目指すは新天地!のはず?

水場奨

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47話 献血するシャリオ

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「針が入りますよ」
まさかこの世界に来てこんなことになるとは思っていなかったが、医療用の寝台に横たわり血液を抜かれている俺だ。
「こんな道具があったんだな」
注射みたいなのがあることも、初めて知ったよ。
俺、そういや医者にかかったこと1度も無かったんだ。

「僕らの血を取るのも、デヨーテさん達だとこういうの使ってくれたんだ」
「そうなのか?」
寝台の横には、俺の質問に答えるためと称して子供達が集まっている。

「けどナイフみたいのを刺して流れる血を見るのが好きな人の番だと、すっごい血が出たりするよな」
「そうそう、ハゲの番とかうたげ?って儀式の時とかな」
マジで最低だな、宴ってやつは。
俺はよく頑張ったな、の気持ちを込めてこいつらの頭を撫でてやった。
「えへへ~!」
「いいなー、僕も!」
「おう、もう少しこっちに来い」
こいつら、まだ本当に子供なんだよな。



3日に1度教会を訪ねると、まず図書館?に行きその日までに疑問に思ったことを調べる。
だいたい2時間もあれば終わってしまうので、そのあと採血だ。

「今日はここまでにしましょう」
抜いた血液は、時間をゆっくりにする魔道具の瓶に移される。
「足りるのか?」
これは1日のノルマ分の魔力を補給するための血液として、内宮に持ち込まれるのだ。3日に1度の採血だから、3日分だな。
他の人の分より、俺の血の方が効率がいいんだと。少量でも規定値に到達するらしい。
そんなこと言われたら頑張っちゃうだろ。

「これ以上はシャリオ様に負担がかかりすぎますよ」
「そうです。最近はご自分で歩いて帰れないではないですか」
いや、俺は歩いて帰れるんだけどな、ファガルが許さないだけで。
ファガルも精霊の動きを見ているから、この段階までは口を挟んだりはしないのは助かってるけど。

「では、こちらをいただいて行きます」
割と年齢の高い10代後半から20代の人間がそれを持つと内宮に向かうんだ。
デヨーテ達が内宮内の清掃や子供達の食事なども用意しないといけないらしく、その仕事に同行するのだ。

「デヨーテ様、準備が整いました」
「今日はお前達2人だな」
「はい」
内宮の庭にある門に入る時まで精霊が目隠しの魔法をかける。中に入ったのがいつもの貴族だと勘違いさせるためだ。
それ以上近づくと精霊が取り込まれてしまうため、精霊はそこで待機し、出てきた子供にまた魔法をかけて一緒に帰ってくる。
中で人間を入れ替えて出てくるのだ。

俺達もその方法で入れないかと思ったのだが、入ったあと誤魔化すのが難しいからとその案は没になった。
囚われた部屋の中では裸になることが多く、俺の刺青模様とファガルの髪色は誤魔化せないらしい。
その方法で俺らが乗り込むことがあるとすれば2、3日で全てが片付くと確信できた時だ。

「今回は子供1人と護衛戦士を1人、交代してきてくれるか?」
「はい」
同行する2人が内宮に囚われている子供達と交代し、順に子供達の解放をするっていう塩梅だ。
中にいる人間が全員戦える人間になれば、どうにでも動くことができるようになるだろう。

およそ100人いる子供達を教会内の護衛戦士と入れ替えるまで、単純計算で2カ月かかる。
具合の悪くなった護衛戦士も時々入れ替えなければならないし、ある程度情報を得たらそのためにも人員の入れ替えは必要で、ジリジリと焦る気持ちを抱えながら確実に戦える人間と入れ替えている。

死人が出ない今、新たに子供を仕入れる必要がないのが、デヨーテ達の気持ちを支えているらしい。
仮に俺が居なくなっても、この方法で命を繋いでいけると感謝された。

「ではシャリオ様、行ってまいります」
「ああ、頼んだ」
「はい!」
俺だけでなく、精霊達の指示で教会の人間も少しずつ採血をし、解放された子供達に与えているが、そうして解放した子供達はまだ瀕死ではないため、輸血もそれほど必要にならなかったりする。

余った血液は全て内宮に持ち込み、その日のノルマとして提出する血液に混ぜるため無駄になることはないのだ。

が。

「シャリオ様、お食事のご用意ができました」
「残さず食べて下さいね」
「ぐっ」
採血後、目の前に積まれたのは増血作用のあるサラダだ。
もう、それはそれはにがーいヤツな。
これ、成分だけギュッとして、サプリみたいに飲めんのかなぁ、はぁ。

「シャリオ、私も一緒に食べるからな」
ファガルが寄り添って慰めてくれるから、弱音は吐きたくない。
ファガルも一緒に血を抜いてくれてるからね。
まあでもファガルや教会の人は、俺みたいにバカスカ抜いたりはしないけど。

「うぅ~」
くそマジィ。
にがーい。
これな、口に入れると身体が飲み込むのを拒絶しようと嗚咽しちゃうんだよ。
背中がぐぉって寒気もするし。

「はあ」
気合い入れて、一口。
寝台の上に胡座をかき、モソモソと草を食む。
「うぅ」
涙目でファガルを見上げれば、ファガルが『うっ』と呻いた。

「シャリオ、今日は帰ろうか。別の方法で魔力を補充しよう」
「ファガル様!その方法では魔力は増えても増血しないと、何度言ったらわかるのですか!」
そういう下の話題、子供達の前では恥ずかしいからやめて!

「しかし、見ろ。こんなに涙目で、シャリオが可哀想ではないか」
「甘やかしはシャリオ様のためになりませんよ!」
あ、うん。
頑張って食べるから、それ以上口にしないでくれるか?
その言い方だと、俺、まるでできの悪い子供みたいじゃね?
自分の命も他の人の命運も握ってるってわかってるから、毎日不味い食事続きでも頑張るさ。

「シャリオさま、これマズいもんね」
「僕らもこれ食べさせられた時、毎日泣いてたからわかるよ」
「ごめんね、僕らのために」
う。
「そ、そっか、お前達も大変だったな」
子供達ですら頑張ったのだ。
俺が頑張れずにどうするんだ。

「ああ、シャリオ大丈夫か?コレ、飲むか?」
草を食むたびに横から果実水を持ったファガルがアタフタしてストローをねじ込んでくる。

「はあ、ファガル様。よくそんな状態で乱交夜会なんかに参加しようと思いましたよね」
「モンタリア」
モンタリアは乱交パーティに参加したファガルを1晩自分の部屋で匿い、翌朝連れ出してくれた他領の人間だ。
ファガルは乱交パーティーになんとか伝手を使って潜り込んだのに、その場を目の当たりにして、それ以上はどうしても無理だったらしい。

なんて勿体ない。
俺、乱交パーティーとかちょっと興味あるなぁ。
美女とかおらんかったの?
……って、ん?
なんか寒気がするような……。
「シャリオ?」
「ひゃ、ひゃい?」
こ、心の声でも漏れてたか?
ファガルさん、ちょっと怒って……るぅ。
なんでバレたんだ。


「はあ、ファガル様、そんなに執着してる人がいて、よくあんなところに参加しようとか思いましたね。無謀も無謀ですよ」
「そ、それは、すまなかった」
モンタリアに怒られて、ファガルがしょぼーんと縮んでいる。
ふー、セーフ。

「ファガル様のことは、精霊色を持ってるからやっぱり純情なんだって評価になってますから、もう呼ばれることはないかと思います」
「め、面目ない」
「それにファガル様自身が割と逞しいですし、薬や魅了等の魔術を使って襲おうにも、ファガル様の護衛のミディアムが恐れられ過ぎてますしね」
つまり無理矢理でももう機会はない、と。

要するに、短期集中バージョンは失敗に終わって、長期バージョンに絞らざるを得ない状況になったのだ。

「ま、私としてはファガル様と出会えたことで、知りたいことを知れてかなり良かったですけどね。シャリオ様、私達にも1枚噛ませて下さい」
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
モンタリア達の領でも、神隠しが問題になっていたんだと。
他にも何人かそうした知り合いをモンタリアから紹介されて、動ける人数が増えた。

「今は正確な内部の情報が欲しいところだよな」
「その『精霊制御魔法陣』を見つけないことには、この件は終わらないということですからね」
「本当です。この後も同じことが起きないよう、誰も真似できないように破壊し尽くしてしまわないと」

そのために、俺は知り得た情報を開示できないんだ。
精霊文字を教えたせいで誰かが悪用できる可能性みらいを考えると、長い目で見てそれを公表するのは悪手だと考えている。
だから俺かファガルか、どちらかが直接乗り込むしかない。

「集めた魔力を何に使っているのかというのも気になるところだよなあ」
「いいところに目をつけましたね。おそらくですが、隣国との境目に何度か落とされている攻撃破に変えられているのだと思います。宴の行われた後に小競り合いが始まることが多いですからね」

こんなに苦労して絞り出している血が、戦争の火種になってるのか?
ぐぬぬぬ、許せん。
必ずやこの草、宴に参加してるヤツらの口に突っ込みまくってやるんだからな!

「ただ、毎月行われていたその宴が、ここ数ヶ月開催されていないのが不気味なところではありますよね」
へ?そうなのか?
「今までとは違う何かが起きているのではと思います」
これは向こうも何か勘づいてるってことか?
早めにもう少し踏み込んだ方がいいのかもしれない。

『精霊』という文字だけでも教えれば、魔法陣のありかがわかるだろうか?
それ以外の言葉を教えなければ、それならなんとかなるかもしれない。
翌日内宮に向かう護衛戦士を呼ぶと『精霊』という模様がどこかにないか、探して欲しいと伝えたのだった。



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