目指すは新天地!のはず?

水場奨

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32話 さみしくなくなったアルベルト

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物心ついた時、僕の近くに母上はいなかった。
母上は父上のことが好きじゃないのに無理矢理結婚させられて、僕を産んだ。
だから僕のことが好きじゃないから、会いたくないんだって誰かから聞いた。

父上は僕にとって遠くから眺める人で、いつも怒鳴ったり誰かを叩いたりしているから、近づきたいとは思わなかった。
母上が父上と結婚したくなかったのは、理解できるなって思った。

僕の側にいてくれた乳母が亡くなった時、さみしくなって、乳母に聞いていた母上が同じっていう兄上に会いに行ったけど、会ってもらえなかった。
僕が会いに行くことは兄上に迷惑をかけることだから、やめるように言われた。
物陰から兄上を見た時、その人が兄上の名前を呼び捨てで呼んでいて、楽しそうで、ああいうのが友人っていうんだと知った。

父上の別の奥さんや母親の違う兄や姉はみんな怖くて近づけなかった。
会えばたくさん僕の悪いところを指摘してくる。
その内には彼らと喋りたくなくなって、姿が見えたら逃げるようになった。
母親の違う弟や妹は、遠くからしか見たことがない。

僕の近くに来る使用人はコロコロ変わるし、なんでも言うことを聞いてくれるけど、次の日には違う場所に行ってしまう。
たまに僕を担当するだけだから、僕の我が儘も耐えられるんだって、誰かが言ってたのを聞いた。


いつだっただろう。
突拍子もないことをすると、構ってもらえると気づいたのは。
急ににこにこして、たくさん話をしてくれる。
変わったこと、極端なこと、びっくりすること。
それらをやってる内に、どんなことをすると人が集まるのかを学んだ。




それが、父上の姿と似てたって気づいたのは、もっとずっと後のことだった。



城から追い出されて、いっぱい痛くて、僕はなんで生まれてきたんだろうとか、なんかさみしい、すっごくさみしい、このまま、さみしいまま死ぬのかなあって。

街に降りて、供を連れて行ったことのあるお店に行ってみても、誰も口を聞いてくれなくて、僕はそこに存在していない人みたいだった。
さみしくて、その辺にいる人に声をかけようとしても、みんな気づかないふりで逃げていって、お腹がすいて、もう走ることもできないんだって、思った。

そんなことを繰り返したら、人を見るのも怖くなって、人のいないところを探して歩いた。
僕はなんで生まれてきたんだろうって思って、それでもお腹はすいて、何かを食べたいって思って。
お腹がすいて、すいて、でも、その辺りにあるものを口に入れると、思わずエズくぐらい、不味かった。

喉が乾いて、水なら不味くないと気づいて、川の水を飲んで、それでもお腹は空いて、食べられるモノが見つからなくて。
僕、本当になんで生まれてきたんだろうって、そこでゴロリと横になった。
ここなら少なくとも、喉を潤す水がある。



なのに、たくさん意地悪をしたはずの人が僕を拾ってくれた。
僕はその人に痛いことをいっぱいしたのに、僕のケガの手当てをしてくれて、いつの間にか、痛いのが無くなっていた。
細くて小柄なその人が近くにいると、さみしくないと、気がついた。

他にも、僕のことを嫌ってるって隠さないのに、話しかけると答えを返してくれる人もいる。
小さな彼にキツイことを言われると、悲しくなることはあるけど、僕はここにいない人じゃないって、思えた。
その人と2人きりでいても、さみしくなくて、不思議と居心地がいいって、思えた。

ご飯を作ってくれる優しい人もいて、ぜんぜん美味しそうな見た目じゃないのに、食べると美味しくて、びっくりした。
小さいのに、外にある食べられる草とか教えてくれる人で、笑うとかわいい。
僕の妹も、こんな風に笑ってくれたら、かわいいって、思えたのかもしれない。


日が昇ると大人の人がやってきて、僕らが困ってないかって、聞いてくれる。
その人はいろんなことを知っていて、よく僕を叱る。
けど、なんで叱られたかわかると、褒めてくれるんだ。
よくわかったなって、偉いぞって、頭を、こうグリグリって撫でてくれて、この人が、僕の父上か兄上だったら、よかったのになあ。






でも、夜になると、僕は部屋に1人だ。
誰もいない。

「さみしいんだ」

けど、そう声に出したら、側にいてくれるって言ってくれる人が、ここにはいた。
今までそんなこと言っても、側に居てくれる人なんか、誰もいなかったのに。

一緒に布団の中に入ったら、僕より先に寝てしまった。
先に寝てしまった彼の顔を見て、疲れて寝てしまった彼の顔を見て、よくわからない幸せな気持ちが僕を満たした。

彼の寝顔を眺めていたら、不意に気づいた。
寝ている間は、僕から離れていけないんだなって。

そして、僕が寝た後で彼が起きて、知らない間に布団から出ていってしまうのはイヤだなあと思った。
彼が布団から出る時に、僕が起きれたら『まだ寝れてない』って引き止められるんじゃ、ないかな。

だから腕の中に抱え込んで寝た。
あったかくて、優しい匂いがする。
僕より年上なのに小さくて、僕のせいで死ぬとこだったのに、笑って許してくれるくらい、心の大きい彼。
この人が側に居てくれたら、ずっとさみしくならない気がする。

どうしたら、ずっと側に居てくれるんだろう。
どうしたら嫌われることなく、僕の側に居てくれるんだろう。

次の日『おやすみなさい』の後、俯きながら彼の服の端を握ると『仕方ないなあ』って、また同じ布団に入ってくれた。
僕はひとつ、賢くなった。

「ベッドを同じ部屋に持っていくか?」って話が出た時に、貴族の大人が『マリカは子供だけど一応女性だから、血の繋がらない異性と同じ部屋で寝ることは、マリカのために賛成できない』とか言ってくれて、表面的には悲しそうな顔をしたけど、心でほくそ笑んだ。

その時、僕が欲しいのは彼だけだって知ったんだ。
彼の弟も妹も好きだけど、彼に対する好きとは違うって。
家族より大切にしてもらえるとは思ってないけど、彼の1番になりたい。
どうやったら、1番になれるんだろう。

彼女が『じゃあ、私が小部屋に移ろうか?』って言ったら、シウムが『この家が絶対安全ってわけでもないから、夜に部屋で女が1人はダメだ』って。
いいぞ、って思った。

それからは僕とアビス、シウムとマリカに分かれて寝ている。
僕はもっといっぱい考えて、すっごく考えて、ずっと、死ぬまでずっと、アビスが側に居てくれるにはどうしたらいいのかって。
考えて、考えて、でもまだ思いついてないから、早く、賢くなりたい。

物知りなシャリオに、たくさん教えてもらえたら、わかるようになる気がする。
教えてもらった、他の人にしていいこと悪いことを覚えると、シャリオにはいっぱい褒めてもらえるし、アビスには、そういう僕は好きって、言ってもらえるんだ。

アビスの好きな僕になりたい。
いっぱい勉強して、そういう僕に、なりたい。
だから、本当に、シャリオが僕の兄上だったらよかったのにって、思う。





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