目指すは新天地！のはず？

１５話 焦るファガル

３、４年に１度、王都から領内の視察に役人がやってくる。
記載されている事業が正しく行われているか、納められている税が妥当かを判断するためだ。
反旗を翻す気配さえ無ければさしたる意味もなく、そもそもこんな田舎では遠過ぎて警戒する必要もない、まあ単なる恒例行事だ。

いつも通り領内の民の様子を見て、館内のおかしな武器などが見つからなければ５日ほどで帰る。
そう、思っていた。

「デヨーテ様、やめてください！」
シャリオが役人の１人に目をつけられたのだ。
こんなことなら、彼は私の想い人だと、婚約者なのだと先・に・紹介しておけばよかった。

「デヨーテ様、何度も申し上げているように彼は私の婚約者なのです」
デヨーテの視界に入らぬようにシャリオを背に庇うと、いつもと同じ言葉を吐き出す。
何度でも何度でも、デヨーテが諦めるまで口にすることは苦痛では無いのだが。

「そのような嘘をつく必要など無いのですよ、ファガル様。ファガル様には精霊色持ちとして、相応しい身分の女性を側に置くべきでしょう」
後出しで口にした言葉は、デヨーテを嫌がるシャリオのためのものだとしか認識されないのだ。

そして繰り返される台詞に、シャリオが次第に気後れするようになった。
私が色持ちだと、その意味を正しく知ることになったためだ。
やっと気持ちが通じ合ったところなのに、シャリオから距離を取られてはたまらない。

身分はデヨーテの方が上。
個人としての特異な性質があるから対等な態度を許されているけれど、表立っての喧嘩は不利益しか生み出さないのが歯痒い。

いっそのことシャリオが１８になっていれば籍を入れることもできたのに。あと半年ほど足りない。
教会の記録は例え王であっても覆すことができないのだ。シャリオの生まれを変えることなどできない。

「それにしても、話に聞いていたよりもダガラ領は豊かでしたなあ。納める税が足りないかもしれませんなあ。これほど豊かであると、良からぬことも考えてしまうかもしれませんねえ」
突然デヨーテが会話を切り替えた。

「ああ、そうそう。もし何・か・が見つかればダガラ領は廃されるかもしれませんね。ああ、でも私はシャリオ君の出方１つで、何・も・探・さ・な・い・ま・ま・帰都してもいいんですよ」
デヨーテの言葉にシャリオが動揺したのが、握っている手から伝わってきた。

「こちらには探られて痛くなるような腹は無い。存分に調べればよかろう！」
俺はシャリオを連れ立ってその場を後にしようとした。

シャリオは動かなかった。

「俺、ファガルに迷惑かけてるんだな」
「シャリオ、何も気にすることはない。こちら側には疑われても何も困ることはないんだからな。何も出ようがない」
こんな田舎では。

シャリオは首を振った。
「それでも彼は、見・つ・け・ら・れ・る・んだろう？」
「シャリオ？」

「ふははははは。さすがは色持ち様、平和にお過ごしの事とみえる。この段階で正確に状況を把握できる、シャリオの頭の回転の良さにも驚いたが。君は本当に平民ですか？」
シャリオから伝わる緊張感に、何かがおかしいと気がついた。

「シャリオ？何が」
わかったっていうんだ？
何に動揺しているのだ？