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2話 憎恋刀身編

12.魔炎馬刀のバーニングソードさんが吼える①

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べきりという音で済む筈だったが
東の腕から生えた刃による一撃は魔炎馬刀の斬撃を5倍にして返したことによって思いの外その音は重いものとなった。
大木がひしゃげる。
べきりべきりと音が次第に大きくなり
大木が衝撃に耐えきれずくるくると回転をしながら倒れる。
心臓が殴られたかのような振動。

それで止まる
かと思われたが再びの振動。
砂埃が舞い上がりカーテンが出来上がる。
枯葉の雨が降る。
若く青々とした葉も枝も無残に散る。
その葉が黒く滲む。段々と黒く焦げて煙を生み出しながら灰と化していく。
それは粉となって飛散する。
紫の火の粉がチリチリと音を立てながら
葉や枝を焦がし無かったものにしていく。地が黒く染まる。何も無かったかのように全てが燃え尽きていく。
花は枯れる暇すら与えられず粉塵となりて消失。

曇った視界の中で背中に痺れを感じながらもまだ自分の肉体が動くことを理解した。重いフードを脱ぐ。湿ったシャツが纏わりついた感触が風と熱風に撫でられることでより一層の気持ち悪さを覚える。『風呂…お風呂に入らなきゃ…けど』
脳裏によぎるのは眼鏡ごしの死んだ魚のような目。口元には短い煙草。極め付けは泣きぼくろだ。泣くなんてことがこんな冷徹な人間にある筈もないのにそんな場所になぜホクロが存在するのか。
フードの女はそんなことを思いながら立ち上がった。
通常ならば背骨が砕け肋骨は粉々。
砕けた骨が臓器に突き刺さって動けず血反吐を吐いて狼狽える筈だがフードの女は体の痛みに耐えながら直立し、自分が来た道、もしくは飛ばされて来た方向へ鋭い眼光を向けた。
『風呂…入らせて貰えねえかんな…あれやらねえと』
標的は紫香楽 宵音。
フードの女は重いフードも上着を脱ぎ捨てると銀色の髪が姿を現した。
その鋭い目は生まれつきで憎いだとか許せないだとかそんなマイナスな感情は含んでおらず、ただ、風呂に気持ちよく入るため汗を流すためだけに標的を斬るというちょっとしたら試験をしなければならない学生のような感情に等しく今から行う行為に罪悪感なんてものは微塵もなかった。

『待ってろ風呂。待ってろ紫香楽宵音。あと邪魔なクソガキ』

縛楽 淡花(しばらく たんげ)
それがフードの裏の顔であり、女の名前。魔炎馬刀のバーニングソードを扱う剣士の名である。

縛楽は地面に刺さったままのバーニングソードを引き抜くと跳躍した。
地面にわずかなヒビを生んだかと思うと靴底が発火した。
常人では考えられない飛翔。
彼女は右手でその炎に恵まれた太刀を先程落下した三階に辿り着くや否や120度右から左へと滑らした。
滑るなんて軽い表現は不似合いだが動作的にはあながち間違いではない。
しかしながらその衝撃は滑るなどという言葉とは決して比例することなく
校舎の壁を抉り斬り崩して
再び 東海と紫香楽の前へと姿を現わした。

『…しつこいわね。この女』
紫香楽は嫌な顔をしながら胸に手を当てた。

ずるんと服に穴が開いていないのに
胸から刀が吐出する。
『いいわ。授業には遅れるんだからそれなりの覚悟と理由がお有りなのでしょう?ストーカーさん?』
紫香楽 宵音が細い刀を胸元から抜刀。
瓦礫が飛散した廊下に亀裂が走る。
魔炎馬刀のバーニングソードが火を噴きながら走った。
縛楽の疾走は火を纏う馬と化す。
東は両腕から刃を生やすと頭の前で交差させ、唾飲んだ。

『背に腹は変えられねえよな…』

旧校舎三階にて三本の刀が吼えたと同時に新校舎のチャイムが鳴り始めた。
この時はまだ生徒たちは誰もこの事態を知る由もなかった
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