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13話 疑問を持つ魔法教師
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ダラガ領の次男ファガル様は田舎が出自の貴族としては珍しく精霊色の出た方だった。
いや、以前であればというべきか。
近年、精霊色は地方にパラパラと見られるようになったからな。
精霊色は王族に近づけば近づくほど出やすいと言われていたのだ。
光る水面のような銀髪に、透き通るような紫の瞳。
間違いなく、精霊色を持った方なのだ。
自然に愛される特色のある彼らは、決められたカリキュラム以外で自領を出ることはまずない。
彼らがいる土地はその名の通り精霊に守られ、恵の多い地域となるためだ。
しかもここ30年ほど、王族に精霊の印がついた子供が現れておらず、尚のこと精霊色の人間が大切にされているのだ。
このまま王族に印を持つ子供が現れなければ、いずれこの国は精霊から見放され加護を無くしてしまうだろう。そうなった時、この国は一体どのようになってしまうのか。
我々が使用する魔法ですらも、彼らの影響が非常に大きいというのに。
今、王都では精霊色を持つ子供があまりにも現れないため、ある噂が流れ始めている。
前の印の所有者の死が不審であったため、精霊が王族を見切ったのではないかと。
しかも前王の息子、当時の王太子殿下は部屋に大量の血痕を残して行方知らずのままだ。
前王は穏やかで争いを嫌い、精霊の力を借りて国を富ませていた。
他国との争いも、話し合いとお互いを発展させる事に力を入れて武装など必要がない時代だった。
僅か20年あまりの統治ではあったが。
それが面白くなかったのが今の王で前王の弟だ。
『国は富み、力は溢れ、今ならば世界を統べることも可能であるのに』と事あるごとに漏らしていたと聞く。
私は目の前で穏やかに笑みを浮かべる彼を見た。
精霊の印を持つ者がいない以上、国が、人々がこぞって支援を申し出る精霊色の者の保護する者を。
精霊色が出ると、大抵は他の兄弟が領を治める領主となり、精霊色が出た本人は好きなように生きるのが常だ。
ファガル様も例に漏れず、そうした生活をなさっている。
が、そうした人々とは違い、身勝手な性質は今のところ見えていない。
いや正確に言うと、最初は物凄い利己主義なのだろうと覚悟を決めて来たのだ。
彼が唯一盛大に我が儘を通しているのが、目の前の存在(シャリオ)であり、はじめは精霊色の彼にいくら依頼されたからと言って、平民に魔法を教えてほしいとは馬鹿げていると思ったのだが。
どちらの人物も、実に常識人で好感の持てる人柄だった。
しかも、彼は本当に魔法を使うことのできない平民なのだろうか。
はじめて顔を合わせた1年半前は、多少可愛らしくはあったが平民だと頷けた。
しかし今の彼を一目で平民と思う者などいないであろう。口を開くと、平民らしさが垣間見えることもあるけれども。
驚くことに彼は、教えたことは1度で覚えてしまう。
そして、どうやら教えた魔術に反応があるのだ。つまり魔力持ちだということだ。
けれど、そんなことがあるはずがない。
これほど成長していながら、何の補助器具も無しに魔力持ちが生きていられるわけがないのだ。
今まさにここで彼が生きているということは、魔力持ちではないか、魔力を有していながら今まで1度も発現させたことがないか、ということになる。
そんなことが可能だろうか。
些細な怒りですら、魔力は纏ってしまうものであるのに。
魔力持ちは誰1人漏れることなく、生まれてすぐに、何らかのトラブルで死んでしまう前に急いで特殊な器具を装着する。
大概は母が妊娠した時点で用意されていて、生まれてすぐにつけることになるのだ。赤子は泣く時に魔力を放出してしまう者も多いからな。
生まれたばかりの赤子の小さく弱い魔力であれば、せいぜいが小さな傷がつく程度であるが、ひと月もすれば大きく声をあげ、大きな魔力が飛び出てしまうこともある。大貴族であればあるほどだ。
故に母との繋がりを切る前に、身体のどこかに装着するのが常だ。
形は腕や指にする装身具であったり耳などに固定するものであったり種類はあるが、どれも高価になる。
精霊の力の宿った特殊な石を使っているためだ。
その器具は全てが国に管理され、持ち主の居場所も確認できる。もちろん死亡すればすぐにわかるため、貴族というのはなかなかに家畜のようだと言う者もいるほどだ。
だが、それが無くては我々は生きられぬ。
そして年齢にばらつきはあるものの10歳までにきちんとした手続きを経て、貴族として登録されるのだ。
その登録の時のみ、精霊色の人間も王都に滞在することとなっている。
細く痩せ細っていたあの頃なら思わなかったが、今のシャリオは健やかで美しくなった。柔らかな金髪と深い青の目は人々を惹きつける魅力がある。
まるで創世記に出てくる初代王の少年時代とは、かくもあったのではないかというような風情だ。
もし、彼が魔力を発現することがあったとするならば、死なせてしまうには実にもったいないと思えるほどに。
だが、もし発現させてしまったとするならば、そして生き残ってしまったとするならば。
シャリオは2度と自由にはなれまい。
例えファガル様が強く望んだとしても、その特異な性質を調べたいと思わぬ研究者などいるわけがないのだから。
できればこれは私の思い過ごしで、この2人がいつまでも仲睦まじく生きていけるといい。
だから私は、彼に教える必要のない魔法を教えてしまっているのだろう。
もしも万が一予感が当たり、しかも生き残ってしまった時に、無事しがらみから逃げ切られるように、と。
いや、以前であればというべきか。
近年、精霊色は地方にパラパラと見られるようになったからな。
精霊色は王族に近づけば近づくほど出やすいと言われていたのだ。
光る水面のような銀髪に、透き通るような紫の瞳。
間違いなく、精霊色を持った方なのだ。
自然に愛される特色のある彼らは、決められたカリキュラム以外で自領を出ることはまずない。
彼らがいる土地はその名の通り精霊に守られ、恵の多い地域となるためだ。
しかもここ30年ほど、王族に精霊の印がついた子供が現れておらず、尚のこと精霊色の人間が大切にされているのだ。
このまま王族に印を持つ子供が現れなければ、いずれこの国は精霊から見放され加護を無くしてしまうだろう。そうなった時、この国は一体どのようになってしまうのか。
我々が使用する魔法ですらも、彼らの影響が非常に大きいというのに。
今、王都では精霊色を持つ子供があまりにも現れないため、ある噂が流れ始めている。
前の印の所有者の死が不審であったため、精霊が王族を見切ったのではないかと。
しかも前王の息子、当時の王太子殿下は部屋に大量の血痕を残して行方知らずのままだ。
前王は穏やかで争いを嫌い、精霊の力を借りて国を富ませていた。
他国との争いも、話し合いとお互いを発展させる事に力を入れて武装など必要がない時代だった。
僅か20年あまりの統治ではあったが。
それが面白くなかったのが今の王で前王の弟だ。
『国は富み、力は溢れ、今ならば世界を統べることも可能であるのに』と事あるごとに漏らしていたと聞く。
私は目の前で穏やかに笑みを浮かべる彼を見た。
精霊の印を持つ者がいない以上、国が、人々がこぞって支援を申し出る精霊色の者の保護する者を。
精霊色が出ると、大抵は他の兄弟が領を治める領主となり、精霊色が出た本人は好きなように生きるのが常だ。
ファガル様も例に漏れず、そうした生活をなさっている。
が、そうした人々とは違い、身勝手な性質は今のところ見えていない。
いや正確に言うと、最初は物凄い利己主義なのだろうと覚悟を決めて来たのだ。
彼が唯一盛大に我が儘を通しているのが、目の前の存在(シャリオ)であり、はじめは精霊色の彼にいくら依頼されたからと言って、平民に魔法を教えてほしいとは馬鹿げていると思ったのだが。
どちらの人物も、実に常識人で好感の持てる人柄だった。
しかも、彼は本当に魔法を使うことのできない平民なのだろうか。
はじめて顔を合わせた1年半前は、多少可愛らしくはあったが平民だと頷けた。
しかし今の彼を一目で平民と思う者などいないであろう。口を開くと、平民らしさが垣間見えることもあるけれども。
驚くことに彼は、教えたことは1度で覚えてしまう。
そして、どうやら教えた魔術に反応があるのだ。つまり魔力持ちだということだ。
けれど、そんなことがあるはずがない。
これほど成長していながら、何の補助器具も無しに魔力持ちが生きていられるわけがないのだ。
今まさにここで彼が生きているということは、魔力持ちではないか、魔力を有していながら今まで1度も発現させたことがないか、ということになる。
そんなことが可能だろうか。
些細な怒りですら、魔力は纏ってしまうものであるのに。
魔力持ちは誰1人漏れることなく、生まれてすぐに、何らかのトラブルで死んでしまう前に急いで特殊な器具を装着する。
大概は母が妊娠した時点で用意されていて、生まれてすぐにつけることになるのだ。赤子は泣く時に魔力を放出してしまう者も多いからな。
生まれたばかりの赤子の小さく弱い魔力であれば、せいぜいが小さな傷がつく程度であるが、ひと月もすれば大きく声をあげ、大きな魔力が飛び出てしまうこともある。大貴族であればあるほどだ。
故に母との繋がりを切る前に、身体のどこかに装着するのが常だ。
形は腕や指にする装身具であったり耳などに固定するものであったり種類はあるが、どれも高価になる。
精霊の力の宿った特殊な石を使っているためだ。
その器具は全てが国に管理され、持ち主の居場所も確認できる。もちろん死亡すればすぐにわかるため、貴族というのはなかなかに家畜のようだと言う者もいるほどだ。
だが、それが無くては我々は生きられぬ。
そして年齢にばらつきはあるものの10歳までにきちんとした手続きを経て、貴族として登録されるのだ。
その登録の時のみ、精霊色の人間も王都に滞在することとなっている。
細く痩せ細っていたあの頃なら思わなかったが、今のシャリオは健やかで美しくなった。柔らかな金髪と深い青の目は人々を惹きつける魅力がある。
まるで創世記に出てくる初代王の少年時代とは、かくもあったのではないかというような風情だ。
もし、彼が魔力を発現することがあったとするならば、死なせてしまうには実にもったいないと思えるほどに。
だが、もし発現させてしまったとするならば、そして生き残ってしまったとするならば。
シャリオは2度と自由にはなれまい。
例えファガル様が強く望んだとしても、その特異な性質を調べたいと思わぬ研究者などいるわけがないのだから。
できればこれは私の思い過ごしで、この2人がいつまでも仲睦まじく生きていけるといい。
だから私は、彼に教える必要のない魔法を教えてしまっているのだろう。
もしも万が一予感が当たり、しかも生き残ってしまった時に、無事しがらみから逃げ切られるように、と。
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