27 / 28
2話 憎恋刀身編
12.魔炎馬刀のバーニングソードさんが吼える①
しおりを挟むべきりという音で済む筈だったが
東の腕から生えた刃による一撃は魔炎馬刀の斬撃を5倍にして返したことによって思いの外その音は重いものとなった。
大木がひしゃげる。
べきりべきりと音が次第に大きくなり
大木が衝撃に耐えきれずくるくると回転をしながら倒れる。
心臓が殴られたかのような振動。
それで止まる
かと思われたが再びの振動。
砂埃が舞い上がりカーテンが出来上がる。
枯葉の雨が降る。
若く青々とした葉も枝も無残に散る。
その葉が黒く滲む。段々と黒く焦げて煙を生み出しながら灰と化していく。
それは粉となって飛散する。
紫の火の粉がチリチリと音を立てながら
葉や枝を焦がし無かったものにしていく。地が黒く染まる。何も無かったかのように全てが燃え尽きていく。
花は枯れる暇すら与えられず粉塵となりて消失。
曇った視界の中で背中に痺れを感じながらもまだ自分の肉体が動くことを理解した。重いフードを脱ぐ。湿ったシャツが纏わりついた感触が風と熱風に撫でられることでより一層の気持ち悪さを覚える。『風呂…お風呂に入らなきゃ…けど』
脳裏によぎるのは眼鏡ごしの死んだ魚のような目。口元には短い煙草。極め付けは泣きぼくろだ。泣くなんてことがこんな冷徹な人間にある筈もないのにそんな場所になぜホクロが存在するのか。
フードの女はそんなことを思いながら立ち上がった。
通常ならば背骨が砕け肋骨は粉々。
砕けた骨が臓器に突き刺さって動けず血反吐を吐いて狼狽える筈だがフードの女は体の痛みに耐えながら直立し、自分が来た道、もしくは飛ばされて来た方向へ鋭い眼光を向けた。
『風呂…入らせて貰えねえかんな…あれやらねえと』
標的は紫香楽 宵音。
フードの女は重いフードも上着を脱ぎ捨てると銀色の髪が姿を現した。
その鋭い目は生まれつきで憎いだとか許せないだとかそんなマイナスな感情は含んでおらず、ただ、風呂に気持ちよく入るため汗を流すためだけに標的を斬るというちょっとしたら試験をしなければならない学生のような感情に等しく今から行う行為に罪悪感なんてものは微塵もなかった。
『待ってろ風呂。待ってろ紫香楽宵音。あと邪魔なクソガキ』
縛楽 淡花(しばらく たんげ)
それがフードの裏の顔であり、女の名前。魔炎馬刀のバーニングソードを扱う剣士の名である。
縛楽は地面に刺さったままのバーニングソードを引き抜くと跳躍した。
地面にわずかなヒビを生んだかと思うと靴底が発火した。
常人では考えられない飛翔。
彼女は右手でその炎に恵まれた太刀を先程落下した三階に辿り着くや否や120度右から左へと滑らした。
滑るなんて軽い表現は不似合いだが動作的にはあながち間違いではない。
しかしながらその衝撃は滑るなどという言葉とは決して比例することなく
校舎の壁を抉り斬り崩して
再び 東海と紫香楽の前へと姿を現わした。
『…しつこいわね。この女』
紫香楽は嫌な顔をしながら胸に手を当てた。
ずるんと服に穴が開いていないのに
胸から刀が吐出する。
『いいわ。授業には遅れるんだからそれなりの覚悟と理由がお有りなのでしょう?ストーカーさん?』
紫香楽 宵音が細い刀を胸元から抜刀。
瓦礫が飛散した廊下に亀裂が走る。
魔炎馬刀のバーニングソードが火を噴きながら走った。
縛楽の疾走は火を纏う馬と化す。
東は両腕から刃を生やすと頭の前で交差させ、唾飲んだ。
『背に腹は変えられねえよな…』
旧校舎三階にて三本の刀が吼えたと同時に新校舎のチャイムが鳴り始めた。
この時はまだ生徒たちは誰もこの事態を知る由もなかった
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる