上 下
53 / 55
番外編

フィリオルの独白

しおりを挟む
スランプに片足を突っ込んでるのは否めないのですが、只今連続出張中でして
『家事やらなくていいってことは夜めっちゃ書けるのでは?』
と思ってましたら、都会はもう夜のお誘い(酒)OKなのですね
水場、飲み始めると2ℓくらいビール飲んじゃうもので、ちょっと書けない状況が続いております
ということで、すごい昔に書いたどこに入れたらいいのかわからない閑話を挟ませてください
本当、すみません


ーーーーーーーーーー





全ての引き継ぎは終えてあった。
混乱は何も起きなかった。

毒杯を呷りこと切れたであろうハゥビッセの腕の中で、リグリアンが眠るように亡くなっていたのが発見されたのは今朝のことだった。

「まさか子の方が先に逝くことになろうとは」

10年前、王が代替わりしたのを機にハゥビッセが長子ドゥワンドに家督を譲った。
無理が祟って自力で歩くことの難しくなったリグリアンを支えるためにだ。

一族の誰も、それに否をとなえる者はいなかった。
それもそのはず。

「お祖父様、どうされました?」
「あぁ、ドゥワンドか。ハゥビッセは最後まで自慢の息子だったと思ってな」
「っ!そうでしょうか……」
其方が理解できないのは致し方ない。





ディズラム家の5男であった私は、例え公爵家の子であったとしても家を継ぐ可能性は無いに等しかった。
武でも文でも特に秀でたところもなく、ただ悠々と人生を謳歌するつもりであった。
自身の地位も高くは無く、生涯所帯を持つこともないであろうと考えていた。

故に国を離れ遊学に勤しみ、他国の情報を兄に伝えるためのただの一族の一員として、その日その日を優雅に暮らしていたのだ。


私が17の時だ。

突然、父の従兄弟が父に反旗を翻した。
30年以上もの間、諾々と従うように見せていた彼が、実力を身につけ、父の庇護下から抜け出す時を虎視眈々と待っていたらしい。

父は『精霊の祝福』を持って生まれてきた、正当なディズラム家の後継者であった。
そして彼は、父に万が一の事が起きた時の代替スペアとして、父が生まれた3年後に『精霊の祝福』を持って生まれてきたのだ。
ただし代替は正統な後継者よりは数段劣り、覚醒も遅いのだとか。

『精霊の祝福』が誕生した時には、必ず『代替』も生まれる。
『代替』は正当な後継者にとって唯一の『人間』だ。
他は人の形をした『駒』でしかないという。
子である私も、父にとってはただの『駒』だったと理解していた。
そしてそれに疑問など持たないほど、それを当たり前のこととして受け入れていた。


従兄弟とはいえ彼は遠方にいたため、父と顔を合わせたのは学院に入る年だったという。

そこで父は彼を己の唯一だと気づいたのだ。
囲い込みは残酷で、彼の気を引く者は父によって様々な報復を受けた。
周囲からは次第に彼が孤立するかと思われていたようだが、そうはならなかった。

彼が父の執着を受け止める余裕を見せたからだ。
どうすれば父の機嫌を取れるのか。
どうすれば他に被害が及ばないのか。

彼もまた人を使うことに長けている加害者魅了持ちだったわけだ。
が、そんな風にしながら力を蓄えた彼が父に逆らった結果、それぞれに心酔する者達がぶつかり合うこととなった。
それは今もディズラム家の集団心中事件として我らの胸の奥に深い傷となって残っている。

およそ7割の一族が巻き込まれたそれで、私の兄弟は誰一人として生き残らなかった。
それであるのに不思議とディズラム家の影響力は落ちず、精霊という、私には決して感じられない力は確かに存在するのだと理解することとなった。

だからこそ。

『唯一』の死に、巻き込まれたのが己のみという事実を誇りに思うのだ。

「ドゥワンド、お前にはわからぬかもしれんが、ハゥビッセは……お前の父は、父なりに家族を大切にしていたよ」
「そうでしょうか」
「ああ、私たち家族が1人も欠けることなく存在している……それは私にとっては奇跡そのものだと思えるほどに」
「そういえば……お祖父様の代は一族が半減したのでしたね」
「ああ」
その言葉で、ドゥワンドがハゥビッセを理解しようと僅かに受け入れたことを感じる。

戦友と呼ぶ妻に他の全てを放り投げることで、妻子を支配下に置くことを止めていた。
その命を奪うことなく、思考に自由を与えていた。

「お前達を人として見ようと、ハゥビッセなりに努力していたのだ」
使えるモノは使う。
ハゥビッセにとって、近くに侍る人間は精霊の力によって逆らわない駒として動かせるのだから。
ただ1人の主人として心酔しその身を捧げる。
ある意味残酷なその干渉は、家族には及んでいなかった。
それはドゥワンドが父からの愛情を欲して寂しく思う、その感情が存在していることでわかるだろう。
それは当時の私にはなかったモノだ。

「いつか、いや、もしかしたらお前の子が『精霊の祝福』を持って生まれてくることもある。その時に知識がなくては、一族がまた半減することが起こるやもしれん。私の父の時のようにな」

「お祖父様、精霊の加護者の……いえ、父上の話を教えてください」
「ああ、いいだろう」

こうしてハゥビッセの追悼の夜は静かに更けていった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

BLゲームのお助けキャラに転生し壁を満喫していましたが、今回は俺も狙われています。

mana.
BL
目が覚めたらやり込んでいたゲームの世界だった。 …と、いうのが流行っているのは知っていた。 うんうん、俺もハマっていたからね。 でもまさか自分もそうなるとは思わなかったよ。 リーマン腐男子がBLゲームの異世界に転生し、何度も人生をやり直しながら主人公の幼馴染兼お助けキャラとして腐男子の壁生活を漫喫していたが、前回のバッドエンドをきっかけで今回の人生に異変が起きる。 ***************** 一気に書き上げた作品なのでツッコミどころ満載ですが、目を瞑ってやって下さいませ。 今回もR18シーンは☆を入れております。 写真は前に撮った写真です。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【R18】満たされぬ俺の番はイケメン獣人だった

佐伯亜美
BL
 この世界は獣人と人間が共生している。  それ以外は現実と大きな違いがない世界の片隅で起きたラブストーリー。  その見た目から女性に不自由することのない人生を歩んできた俺は、今日も満たされぬ心を埋めようと行きずりの恋に身を投じていた。  その帰り道、今月から部下となったイケメン狼族のシモンと出会う。 「なんで……嘘つくんですか?」  今まで誰にも話したことの無い俺の秘密を見透かしたように言うシモンと、俺は身体を重ねることになった。

処理中です...