上 下
25 / 28
2話 憎恋刀身編

10.魔炎馬刀のバーニングソードさんが来た③

しおりを挟む


校舎三階、授業開始までおおよそ3分。
廊下には紫香楽と東しかいない。

コンクリートでできた床は暗い緑色のペンキで塗装されており、壁も丁寧に塗装され汚れひとつないクリーム色に仕上がっていた。
200メートルはあろうその廊下の横には教室の扉や窓があり、その反対側には新品の窓ガラスたちが綺麗に並んで太陽光を廊下へ反射させていたわけなのだが、どうも気分は晴れやかではない。というより、晴れやかさなど微塵も感じさせない重苦しい鉛のような不気味さのみが息をしていた。

その圧迫感たるや凄まじく、満員電車などという生易しい元比較するのは失礼なほど身動きが取れるはずなのに床に鉄杭で四肢を打たれ固定されているほどの身動きができない『感じ』がしていた。
もちろん、動くことは可能だが、それほどまでの精神的窮屈さを二人は感じていたし、自らの思考が十分矛盾を含むことも承知した上でそう思っていた。
と、いうよりもそう思わざる終えなかったというほうが正しいだろう。

パリンという軽い破裂音がこだました。
100メートルも離れていたからか音は大したことはないが、その新品のガラスが割れた反動は大きい。傷1つないものが割れたのだ。
かなりの負荷がかかったのだろう。

紫香楽は冷や汗をかいていた。
とてつもない強風が割れた窓から入り込んで来たから…ではない。
その強風と一緒に校舎へ侵入してきたソレを見て冷や汗をかいた。
できれば会いたくてなかった。
紫香楽自身、べつにソレがなんなのか詳しく知っているわけではない。
八割型直感だ。

風が円を書くようにしてガラスを巻き上げ飛ばした。
東が手を振りがざすと
こちらへ向かってくるガラスたちが東から5メートル離れた付近で粉々に砕け元来た道を乱雑に回帰していく。

『なんだ、あれ』
思わず東もそう言ってしまうほど、圧巻だった。

目の前には大きなフードで顔を隠した女がいた。
身長は紫香楽よりも高い。百七十センチメートルはあるだろうか、、
しかしそんなことなどに気にできるほどの余裕はない。
視界に入ってきた情報に圧倒されしまったからだ。

『燃えてる…』
女の顔は見えないが、女が手に持つ物騒なものは視認できた。とはいっても視認したくてしているわけではない。できればしたくはなかったというのが東の感想だ。
紫香楽は自らが吐いた言葉をもう一度復唱した。
『いや、燃えてる…よね?』
東は紫香楽の肘鉄を受けて意識朦朧としてはいたがその目の前に現れたものの恐ろしさに目が覚めた。目覚まし時計よりも効果があるのではないかと今考える必要のないことが脳裏に浮かぶが、紫香楽の疑問に東は当然のように答えた
『燃えているな。だから目が覚めた。おかげさまで』
『あのさ。あんた燃えてるんだよ?ありえなくない?』
『けど、燃えてるからなあ、しかも、あいつ、こっち来てるぞ』

じっくりと足音が接近する。
メラメラと燃えるそれは、馬の模様が入っており炎によって赤く照らされたその馬の目は赤く燃えているようにすら見える。

『魔炎馬刀』

フードで顔を隠した女の僅かにみえる口元から笑みがこぼれはじめる。
その女の一言、魔炎馬刀…まさにそれは馬の首でも斬れてしまいそうなほどの巨大なな体躯に炎を帯びた太刀であった。

『紫香楽逃げるぞ』
『ええ。』
二人は知っていた。自らの体の中に眠る刀が告げるからだ。いやでもその情報は共有される。
4つあるうちの地獄大剣の1つ
魔炎馬刀のバーニングソード…
それが今、目の前にいるのだ。
一度刀を振り回そうものならあたり一帯が火の海となり命あるものは灰と化すまでその火に追われるという。

つまり、東たちには手の打ちようがなかった。
だからこそ、潔い逃走こそが唯一の手段だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

結婚して四年、夫は私を裏切った。

杉本凪咲
恋愛
パーティー会場を静かに去った夫。 後をつけてみると、彼は見知らぬ女性と不倫をしていた。

処理中です...