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26話 なんか、すみません
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「ぐっ!」
「ナローエ様!!」
今のは痛かった!
治癒系の魔道具が一斉に発動したし、致命傷だったのかもな!
すっごい魔力使ったし!!
龍があちこちに動き回るせいで、殿下達も結局逃げられていない。
もうみんなで龍が疲れて倒れてくれるのを待っている状況だ。
龍が疲れて倒れるのが先か、僕らが疲れて倒れるのが先か。
……まあ、僕の方が体力はないんだよな。
魔力を纏って肉体強化しててもこの有様だし。
『主人様、今なのにゅー!』
『やるみゅ!やるみゅ!』
「な、何をやるんだ?」
突然髪の下から現れたクロとナミに、緊張感を持っていかれた。
『影部屋に足をちょっとだけ引き込むにゅ!』
『父上様が押さえていてくれるうちにやるみゅ!』
な、なるほど。そういうことか。
「け、けど、また動き出したよ!」
ちょっと遅かった。
父上も疲弊してきているし、もっと早くに教えてもらえばよかったよ。
そうだよ!龍の弱点とか!
『主人様、どんくさいにゅ』
『そんなの今に始まったことじゃないみゅ』
『そうだったにゅ』
ど、どんくさいて。
なんだか一気に気が抜けた。
いや、抜いちゃダメなんだけどな。
「あははは、ナローエ様、龍を力尽くで地面に押さえつければいいわけですね」
「そうみたいだな」
近くで会話を聞いていたオースティンからも悲壮感が消えていた。
なんだかリラックスモードで余裕さえ見える。
そもそもが今までも致命傷をすぐ治す魔道具もあるし、そんなに危機迫ってたわけじゃないんだけどさ。
龍の攻撃のひとつひとつがダメージありすぎて、魔力をグイグイ使ってくれるもんだから、僕はともかく、オースティンと父上の魔力枯渇が気にはなってたんだよ。
心配だったのはそのくらい。
オースティンは僕をその場に下ろすと龍に向かって駆け出した。
オースティンと父上は魔道具を持ってるから大丈夫ってことで!
「ふぅんっぬ!!」
大鎌を振り下ろすと、盛大にこれでもかという氷を作り上げてみた。
あ、うまいこと右足が埋まってくれたみたいだ。
ラッキー。
ちょうど父上が体当たりで後ろ足を押さえ込んでいてくれたのもよかったんだろう。
「うおおおぉぉおおお!!!」
そこにオースティンが尾を狙ってダイブした。
これで3点が固定されて、龍の動きが一瞬止まった。
『今にゅ!我は右足いくにゅ!』
『我は父上様の押さえた足をやるみゅ!』
「じゃあ、僕はオースティンのところをやるからな」
クロとナミの合図で、僕と2匹が一斉に影部屋へと引き込む。
集中しないと、龍がデカ過ぎて意識が飛びそうだ。
影部屋を広げるの、めっちゃ魔力いるじゃん!
ズズっと動いて、踏ん張るために龍が地につけた残りの足を、ルルーとアンが引き込んでくれた。
よし、固定完了っと!
『んじゃ、主人様にゅ』
「なんだい?」
『我ら、仲間を説得してくるみゅ!』
「大丈夫なのか?」
あの子、ものすごい大きいし、めっちゃ怒ってるぞ。
仲間同士なら、戦いになったりしないのかな?
『我ら、主人様に感謝してるにゅ。主人様のおかげで、物を投げられたり、殴られたり、しなくなったにゅよ』
「そうか?それなら良かったけどな」
で、なんで今、その話?
『だからきっとあの龍も主人様のこと、気に入るみゅ!』
ん?
『後は主人様、まかせたにゅ!どーんとド派手に契約てにゅ!』
『そうそう、あそこのアホな人間に見せつけてやるみゅよ!』
☆
暴れ回っていた動きが鎮まり、興奮して赤紅く染まっていた瞳が元の色だと思われる青色に変わっていた。
鬣も髭も青っぽい黒だ。
そしてなんと鬣の中には白いワニも隠れていた。
第3形態はワニだったか。もちろん尻尾は長いけど。
てことは、黒い方だけが襲われ続けたってことでもあるわけだ。
ん、クロシオ達の説得が、効いたかな。
「なんだ?急に大人しくなったな」
蜥蜴とのやり取りがわからない父上は、まだ戸惑ったように龍にしがみついたままでいる。
「この龍の理性が戻ったみたいですよ」
「なぜ急に?ん?待てよ…………と、すると、龍はこのままか?自滅しないってことになると、また馬鹿共が龍を倒すとかほざいて討伐隊など引き連れてきそうだなあ」
あ、それもあるのか。
第3王子とかの騒ぎを見ていた父上は不安になったらしい。
いや、僕も不安になるわ。
龍のグルグルと鳴く声が、僕に何かを伝えようとしているようだが、契約していない今はわかってやれないのだ。
「父上、1つだけいい案があるのですが、試してみてもよろしいですか」
「うむ、ここまで来たのなら、やれることはやってみるといいだろう」
うん、ここはクロ達が言ってたみたいに、少し大袈裟にあの龍を取り込む必要があるわけだな。
そ、そっか。
恥ずかしくても厨二的な感じで行くしかない……か。
降りて来い、僕の厨二心!
よ、よし、いくぞ!
「我が名はナローエ ユンス ビジジュール!其方らを我が名によって、使役する!」
派手に傷ついていた両手を口の前に差し出すと、2匹はそれをペロリと口にした。
それを見て父上が慌てふためくのを、オースティンが羽交い締めにして止めている。笑える。
確かに僕が龍にパクリと食われるかと思うよな。
でも龍って全く肉食わんのよ。
草食なの。
自分がいっぱい食べるために、果樹を育てるのが上手いんだよ。
さて、まだ契約は済んでないからな。
あー、どうするかなあ。
少し考えて名前をつける瞬間を他人に聞こえないように小さく呟いた。
「汝らの名はセイリュウ、ハクリュウ」
もう見た目そのまんま!
だって浮かばないんだもん!
ごめんな!
2匹がぶわりと光って、契約が成立した。
『助けてくれて、ありがとセイ』
『どうなることかと思ったハクよ。本当にありがとうハク』
2匹はそう言うと、ポンッと影部屋に消えた。
「ナ、ナローエ、一体なにが……」
父上がめっちゃ驚いてる……が、ぐぬぬぬ、デカい影部屋、マジ魔力食う。
「くっ、は、はぁはぁ」
何か言おうと思ったのに、今は無理!
「ナローエ様、大丈夫ですか!」
『う、うん。なんとか』ってのを頷くことで伝える。
オースティンが、魔力の急な喪失で膝をついた僕に慌てて駆け寄った。
僕の場合、すぐにじわじわと魔力が補充されるから、大丈夫なんだけどな。
それがオースティンにもわかったんだろう。やっと笑みが浮かんだ。
「はあ、ナローエ様、疲れましたね」
「本当に、なあ」
でも、終わったんだよなあ。
☆
もう日も暮れていて、そこら中に折れて砕けていた木が落ちている。それを集めると、殿下の護衛の中にいた魔導師が火をつけてキャンプファイヤー状にしはじめた。
周囲を凍らせ過ぎてたから、皆この暖かさをありがたいと思っていることだろう。
僕のおかげで命拾いしたわけだから、僕に遠慮してそんなこと言えないだろうけど。
「ひとまず休む場所を確保しましょう」
徐々に落ち着いてくると、ビジジュール兵が休む場所を作る為に何か使えるものはないかと動き出した。
部下さん達な、父上につきっきりなんだよ。
父上ホント、一体どう思われてんのよ。
そういや、逃げる際に放り捨てたテント類を影部屋に回収してたんだよな。クロとナミが。
「あー、龍が回収してくれた荷物があるけど、使えそう?」
とか言って、おかしな現象を謎だらけの龍のせいにしてそっと取り出して置いてみた。
僕はあの龍の使役者だと認識されたからな。
「な、なんと!べ、便利ですな、龍の力は!感謝します!」
もう、俺に対する態度が化け物に対する態度になってるよ!
得体のしれない腫れ物扱いだな!
別にいいけど。
今度は学生達も先生や兵士に指導を仰ぎながら、手伝いをしているようだ。
次々と組み立てられていく天幕に、なんか、ようやく終わったんだなと、どっと気が抜けた。
ちゃんと寝れるとは思ってなかったからさ。
「ナローエ、ご苦労だったな」
みんなが火を炊いたり寝床を作ったり食事の支度をしたり……。
そんな中、全てを免除された僕とオースティンがぼけーっとキャンプファイヤーを眺めていると、王太子殿下がやってきて近くに腰掛けた。
「あ、はい。ご無事で何よりです、殿下」
「貴殿らのおかげだ。感謝する」
うん、本当にな。
ここは謙虚になる必要はないと返事を返そうとしたら、僕の後ろから、にょきっと顔だけを出したセイが殿下の匂いを嗅いだ。
一気に高まる緊張感。
『この人、ラガーンに似てるセイ』
「ラガーン?」
ラガーンてなんだ?
「なんだ?お爺様のことか?」
セイの言葉を拾った僕に、殿下が応えた。
「ああ、前王様はラガーン様とおっしゃるのでしたね。セイ……この子の名前なのですけど、セイが言うには、殿下と前王様が似てるそうです」
「ははは!そうか!」
殿下が笑ったことで、周囲の空気が緩んだ。
こちらを気にしてはいるようだが、また元の作業の続きを始めた。
『あ!そういえば我らを襲ってきた人間を森の中に叩きつけて放置したままだったセイ』
僕の肩に頭を乗せ、僕にすりすりしながら教えてくれるセイ。
顔デッカ。
「あ、そうなの?」
「ナローエ、どうした?」
「あ、はい。セイが言うには、森の中にセイ達を襲った人間を放置してきたとのことです」
「あ!……そういえば忘れてたな」
殿下…………。
「どこにいるかわかるのか?」
『わかるセイ。ちょっと待っててセイ。連れてくるセイ』
「わかるみたいです。連れて来てくれるみたいですよ」
「それは助かる。たとえ遺体でも、ないよりはいいだろうからな」
「そうですね」
学生の実習で死者とか出したくなかったけど、こればかりは仕方ない。
暫くすると、セイが背中に彼らを乗せて飛んできた。
空に現れたセイに、またピリッとした空気が流れたけども、その背にリグリアン達を見つけて微妙な雰囲気になった。
セイが降りてくると、教師が駆け寄った。
遠目には分からなかったが、生きている。
それを見ている誰もが、静かに見届けていた。彼らが重傷だとわかるからだろう。
この騒動を起こした当人達に言いたいことは山ほどあるけども、奇跡的に死者はいなかったわけで、満身創痍で息もロクにできていない人間に対して、暴言を投げつける者はいなかった。
「魔導師!」
「は!」
「彼らに手当てをしろ!だが、完全に治すことは許可しない。死なない程度に治癒を施しておけ」
「は!」
確かに、この状態を見れば同情もするが、何もなかったかのように許されるのもきっと違う。
それに、彼らを完治させてしまえば、今度は陰口が、恨みがどこからか湧いて出る筈だ。
何も言ったりしないことが、イコール何も思っていないわけではない。
そのぐらい、皆、死を覚悟した瞬間があっただろうから。
きっとこれは、王太子殿下の優しさなんだろうな。
だってこんな騒動を起こして、どの面下げて帰れるんだ。
けれどこの姿を見れば、家族もただ責めて放り出すなんてことはできないだろう。
王太子の優しさに彼らが気づくことはないかもしれないが。
いや、さすがに気づくよな?
☆
火の周りでは再び宴が始まっていた。
「我ら、間引く程度にしか魔物は狩らぬのよ」
「そうそう、自分と養う者が食えるだけしかな」
「狩りを生業としている猟師や冒険者もおるからな。その者達の生活を脅かしてはいけないのだ」
「どうしても驚異になる大きなもののみ狩るから感謝もされるのだぞ」
「そもそも駆逐してしまうと、生態系が崩れるからなあ」
酒に酔ったビジジュールが説教くさい管を巻いている。
話を聞く学生も、朝と比べると割と真剣に聞いているみたいだ。
今回の実習で、ちょっとは感じるものがあったんだろう。
僕ならこんな面白くない酒の話なんか聞きたくないけど。
☆
「……ナローエ様」
お腹も満たされて宴も酣になった頃、オースティンが熱い息を吐き出した。
あ、魔力が揺らいでる。
「オースティン、つらいか?」
「はい」
まだみんな盛り上がってるけど、先にテントに戻らせてもらおう。
そういえば、父上の姿もない。
僕らは今日疲れてるから、見張りも免除されているからな。
「殿下、僕らは先に下がらせていただきます」
「そうだな。今日は疲れただろう。明日は帰らねばならぬからな。ゆっくり休んでくれ」
挨拶も済んで、さあ行くかと立ち上がった時、オースティンの前に塊が飛び込んできた。
「オースティン様!これ、僕が用意した高級なポーションです。飲んでください!あ、あと、その後のお手伝いも僕、します」
そう言った子犬みたいな彼が、僕を横目でチラチラ見ながら小瓶を差し出した。
うん、そうか。
オースティンて、男にもモテるのか。
…………初めて知った。
微妙にショックだ。なんか、ヤダ。
「いらねえ」
なんていうか、オースティンのこういうところ、キュンとする。
とか思ってたら、急に腰を引き寄せられてからのそのままディープキス!!
ここ、公衆の、面、前!!
アホー!!
殿下もいるんだぞ!!
「んっ、んむ、あぅぅ」
抗議が言葉にならない。
めっちゃ吸われてるし、オースティンの魔力、やっぱ足りてない感じか?
ていうか、そんなエロエロしいキスされたら勃っちゃうだろー!
ここ、めっちゃ人いるの、わかってる?!
もう僕、顔上げらんない。恥ずか死ぬ。
「やっぱり魔力の補充すんのはナローエ様からが1番馴染むの早えんだよな」
さ、さようですか。
てか、なにそのエロゲみたいなの。
体液に魔力が含まれてるのは知ってたけどさ。
僕が魔力尽きない電池向きなのは確かだけどさ。
「あ、あー、オースティン、その、ナローエが目の毒だ。風紀の乱れはよくない。貴殿らの天幕にさっさと戻れ」
「あ、はい。ありがとうございます。じゃあ失礼します」
これさ!
これ、今からやることバレてない?!
僕、自分のそういうの、公表する性癖持ってないんだけど!
もう、ヤダ!!
ーーーーーーーーーー
好感度が上がると魔力の親和性が高くなるのは、メロディちゃんのゲーム世界の設定です
今日はもう1話(エロいのが)あります
なんか、すみません
「ナローエ様!!」
今のは痛かった!
治癒系の魔道具が一斉に発動したし、致命傷だったのかもな!
すっごい魔力使ったし!!
龍があちこちに動き回るせいで、殿下達も結局逃げられていない。
もうみんなで龍が疲れて倒れてくれるのを待っている状況だ。
龍が疲れて倒れるのが先か、僕らが疲れて倒れるのが先か。
……まあ、僕の方が体力はないんだよな。
魔力を纏って肉体強化しててもこの有様だし。
『主人様、今なのにゅー!』
『やるみゅ!やるみゅ!』
「な、何をやるんだ?」
突然髪の下から現れたクロとナミに、緊張感を持っていかれた。
『影部屋に足をちょっとだけ引き込むにゅ!』
『父上様が押さえていてくれるうちにやるみゅ!』
な、なるほど。そういうことか。
「け、けど、また動き出したよ!」
ちょっと遅かった。
父上も疲弊してきているし、もっと早くに教えてもらえばよかったよ。
そうだよ!龍の弱点とか!
『主人様、どんくさいにゅ』
『そんなの今に始まったことじゃないみゅ』
『そうだったにゅ』
ど、どんくさいて。
なんだか一気に気が抜けた。
いや、抜いちゃダメなんだけどな。
「あははは、ナローエ様、龍を力尽くで地面に押さえつければいいわけですね」
「そうみたいだな」
近くで会話を聞いていたオースティンからも悲壮感が消えていた。
なんだかリラックスモードで余裕さえ見える。
そもそもが今までも致命傷をすぐ治す魔道具もあるし、そんなに危機迫ってたわけじゃないんだけどさ。
龍の攻撃のひとつひとつがダメージありすぎて、魔力をグイグイ使ってくれるもんだから、僕はともかく、オースティンと父上の魔力枯渇が気にはなってたんだよ。
心配だったのはそのくらい。
オースティンは僕をその場に下ろすと龍に向かって駆け出した。
オースティンと父上は魔道具を持ってるから大丈夫ってことで!
「ふぅんっぬ!!」
大鎌を振り下ろすと、盛大にこれでもかという氷を作り上げてみた。
あ、うまいこと右足が埋まってくれたみたいだ。
ラッキー。
ちょうど父上が体当たりで後ろ足を押さえ込んでいてくれたのもよかったんだろう。
「うおおおぉぉおおお!!!」
そこにオースティンが尾を狙ってダイブした。
これで3点が固定されて、龍の動きが一瞬止まった。
『今にゅ!我は右足いくにゅ!』
『我は父上様の押さえた足をやるみゅ!』
「じゃあ、僕はオースティンのところをやるからな」
クロとナミの合図で、僕と2匹が一斉に影部屋へと引き込む。
集中しないと、龍がデカ過ぎて意識が飛びそうだ。
影部屋を広げるの、めっちゃ魔力いるじゃん!
ズズっと動いて、踏ん張るために龍が地につけた残りの足を、ルルーとアンが引き込んでくれた。
よし、固定完了っと!
『んじゃ、主人様にゅ』
「なんだい?」
『我ら、仲間を説得してくるみゅ!』
「大丈夫なのか?」
あの子、ものすごい大きいし、めっちゃ怒ってるぞ。
仲間同士なら、戦いになったりしないのかな?
『我ら、主人様に感謝してるにゅ。主人様のおかげで、物を投げられたり、殴られたり、しなくなったにゅよ』
「そうか?それなら良かったけどな」
で、なんで今、その話?
『だからきっとあの龍も主人様のこと、気に入るみゅ!』
ん?
『後は主人様、まかせたにゅ!どーんとド派手に契約てにゅ!』
『そうそう、あそこのアホな人間に見せつけてやるみゅよ!』
☆
暴れ回っていた動きが鎮まり、興奮して赤紅く染まっていた瞳が元の色だと思われる青色に変わっていた。
鬣も髭も青っぽい黒だ。
そしてなんと鬣の中には白いワニも隠れていた。
第3形態はワニだったか。もちろん尻尾は長いけど。
てことは、黒い方だけが襲われ続けたってことでもあるわけだ。
ん、クロシオ達の説得が、効いたかな。
「なんだ?急に大人しくなったな」
蜥蜴とのやり取りがわからない父上は、まだ戸惑ったように龍にしがみついたままでいる。
「この龍の理性が戻ったみたいですよ」
「なぜ急に?ん?待てよ…………と、すると、龍はこのままか?自滅しないってことになると、また馬鹿共が龍を倒すとかほざいて討伐隊など引き連れてきそうだなあ」
あ、それもあるのか。
第3王子とかの騒ぎを見ていた父上は不安になったらしい。
いや、僕も不安になるわ。
龍のグルグルと鳴く声が、僕に何かを伝えようとしているようだが、契約していない今はわかってやれないのだ。
「父上、1つだけいい案があるのですが、試してみてもよろしいですか」
「うむ、ここまで来たのなら、やれることはやってみるといいだろう」
うん、ここはクロ達が言ってたみたいに、少し大袈裟にあの龍を取り込む必要があるわけだな。
そ、そっか。
恥ずかしくても厨二的な感じで行くしかない……か。
降りて来い、僕の厨二心!
よ、よし、いくぞ!
「我が名はナローエ ユンス ビジジュール!其方らを我が名によって、使役する!」
派手に傷ついていた両手を口の前に差し出すと、2匹はそれをペロリと口にした。
それを見て父上が慌てふためくのを、オースティンが羽交い締めにして止めている。笑える。
確かに僕が龍にパクリと食われるかと思うよな。
でも龍って全く肉食わんのよ。
草食なの。
自分がいっぱい食べるために、果樹を育てるのが上手いんだよ。
さて、まだ契約は済んでないからな。
あー、どうするかなあ。
少し考えて名前をつける瞬間を他人に聞こえないように小さく呟いた。
「汝らの名はセイリュウ、ハクリュウ」
もう見た目そのまんま!
だって浮かばないんだもん!
ごめんな!
2匹がぶわりと光って、契約が成立した。
『助けてくれて、ありがとセイ』
『どうなることかと思ったハクよ。本当にありがとうハク』
2匹はそう言うと、ポンッと影部屋に消えた。
「ナ、ナローエ、一体なにが……」
父上がめっちゃ驚いてる……が、ぐぬぬぬ、デカい影部屋、マジ魔力食う。
「くっ、は、はぁはぁ」
何か言おうと思ったのに、今は無理!
「ナローエ様、大丈夫ですか!」
『う、うん。なんとか』ってのを頷くことで伝える。
オースティンが、魔力の急な喪失で膝をついた僕に慌てて駆け寄った。
僕の場合、すぐにじわじわと魔力が補充されるから、大丈夫なんだけどな。
それがオースティンにもわかったんだろう。やっと笑みが浮かんだ。
「はあ、ナローエ様、疲れましたね」
「本当に、なあ」
でも、終わったんだよなあ。
☆
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僕のおかげで命拾いしたわけだから、僕に遠慮してそんなこと言えないだろうけど。
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部下さん達な、父上につきっきりなんだよ。
父上ホント、一体どう思われてんのよ。
そういや、逃げる際に放り捨てたテント類を影部屋に回収してたんだよな。クロとナミが。
「あー、龍が回収してくれた荷物があるけど、使えそう?」
とか言って、おかしな現象を謎だらけの龍のせいにしてそっと取り出して置いてみた。
僕はあの龍の使役者だと認識されたからな。
「な、なんと!べ、便利ですな、龍の力は!感謝します!」
もう、俺に対する態度が化け物に対する態度になってるよ!
得体のしれない腫れ物扱いだな!
別にいいけど。
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次々と組み立てられていく天幕に、なんか、ようやく終わったんだなと、どっと気が抜けた。
ちゃんと寝れるとは思ってなかったからさ。
「ナローエ、ご苦労だったな」
みんなが火を炊いたり寝床を作ったり食事の支度をしたり……。
そんな中、全てを免除された僕とオースティンがぼけーっとキャンプファイヤーを眺めていると、王太子殿下がやってきて近くに腰掛けた。
「あ、はい。ご無事で何よりです、殿下」
「貴殿らのおかげだ。感謝する」
うん、本当にな。
ここは謙虚になる必要はないと返事を返そうとしたら、僕の後ろから、にょきっと顔だけを出したセイが殿下の匂いを嗅いだ。
一気に高まる緊張感。
『この人、ラガーンに似てるセイ』
「ラガーン?」
ラガーンてなんだ?
「なんだ?お爺様のことか?」
セイの言葉を拾った僕に、殿下が応えた。
「ああ、前王様はラガーン様とおっしゃるのでしたね。セイ……この子の名前なのですけど、セイが言うには、殿下と前王様が似てるそうです」
「ははは!そうか!」
殿下が笑ったことで、周囲の空気が緩んだ。
こちらを気にしてはいるようだが、また元の作業の続きを始めた。
『あ!そういえば我らを襲ってきた人間を森の中に叩きつけて放置したままだったセイ』
僕の肩に頭を乗せ、僕にすりすりしながら教えてくれるセイ。
顔デッカ。
「あ、そうなの?」
「ナローエ、どうした?」
「あ、はい。セイが言うには、森の中にセイ達を襲った人間を放置してきたとのことです」
「あ!……そういえば忘れてたな」
殿下…………。
「どこにいるかわかるのか?」
『わかるセイ。ちょっと待っててセイ。連れてくるセイ』
「わかるみたいです。連れて来てくれるみたいですよ」
「それは助かる。たとえ遺体でも、ないよりはいいだろうからな」
「そうですね」
学生の実習で死者とか出したくなかったけど、こればかりは仕方ない。
暫くすると、セイが背中に彼らを乗せて飛んできた。
空に現れたセイに、またピリッとした空気が流れたけども、その背にリグリアン達を見つけて微妙な雰囲気になった。
セイが降りてくると、教師が駆け寄った。
遠目には分からなかったが、生きている。
それを見ている誰もが、静かに見届けていた。彼らが重傷だとわかるからだろう。
この騒動を起こした当人達に言いたいことは山ほどあるけども、奇跡的に死者はいなかったわけで、満身創痍で息もロクにできていない人間に対して、暴言を投げつける者はいなかった。
「魔導師!」
「は!」
「彼らに手当てをしろ!だが、完全に治すことは許可しない。死なない程度に治癒を施しておけ」
「は!」
確かに、この状態を見れば同情もするが、何もなかったかのように許されるのもきっと違う。
それに、彼らを完治させてしまえば、今度は陰口が、恨みがどこからか湧いて出る筈だ。
何も言ったりしないことが、イコール何も思っていないわけではない。
そのぐらい、皆、死を覚悟した瞬間があっただろうから。
きっとこれは、王太子殿下の優しさなんだろうな。
だってこんな騒動を起こして、どの面下げて帰れるんだ。
けれどこの姿を見れば、家族もただ責めて放り出すなんてことはできないだろう。
王太子の優しさに彼らが気づくことはないかもしれないが。
いや、さすがに気づくよな?
☆
火の周りでは再び宴が始まっていた。
「我ら、間引く程度にしか魔物は狩らぬのよ」
「そうそう、自分と養う者が食えるだけしかな」
「狩りを生業としている猟師や冒険者もおるからな。その者達の生活を脅かしてはいけないのだ」
「どうしても驚異になる大きなもののみ狩るから感謝もされるのだぞ」
「そもそも駆逐してしまうと、生態系が崩れるからなあ」
酒に酔ったビジジュールが説教くさい管を巻いている。
話を聞く学生も、朝と比べると割と真剣に聞いているみたいだ。
今回の実習で、ちょっとは感じるものがあったんだろう。
僕ならこんな面白くない酒の話なんか聞きたくないけど。
☆
「……ナローエ様」
お腹も満たされて宴も酣になった頃、オースティンが熱い息を吐き出した。
あ、魔力が揺らいでる。
「オースティン、つらいか?」
「はい」
まだみんな盛り上がってるけど、先にテントに戻らせてもらおう。
そういえば、父上の姿もない。
僕らは今日疲れてるから、見張りも免除されているからな。
「殿下、僕らは先に下がらせていただきます」
「そうだな。今日は疲れただろう。明日は帰らねばならぬからな。ゆっくり休んでくれ」
挨拶も済んで、さあ行くかと立ち上がった時、オースティンの前に塊が飛び込んできた。
「オースティン様!これ、僕が用意した高級なポーションです。飲んでください!あ、あと、その後のお手伝いも僕、します」
そう言った子犬みたいな彼が、僕を横目でチラチラ見ながら小瓶を差し出した。
うん、そうか。
オースティンて、男にもモテるのか。
…………初めて知った。
微妙にショックだ。なんか、ヤダ。
「いらねえ」
なんていうか、オースティンのこういうところ、キュンとする。
とか思ってたら、急に腰を引き寄せられてからのそのままディープキス!!
ここ、公衆の、面、前!!
アホー!!
殿下もいるんだぞ!!
「んっ、んむ、あぅぅ」
抗議が言葉にならない。
めっちゃ吸われてるし、オースティンの魔力、やっぱ足りてない感じか?
ていうか、そんなエロエロしいキスされたら勃っちゃうだろー!
ここ、めっちゃ人いるの、わかってる?!
もう僕、顔上げらんない。恥ずか死ぬ。
「やっぱり魔力の補充すんのはナローエ様からが1番馴染むの早えんだよな」
さ、さようですか。
てか、なにそのエロゲみたいなの。
体液に魔力が含まれてるのは知ってたけどさ。
僕が魔力尽きない電池向きなのは確かだけどさ。
「あ、あー、オースティン、その、ナローエが目の毒だ。風紀の乱れはよくない。貴殿らの天幕にさっさと戻れ」
「あ、はい。ありがとうございます。じゃあ失礼します」
これさ!
これ、今からやることバレてない?!
僕、自分のそういうの、公表する性癖持ってないんだけど!
もう、ヤダ!!
ーーーーーーーーーー
好感度が上がると魔力の親和性が高くなるのは、メロディちゃんのゲーム世界の設定です
今日はもう1話(エロいのが)あります
なんか、すみません
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色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
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俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
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ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
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推しの完璧超人お兄様になっちゃった
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『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
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ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
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第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
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初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
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