったほうがいい。一人になりたいときもあるだろう。幸い、空いている部屋はあり、そこに最低限、ベッドや机、椅子を置けば、あとは自由に動かしたり物を増やしたりして使ってくれるだろう。
他に考えたのは、今年の冬に向けた貯蓄事情だ。主なものは食料と薪。冬に吹雪の中外出できないときがかなりあった。地下倉庫に大量の蓄えがあったからよかったものの、それがなければ、寒さに震え空腹にあえいでいただろう。
これから家族がもう一人増えるので食料が二倍……いやそれ以上必要だ。備えあれば憂いなし。安心できるくらいの備蓄が欲しい。
そうなると畑を作る方法を考えている。ここの街の人たちは、ほとんど畑を作っている。自給自足は基本らしく、足りないものは買うといった生活をしている。土地も時間もあるので、クリフトンに教わりながらはじめてみるのもいいかもしれない。
あとは、この街には薬屋がないことが気にかかる。一応雑貨屋にハーブ水やポーション、傷薬の取り扱いがあったが、数が少なく圧倒的に足りていない。クリフトンが言うには、昔はこの街にも薬屋があり薬師もいたそうだが、その人が死んでからはよそから薬師が来ることもなく、薬屋もなくなったままの状態だったそうだ。また、病気になっても処置ができないため、医者がいる隣の街まで行かないといけない。
この世界にも医者がいてほっとしたが、多分現代の医療のようにはいかないだろう。風邪薬もないのだから、ちょっとしたことに気をつけて、なるべく病気にならないように予防が大切だ。
それを思えば、俺がゲーム中に取得した錬金というスキルは重宝する。
自分のためだけじゃなく、この街のためにも薬は必要で、足りない分は俺が作って補える。実際、冬の間、雪が多くて街と街の交流はほぼ途絶えていたとき、ハーブ水や傷薬がなくなって、俺がわけてやったときもあった。
そんなこんなで、薬を作って雑貨屋に委託して販売してもらう仕事をはじめた。
その日も薬草を採取するために、家の裏側にある森へキキを連れて入っていた。
薬を作るのに大量の薬草が必要になる。隣の街に行って買ってもいいのだが、きりがないためこうして自ら採取したほうが手っ取り早い。
ウィンドウが出ないので不安ではあるが、薬草の種類は覚えている……と思う。念のために、後で薬草辞典を見て確認しておいたほうがよさそうだ。
「青い小さな花が咲いてるのが、癒し草」
「キュン」
「この特徴的な葉が、みりり草」
「キュン」
キキは返事をしつつ、俺の側で周りを警戒して見回している。
「この二つでキキも好きなハーブ水が作れる」
「キュン」
癒し草とみりり草は比較的どこにでもまとまって生えている一年草であるため、採取しやすい。多少大雑把にナイフで根元から切っていく。
「ハーブ水に、はれれ草を加えるとポーションだ。これが苦いんだよな」
「キュン」
対して、はれれ草は木の陰の少し湿った場所にぽつんと生えている多年草なので、若葉だけを摘む。
背負っていた籠を下ろして薬草を入れていくと、急にキキが「キュンキュン」と草むらに向かって訴えるように鳴きだした。
すぐに俺は懐から鮮血の黒扇を出して構える。緊張から心臓がどくんどくんと脈打っているのを感じる。
突然草むらから飛び出してきたのはうさぎだった。
「はー、驚かすなよ。めっちゃ怖かった」
「キューン」
「キキも教えてくれてありがとうな。今回はうさぎだったけど、モンスターの場合だってあるから」
「キュン」
一度怖い思いをしてしまうと急に不安になってくる。急いで採取した薬草を籠に詰め終えて背負い、家に向かって足早に歩く。籠にはまだ余裕があるのに早く帰りたい。
キキはずっと俺のすぐ後ろをついてくる。
家が見えてきてやっと一息ついた。
玄関からではなく、作業場から家に入る。
干している薬草がたくさん頭上にぶら下がっているため、中に入ると色々な薬草の匂いがする。
今日採取してきた薬草を、薬草辞典を見ながら確認して、大きな机の上に種類別に並べた。
「大丈夫だな、うん。あ……でもこの薬草、隣に載ってる毒草と似てるんだな。匂い、葉の形それから千切ったときに白い液体が出るかどうか……よし、大丈夫だ」
一つ一つ大切に手に取り確かめてから、小分けにして束ねる。それからつるして干した。
乾燥し終えた薬草はだいたい地下倉庫へ収納する。
こうして薬草をためておいて、時間があるときに作るようにしている。
「キキ、おやつにしようか」
ドアの前で座ってこちらを見ていたキキが嬉しそうに側に駆け寄ってくる。
春は色々と忙しい。大工でなくてもみな畑を作ったり忙しそうにしている。
お金はあるのだから呑気に暮らしたいと思っていたが、何もしない生活はつまらないし飽きる。所詮貧乏性の俺は適度に働いていたほうが気が楽なのだ。
きけばガイアが乗ってきた馬は、騎士団に入ったころから一緒にいる大切な存在らしい。アルドと名付けていて、今度帰って来るときも連れてきたいと言っていた。
だからその日のうちにすぐに街の大工に依頼した。
春は一番仕事がある時期らしいが、運よく手が空いている大工がいてすぐに取りかかることになった。
次はガイアの部屋を作ることだ。結婚したとはいえ、彼の部屋もあったほうがいい。一人になりたいときもあるだろう。幸い、空いている部屋はあり、そこに最低限、ベッドや机、椅子を置けば、あとは自由に動かしたり物を増やしたりして使ってくれるだろう。
他に考えたのは、今年の冬に向けた貯蓄事情だ。主なものは食料と薪。冬に吹雪の中外出できないときがかなりあった。地下倉庫に大量の蓄えがあったからよかったものの、それがなければ、寒さに震え空腹にあえいでいただろう。
これから家族がもう一人増えるので食料が二倍……いやそれ以上必要だ。備えあれば憂いなし。安心できるくらいの備蓄が欲しい。
そうなると畑を作る方法を考えている。ここの街の人たちは、ほとんど畑を作っている。自給自足は基本らしく、足りないものは買うといった生活をしている。土地も時間もあるので、クリフトンに教わりながらはじめてみるのもいいかもしれない。
あとは、この街には薬屋がないことが気にかかる。一応雑貨屋にハーブ水やポーション、傷薬の取り扱いがあったが、数が少なく圧倒的に足りていない。クリフトンが言うには、昔はこの街にも薬屋があり薬師もいたそうだが、その人が死んでからはよそから薬師が来ることもなく、薬屋もなくなったままの状態だったそうだ。また、病気になっても処置ができないため、医者がいる隣の街まで行かないといけない。
この世界にも医者がいてほっとしたが、多分現代の医療のようにはいかないだろう。風邪薬もないのだから、ちょっとしたことに気をつけて、なるべく病気にならないように予防が大切だ。
それを思えば、俺がゲーム中に取得した錬金というスキルは重宝する。
自分のためだけじゃなく、この街のためにも薬は必要で、足りない分は俺が作って補える。実際、冬の間、雪が多くて街と街の交流はほぼ途絶えていたとき、ハーブ水や傷薬がなくなって、俺がわけてやったときもあった。
そんなこんなで、薬を作って雑貨屋に委託して販売してもらう仕事をはじめた。
その日も薬草を採取するために、家の裏側にある森へキキを連れて入っていた。
薬を作るのに大量の薬草が必要になる。隣の街に行って買ってもいいのだが、きりがないためこうして自ら採取したほうが手っ取り早い。
ウィンドウが出ないので不安ではあるが、薬草の種類は覚えている……と思う。念のために、後で薬草辞典を見て確認しておいたほうがよさそうだ。
「青い小さな花が咲いてるのが、癒し草」
「キュン」
「この特徴的な葉が、みりり草」
「キュン」
キキは返事をしつつ、俺の側で周りを警戒して見回している。
「この二つでキキも好きなハーブ水が作れる」
「キュン」
癒し草とみりり草は比較的どこにでもまとまって生えている一年草であるため、採取しやすい。多少大雑把にナイフで根元から切っていく。
「ハーブ水に、はれれ草を加えるとポーションだ。これが苦いんだよな」
「キュン」
対して、はれれ草は木の陰の少し湿った場所にぽつんと生えている多年草なので、若葉だけを摘む。
背負っていた籠を下ろして薬草を入れていくと、急にキキが「キュンキュン」と草むらに向かって訴えるように鳴きだした。
すぐに俺は懐から鮮血の黒扇を出して構える。緊張から心臓がどくんどくんと脈打っているのを感じる。
突然草むらから飛び出してきたのはうさぎだった。
「はー、驚かすなよ。めっちゃ怖かった」
「キューン」
「キキも教えてくれてありがとうな。今回はうさぎだったけど、モンスターの場合だってあるから」
「キュン」
一度怖い思いをしてしまうと急に不安になってくる。急いで採取した薬草を籠に詰め終えて背負い、家に向かって足早に歩く。籠にはまだ余裕があるのに早く帰りたい。
キキはずっと俺のすぐ後ろをついてくる。
家が見えてきてやっと一息ついた。
玄関からではなく、作業場から家に入る。
干している薬草がたくさん頭上にぶら下がっているため、中に入ると色々な薬草の匂いがする。
今日採取してきた薬草を、薬草辞典を見ながら確認して、大きな机の上に種類別に並べた。
「大丈夫だな、うん。あ……でもこの薬草、隣に載ってる毒草と似てるんだな。匂い、葉の形それから千切ったときに白い液体が出るかどうか……よし、大丈夫だ」
一つ一つ大切に手に取り確かめてから、小分けにして束ねる。それからつるして干した。
乾燥し終えた薬草はだいたい地下倉庫へ収納する。
こうして薬草をためておいて、時間があるときに作るようにしている。
「キキ、おやつにしようか」
ドアの前で座ってこちらを見ていたキキが嬉しそうに側に駆け寄ってくる。
春は色々と忙しい。大工でなくてもみな畑を作ったり忙しそうにしている。
お金はあるのだから呑気に暮らしたいと思っていたが、何もしない生活はつまらないし飽きる。所詮貧乏性の俺は適度に働いていたほうが気が楽なのだ。
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