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4話 我を失うファガル
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春になった。
とうとう冬の間、1度もシャリオの顔を見ることはなかった。
日課になったシャリオ家通いも、帰ってきてはぐったりと落胆し食事も喉を通らない様子に、周りが心配の色を濃くしているのには気づいていた。
そんなある日。
「ファガル様!シャリオの家で動きがありました。裏口辺りに洗濯が干してあります」
巡回していた側近が報せに走ってきたようだった。
なるほど。
丸々家から出ないなどという生活ができるわけもない。
シャリオは私の目から逃れるために、冬の間裏口を使用していたに違いない。
少なくとも中で倒れているわけではないと知り、笑みが浮かんだ。
周りがどよめいたことなど気づくこともなく、足はシャリオの家に向かっていた。
なるほど、裏口、裏口な。
洗濯が干してあるのならば、それを回収するために外に出てくるはずである。
そこに立っていれば、必ず会える。
その予想は間違ってはいなかった。いなかったが。
「な、な、なんで裸なんだ」
パニックから、彼を抱きしめて慌てて家に入った。
落ち着いてからよくやったと思った。誰かに見られるなんてダメだろう。
見てはいけないと思いながらも、視線は白い肌に釘付けになる。
「持ってる服を全部洗ったからだけど」
「全部洗う必要などあるまいに」
一度に全部洗おうだなんて、案外シャリオはズボラなのかもしれない。
着ていた薄手のコートを脱ぐと、シャリオの肌が見えぬよう包んだ。
「んー、でもここを引き払う前に、洗っておいた方がいいかなと思って。ここを出たら、この後いつ洗えるかわかんないじゃん」
ここを引き払う?
ここを出たら?
シャリオは何を言っているんだ?
私の前から、消えるということか?
いや、もっと町中に出るだけかもしれない。
「どこへ行くのだ?」
声が硬質に響いているのが、自分でもわかる。
シャリオは異変を感じたのか、腕の中で身動みじろいだ。
「まだ決めてないけど、海のあるとこまで行こうと思ってる」
海。海だと?
海の見える港町など、この領地には、ない。
「へえ」
気がつくと、シャリオを床に押し付けていた。
私から離れるなんて、許せない。
どこにも行けないように、足でも切り落としてしまうか?
「い、いたっ。ファガル?どうしたんだよ」
シャリオが動いて、前が開いた。
眼に映る、白い肌。
シャリオが私のことなど意識もしていないことは、その恥じらいのなさからも、よく伝わってきた。
シャリオにとって、私はその程度。
そんなこと、許せるはずがない。
12ではじめてシャリオを見つけてから、私の心はシャリオで埋め尽くされているのに、シャリオの心には欠けらも私はいないのか。
そんなこと、許せるはずがない。
刻みつけてやろう、私を。
決して忘られぬ思い出として、しっかりと。
とうとう冬の間、1度もシャリオの顔を見ることはなかった。
日課になったシャリオ家通いも、帰ってきてはぐったりと落胆し食事も喉を通らない様子に、周りが心配の色を濃くしているのには気づいていた。
そんなある日。
「ファガル様!シャリオの家で動きがありました。裏口辺りに洗濯が干してあります」
巡回していた側近が報せに走ってきたようだった。
なるほど。
丸々家から出ないなどという生活ができるわけもない。
シャリオは私の目から逃れるために、冬の間裏口を使用していたに違いない。
少なくとも中で倒れているわけではないと知り、笑みが浮かんだ。
周りがどよめいたことなど気づくこともなく、足はシャリオの家に向かっていた。
なるほど、裏口、裏口な。
洗濯が干してあるのならば、それを回収するために外に出てくるはずである。
そこに立っていれば、必ず会える。
その予想は間違ってはいなかった。いなかったが。
「な、な、なんで裸なんだ」
パニックから、彼を抱きしめて慌てて家に入った。
落ち着いてからよくやったと思った。誰かに見られるなんてダメだろう。
見てはいけないと思いながらも、視線は白い肌に釘付けになる。
「持ってる服を全部洗ったからだけど」
「全部洗う必要などあるまいに」
一度に全部洗おうだなんて、案外シャリオはズボラなのかもしれない。
着ていた薄手のコートを脱ぐと、シャリオの肌が見えぬよう包んだ。
「んー、でもここを引き払う前に、洗っておいた方がいいかなと思って。ここを出たら、この後いつ洗えるかわかんないじゃん」
ここを引き払う?
ここを出たら?
シャリオは何を言っているんだ?
私の前から、消えるということか?
いや、もっと町中に出るだけかもしれない。
「どこへ行くのだ?」
声が硬質に響いているのが、自分でもわかる。
シャリオは異変を感じたのか、腕の中で身動みじろいだ。
「まだ決めてないけど、海のあるとこまで行こうと思ってる」
海。海だと?
海の見える港町など、この領地には、ない。
「へえ」
気がつくと、シャリオを床に押し付けていた。
私から離れるなんて、許せない。
どこにも行けないように、足でも切り落としてしまうか?
「い、いたっ。ファガル?どうしたんだよ」
シャリオが動いて、前が開いた。
眼に映る、白い肌。
シャリオが私のことなど意識もしていないことは、その恥じらいのなさからも、よく伝わってきた。
シャリオにとって、私はその程度。
そんなこと、許せるはずがない。
12ではじめてシャリオを見つけてから、私の心はシャリオで埋め尽くされているのに、シャリオの心には欠けらも私はいないのか。
そんなこと、許せるはずがない。
刻みつけてやろう、私を。
決して忘られぬ思い出として、しっかりと。
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