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番外編

1話 無事に終わったと思ったら終わってなかったって話

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学院を卒業した頃だったか、王太子殿下から学院の非常勤講師として力を貸して欲しいと話を持ちかけられたのは。
僕とオースティンとの婚姻に向けて頻繁に王都に出向いていたこともあって、僕はそれを受け入れることにした。
それから年の3分の1を、僕は魔術語の講師として、オースティンは剣の指導者として学院で過ごすこととなった。

そして今年、ユジリスが入学してくる。
メロディから聞いたところによると、ユジリスはゲームの世界では第2期の悪役として主人公と対峙する役割であったらしい。
まさかメロディのゲーム世界と僕のゲーム世界が兄弟チームの開発モノだったとは知らなかった。
世界観のベースが似通っていたことで混ざったのではないか、というのが彼女の見解だ。
ただしメロディはこちらのゲームはやったことがなく、SNSでの話題程度にしか知らないそうだ。

けど、ユジリスは悪役が全く似合わない素直な人間として成長したからな。
僕もゲームの世界の影響は受けながら、それでもゲームの世界とは違う人生を歩んでいる。
だからユジリスも、本人の努力次第で自分らしい人生を歩むことだろうとは思っている。
父上とマリアの間に弟妹も新たに生まれたことだし、ゲームの世界とは違う世界になったのだから。

まあでも、若干の心配をすることは許してほしいところだ。
別にそういう事情がなくとも、親というのは子供の将来を心配するものだからな。
……実際には弟なんだけど。

「ナローエ先生!」
掛けられた声に振り向くと、そこには異国の衣装を身に纏った少年がいた。
「シチスト様。また抜け出してきましたね」
頭を下げて迎えたものの、普段側に控えている供が見当たらない。

彼はこの国セイレーンの隣国、アヴィンド帝国の皇子だ。セイレーンの初代王が精霊の加護を得るまではこの国もアヴィンド帝国の一部だった。
今も同盟国として最も重要な国だ。
つまり無碍にはできない相手というわけ。

「先生、そんなにかしこまらなくてもいいですよ。僕は国に帰れば特に相手にもされない人間です」
確かにシチストは継承順位が低いからこそ、こんなにまったりと物見遊山が許されているのだろうとは思うが。

「君の主観と他の人の思惑が違うことは往々にしてありますからねえ」
周囲が画策して、あるいは主要な人物が消されたりしてその地位が転がってくる可能性はゼロではない。
その時になって青ざめることになるよりは、最低限、礼儀を尽くしておく方が無難だろう。
事実、シチストの兄は2人ほど暗殺されているといううわさだ。

「そんな迷惑なことを考える身内なんかおりませんよ」
「だといいですね」
「先生!」
シチストが帝位を望んでいないと知りながら軽口を叩くと、彼が慌てた。
確かに誰かに聞かれたらヤバい話題ではあった。
軽率だったかなと内心反省をしていると、シチストがちょっと膨れっ面になっている。
僕が揶揄っただけということがわかっていたようだ。

「僕がそういうことになることはあり得ないし、兄上次第では何の価値もなくなるどころかこの身分がただの迷惑な荷物になるだけだと知っているでしょう?先生は意地悪です」
うーん、シチスト君、案外本気で不安だったりもするのかな。

「それであれば自分に価値をつけるだけではないですか。幸いシチスト様はセイレーンにおいでですからね。国にはない、身を助けるような知識を充分に身につけたらよろしいですよ」
代替わりで処刑されないくらいの利用価値を、手に入れればいい。

なんというか、悪役の自分達ではなくともその生涯を全うするというのは難しいものなんだな。
いや、そんなことは僕自身が知っているじゃないか。
前世の僕は、ただの平凡ないち市民だったのに、老衰で死ぬことは叶わなかったのだから。

「そうなりたいとは思ってますけどね」
遠い目で空を仰ぐ彼を見れば、それを難しいと思っている様子が伺えた。
「例えその身が堕とされても、苦労して身につけた知識は誰にも奪えないその人だけの財産となります。あちらがいらないと言うなら、こちらが欲しいと思えるようになっていればよいだけですよ」
「先生?」
誰に伝えるわけでも無いよう小さく呟けば、シチストの目が見開かれていた。



「先生!これ、以前先生が好きだっておっしゃってた干緑茶です」
干緑茶は前世で言うところの煎茶だ。
この国にはあまり流通していない。
「ああ、うん。とても美味しいよ、ありがとう」

しかし……なんでか、懐かれた。
授業が終わると茶会が用意されもてなされるようになったのだ。
「先生、今日の授業も素晴らしかったですね」
「あはは、ありがとう」
「先生、先生はどこであのような知識を身につけられたのですか?」
さて、どう言ったものか。
聞かれた時のために一応答えは用意してあるのだが、納得してもらえるかはわからない。

「あー……、僕は小さい時身体が弱くてね、外で遊ぶことは叶わなかったからよく本を読んでいたんですけどね。本はそれなりに貴重でしょう?家にあるモノは読み飽きてしまいましてね」
シチストがうんうんと頷くところを見ると帝国でも本は貴重なんだろう。

「そのうちには魔術語を時間をかけて解読するのが楽しくなってしまったのですよ。幸いなことに、途中からは龍の幼生せんせいもいてくれましたから」
つまり、なんでも『龍のせい』作戦だ。

「なるほど!先生が龍を手なづけた事件は有名ですもんね。あれ?でもそれって卒業する1年くらい前のお話ですよね」
「あ、うん」
そうですよねー。
やっぱり時期的に無理がありますよねー。
僕が入学当初から魔術語が堪能だったのも有名だもんな。
セイリュウ達以外にも契約している幼生達がいることは、限られた人しか知らないし。
ん、詰んだ。

「ってことは、先生は龍と出会う前には随分お一人で研究されていたんですね」
「そ、そうなるのかな、ははは」
「はー、すごいですねえ」
あ、あれ?
なんとか誤魔化せた感じ?

「それでしたら殿下」
「ん?どうした?マホエン」
背中に汗をかきながらシチストと談笑していると、シチストの側近の1人が話に入ってきた。
随分と珍しい。

「ナローエ先生に 火焔鳥フェニックスの孵化についてご協力を仰いではいかがでしょう」
「火焔鳥?」
なんか、既視感がある…………って、ああああああっ!!

火焔鳥ってアレじゃん!
オースティンが龍を倒すために契約する火の鳥じゃん!
なんで忘れてたんだよ、僕!

「先生、帝国では近年護り神である火焔鳥が孵化せず国力が低下しているのです」
そ、そりゃあそうだよね。
オースティンと君の兄上ダンスリーが協力者を探し出して、火焔鳥の謎を解き明かすんだもんな。
そこに気がつくはずのオースティンが彼と出会わないならば、火焔鳥も眠ったままなんだ。

「我が国が周辺の新興国なんかに負けるはずもありませんが、小競り合いが増えればそれなりに負担となります」
僕はそれに頷きながら肝が冷えるのを感じていた。

僕は、僕のことしか考えていなかった。
僕のせいで多少世界が変わったとしても、歴史までも変わるという可能性は最初から考えてもいなかった。
僕らのせいで彼らがどんな大変な結果になっているのか、把握して対処しなければならないのではないか?

「国中を、火焔鳥さえ羽ばたいていればヤツらの思い通りになどさせないものを……。先生!」
「ひゃ、ひゃい」
「火焔鳥を孵化させるための知恵をお貸しください!」

「も、もちろんですよ、シチスト様」

僕にこれ以外の答えなんかあるはずもなかった。





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明けましておめでとうございます
月に1話2話書けたらなーと思っております
気長にお付き合いいただけたら嬉しいです
今年もよろしくお願いします!
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