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理想の彼女
理想の彼女②
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彼女を眺めていればあっという間に本屋に着いてしまった。
僕が知る限り、この街では1番大きな本屋だ。駅前ビルの一階と地下が車通りの多い道路を挟んだ反対側のビルに繋がってしまうほど広い。
ビルと言っても堅苦しくなく、空間にゆとりを持っている。
赤いレンガの外壁が一際目立ち、外と一体化するように窓ガラスが綺麗になっている。
僕はエスコートしてドアを開けた。
彼女は少し照れくされながら本屋の光に包まれていった。
本屋の明かりは落ち着きのある暖色で、より一層彼女の母性的輝きが増している。
本屋に入ると大衆文学の文庫本が並ぶコーナーを突っ切って行った。そして、細くしなやかな指で一冊の本を引き抜いた。
「私はこの本が好き。タヌキが可愛いよ」
そう言って差し出してきたのは『有頂天家族』と題名の書かれた本だった。
その作品は僕の好きな作品であり、メガネをグイッと押し上げてから好みも同じなのかと興奮した。
「それ僕も好きな本!弁天がいいキャラしてるんだよね」
そう言った僕に見えたのはまさしく弁天というキャラの様に妖艶な笑みだ。
彼女は一通り平積みされた本を眺めると、ピンとくる物を見つけたようですぐさま手に取った。
「これ買おうかな」
彼女が手に取っていたのは『この世界にiをこめて』だった。
デビュー作品を続々と重版させた作家、佐野徹夜による2作目の作品だ。
僕は発売日に購買し、睡眠時間も返上して一気読みした。
実にお勧めしたいものだった。
「それ、買うんだったら僕が買うから」
買ってあげるというより、買わせていただきたい、と言う方が正しい。
僕って変態。
それから彼女には少し大きな文庫本を受け取った。
「僕もついでに本買おうと思う」
普段から出版物の情報は電車での移動時間に仕入れているため、欲しいものは決まっていた。
平積みの山の凹んだ部分から自分の読みたかった本を取り出すとレジへ向かった。
一緒に並んでもらう徒労はかけられないので、彼女はお店一押し作品の棚のところに居てもらい会計へ進んだ。
それでも、もしものために彼女が常に目に入る棚のところを僕が選んだ。
レジに本を置くと店員が本の装丁に取り掛かり始めたので、僕は彼女の方を向いて愛らしい彼女の行動を眺めることにした。
低いところにある本を見るためにしゃがみ込む姿はハリネズミのように丸っこい。特に膝を抱える辺り。
高いところにある本を取るために目一杯に背伸びをする姿はミーアキャットのように細くしなやか。特に張った胸と腰の辺り。
そんな可愛らしい動物......違った。
そんな可愛らしい彼女の観察に一意専心していると、店員から肩にノックをされる。
少し不機嫌な様子から装丁が既に終わっていることが伺えた。
いいじゃないか、少しくらい天使に見入ったって、ケチなやつ。
僕はサイレント舌打ちをすると、滅多に使わないお金を財布から取り出して払う。
本当に使っていないため、使用したお金は諭吉。すなわち一万円札だ。
店員から本の入ったビニール袋と釣銭を受け取ると、彼女の元へ歩み寄る。
袋が予想より軽く感じるのは気のせいだろうか。しかし、今はそんなこと、どうでもいい。
僕が言ってみたかった「おまたせ」を言う前に彼女は僕に気づいてしまった。
だが、彼女が喜色満面としているので、僕にとっては至高のご褒美だ。
「買ってくれてありがとう。勉強のしすぎで疲れてない?ちょっと下のカフェで休憩しない?」
おお......どこかで聞いたことあるぞ......
相手に「〇〇してない?」や「〇〇しない?」って聞いてくるのは女性の自然な癖で、本人が休憩したいときに言ってくる言い草だ。
期待に応えて休憩しようじゃないか!
僕が知る限り、この街では1番大きな本屋だ。駅前ビルの一階と地下が車通りの多い道路を挟んだ反対側のビルに繋がってしまうほど広い。
ビルと言っても堅苦しくなく、空間にゆとりを持っている。
赤いレンガの外壁が一際目立ち、外と一体化するように窓ガラスが綺麗になっている。
僕はエスコートしてドアを開けた。
彼女は少し照れくされながら本屋の光に包まれていった。
本屋の明かりは落ち着きのある暖色で、より一層彼女の母性的輝きが増している。
本屋に入ると大衆文学の文庫本が並ぶコーナーを突っ切って行った。そして、細くしなやかな指で一冊の本を引き抜いた。
「私はこの本が好き。タヌキが可愛いよ」
そう言って差し出してきたのは『有頂天家族』と題名の書かれた本だった。
その作品は僕の好きな作品であり、メガネをグイッと押し上げてから好みも同じなのかと興奮した。
「それ僕も好きな本!弁天がいいキャラしてるんだよね」
そう言った僕に見えたのはまさしく弁天というキャラの様に妖艶な笑みだ。
彼女は一通り平積みされた本を眺めると、ピンとくる物を見つけたようですぐさま手に取った。
「これ買おうかな」
彼女が手に取っていたのは『この世界にiをこめて』だった。
デビュー作品を続々と重版させた作家、佐野徹夜による2作目の作品だ。
僕は発売日に購買し、睡眠時間も返上して一気読みした。
実にお勧めしたいものだった。
「それ、買うんだったら僕が買うから」
買ってあげるというより、買わせていただきたい、と言う方が正しい。
僕って変態。
それから彼女には少し大きな文庫本を受け取った。
「僕もついでに本買おうと思う」
普段から出版物の情報は電車での移動時間に仕入れているため、欲しいものは決まっていた。
平積みの山の凹んだ部分から自分の読みたかった本を取り出すとレジへ向かった。
一緒に並んでもらう徒労はかけられないので、彼女はお店一押し作品の棚のところに居てもらい会計へ進んだ。
それでも、もしものために彼女が常に目に入る棚のところを僕が選んだ。
レジに本を置くと店員が本の装丁に取り掛かり始めたので、僕は彼女の方を向いて愛らしい彼女の行動を眺めることにした。
低いところにある本を見るためにしゃがみ込む姿はハリネズミのように丸っこい。特に膝を抱える辺り。
高いところにある本を取るために目一杯に背伸びをする姿はミーアキャットのように細くしなやか。特に張った胸と腰の辺り。
そんな可愛らしい動物......違った。
そんな可愛らしい彼女の観察に一意専心していると、店員から肩にノックをされる。
少し不機嫌な様子から装丁が既に終わっていることが伺えた。
いいじゃないか、少しくらい天使に見入ったって、ケチなやつ。
僕はサイレント舌打ちをすると、滅多に使わないお金を財布から取り出して払う。
本当に使っていないため、使用したお金は諭吉。すなわち一万円札だ。
店員から本の入ったビニール袋と釣銭を受け取ると、彼女の元へ歩み寄る。
袋が予想より軽く感じるのは気のせいだろうか。しかし、今はそんなこと、どうでもいい。
僕が言ってみたかった「おまたせ」を言う前に彼女は僕に気づいてしまった。
だが、彼女が喜色満面としているので、僕にとっては至高のご褒美だ。
「買ってくれてありがとう。勉強のしすぎで疲れてない?ちょっと下のカフェで休憩しない?」
おお......どこかで聞いたことあるぞ......
相手に「〇〇してない?」や「〇〇しない?」って聞いてくるのは女性の自然な癖で、本人が休憩したいときに言ってくる言い草だ。
期待に応えて休憩しようじゃないか!
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